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褒めればよいとは限らない

他の条件を一定とすると(ceteris paribus)、誰でも褒められるのは好きだろう。対象は必ずしも自分そのものでなくともよい。

「誰とでもすぐに仲良くなれるの、すごいと思います」
「いつもそうですけど、指摘が的確で感心します」
「髪切ったの? 今の季節にぴったりでカッコ良いね」
「いやあ、君の奥さん本当に美人だよね」

ところが、中には首を傾げたくなる「褒め言葉」というのがある。私にとってはこれがそうである。

「良い服ですね」

自分のファッションを褒めてくれているのに、何が気になるのと疑問に思うかも知れない。もちろん、友人や同僚がこう言うのを聞けば嬉しい。しかし、このセリフがその服を売った当人から出てくると、おいおい、ちょっと待ってよと私は感じてしまう。だって、自画自賛ではないか。私を褒めているようで、実は自分を褒めているのだけなのである。個人的な印象では、高級ブランドを扱うお店の店員ほど、この傾向があるように思う。

もし言うのなら「その服、本当にお似合いですね」だろう。これなら間違いなく、褒めている対象は私ということになる。素直にありがとうございますと返すことができる。

相手を褒めているようで結局自分自慢、というのは普段の会話でも耳にする。「よくご存知ですね」と相手を持ち上げながら実は自分の博識を自慢していたり、「なかなか出来ることじゃないよ」と嘆息しながら実はそれができる自分をアピールしたりとか。

ううむ、我が身を振り返ってみたら、自分でもしばしば同じようなセリフをはいていたような気がしてきた。今後は少し気をつけなければ。

「なるほど、自慢できるような事柄をたくさんお持ちということなんですね。すごいと思います」

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