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傷つく力 ―「傷ついた人ほど、優しくなれる」には条件がある。

「傷ついた人ほど、他人にやさしくなれる。」と言われます。

これには、おおむね同意するところがあるのですが、
ただし、条件があると思っています。

それは、文字通り本人が「自分は傷ついたのだ。」と自認することです。

傷を自認せずに、傷を抑圧すると、その分、他人を傷つけます。
抑圧した感情から逃れるために、怒りや暴力という形で表出したり、他人からみれば理不尽なふるまいを無自覚にしてしまう。
そして、そのことには無自覚です。

そういう人は、他人の被害の声を「そんなことくらいで何言ってるの?」と言います。自分が傷つくことを否定し抑圧しているので、傷つくことが理解できないからです。

これはセクハラ告発で女性被害者が声を上げたときに、加害した男性が、被害者に言うこともありますが、同じような立場にいる女性からも「そんなことで文句言うな」などという声が上がることもあります。それは、傷を抑圧しているからです。

ステレオタイプな男性像は、傷つく=弱い=男ではない。

ステレオタイプな男性像では、傷つくことは、弱いことであり、男ではない。ということになっています。

傷ついたことを表明すれば、それは「女々しい」として非難されます。そういう環境にいると、自分の感情とつながることができず、その感情をどう扱っていいかわからないため、感情から逃れるためにを暴言・暴力という手段にでることもあります。
暴力の他に、お酒、ドラッグ、性行為などに逃避することもあります。

いつも怒っている人というのは、怒りを感じているからではなく、怒りから逃れるために怒っているのです。そして、怒りというのは大抵、傷を覆い隠す偽の感情です。

そうやって周りの人を傷つけてしまうのです。

自分の感情とつながって、効果的なふるまいを選択すれば、そういった問題を起こさずに済むかもしれないのに、なかなかそうすることは難しいようです。特に男性の場合は先にあげたように、感情を認めたり、自分が傷ついたと認めることは、「男らしくない」「頼りない」ということになるからです。

男らしさの弊害

近年、「男らしさ」と呼ばれるものによる弊害が注目されるようになっています。Netflixにはこれを扱ったドキュメンタリー番組があります。
「The Mask you live in」(邦題:男らしさという名の仮面)
https://www.netflix.com/title/80076159

映画の中での男性のヒーローというのは、大抵、怒りと暴力によって問題を解決し、痛みや悲しみなどに浸らずに戦う。
そういうステレオタイプな男性像があふれる中で育った男性は、自分の感情とどう向き合っていいかわからなくなってしまい、暴力やお酒に走ってしまうことがあるようです。

アメリカのある刑務所では、犯罪者が自分の傷に向き合うという取り組みを始めているようです。
GIRP ( Guiding Rage into Power.)  怒りを力に変える
https://insight-out.org/

ここにはこうあります。

" This program enables participants to identify and communicate the feelings that are masked by anger (such as sadness, fear and shame) and process them. Students also develop the skills to understand and express the unmet needs that are covered up by the experience of rage. "

意訳:このプログラムは、参加者が、怒りによって隠されている悲しみ、恐れ、恥などの感覚を認識しそれらと通じ、それを処理することを可能にします。生徒はまた、怒りの表現によって隠されている満たされてない欲求を理解し表現するスキルを育みます。

加害者に「反省」してもらいたいと思う人は多いと思いますが、感じることを抑圧しているので、被害者の感情や、そもそも反省というものがどういう事か理解できないのです。そんな状態で反省を迫っても、「反省パフォーマンス」はできますが、心の中では何も変わっていないのです。そのため、罰を受けたとしても再犯の道に進んでしまう可能性があるのです。

加害者が、かつて自分が傷ついた部分を認め、それらの感覚とつながって初めて、被害者や関係者がどのように感じているかを想像できるようになります。

こういった取り組みが広がっていけば、単に悪いことをした、犯罪を犯した人に罰を与えて終わりにするのではなく、本当に「解決」することができ、暴力や犯罪を未然に防ぐことができるのではないでしょうか?

傷つくチカラ ーー vulnerability

感じる心をなくしてしまうと、自分が本当に求めていることがわかりにくくなったり、人とのつながりを感じにくくなってしまい、人生が色あせて見えるようになってしまいます。

vulnerabilityは無防備さという言葉ですが、 ―ability (能力)として捉えて、悲しみを感じること、恐れること、寂しさを感じること、これらのネガティブだと見なされる感情を感じることは、弱さではなく、強さだと思いたいですね。

そして、本当にそれらの感情を見つめたとき、傷ついたのは、何かが起きたからではなく、自分であることをやめてしまった事によるものだとわかる時がくるでしょう。


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