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大学の生存競争が加速した

新型コロナウィルス対応で大学とは何かが問われている。
曰く、大学は教養と専門的な学びによって社会に貢献する理論と技術を学ぶ
曰く、大学は同門となる仲間や教員と出会い、議論によって研鑽を積む
曰く、大学は自由な学びの中で多様な経験を積み、豊かな人生の基盤を作る

 さて、全体としては問題ないものであるが、実態はどうだったかと言えば、なかなか難しい。教養と専門的学びはあるが、卒業時に社会に貢献する理論と技術を身に付けるための基盤が作れているかというと、学生によると返ってくる。
 仲間や教員と出会い研鑽を積むというが、サークルなど趣味のグループに偏る傾向はあり、大学で学んだことを就職活動の面談で語るシーンは少ないと人事担当者は嘆いている。
 自由な学びの中で多様な経験というが、旅行とアルバイト経験で人生の基盤を構築しているとやはり人事担当者が嘆く傾向が強い。

 オンライン授業になってより大学の意義が問われるようになったのは多くの先生方が感じているところで、教員だって対面授業を行うほうがはるかに楽だし、ほかの教職員や学生に会えない寂しさを感じるのは学生だけではない。
 4年間で国立でも300万円近く、私立であれば600万円近く払うことが多い。親の出資に頼る学生だとしても、この投資の対価として学生生活に何を期待していたか自問自答することは多く、高校生はより顕著に大学を選ばないことを含めて考え始めているだろう。

 少なくとも数年は完全に対面に戻るという方向性は無いと私は考えている。そうなった場合はまずは「大学を選ばない」選択は経済事情を含めて多くなるだろう。早くに労働現場に出るほうが集約的な経験を積み、所得にもつながるとする高校生が出ることは今までもあったと思うし、自然なことと考える。
 また、キャンパスに通えるかどうかが選択の要素に入ってきた。全国的に新型コロナウィルスは広がっているとはいえ、人口が集中しているところと、そうではないところでは温度差がかなりある。感染可能性という確率で考えれば人口密度が低いところはクラスター発生によるキャンパス閉鎖のリスクが少なく、安定して対面授業やキャンパスライフを得られることは高校生にも魅力であろう。

都市部の大学はメリットを打ち出せるか?

 人口が集中するエリアは段階的に対面を実現するにしても、学生や教職員の安全配慮から、クラスター発生のたびに対面とオンライン授業を切り替えながら授業展開が必要になる。そうなると現状では対面のほうが実行できる授業展開の幅があるだけに、オンラインに移行しても展開できる授業の幅に限定がされる。オンラインでは副次的効果であった学生同士の交流や、都市部に出ることで若者の欲求を満たす都会的な暮らしの実現はままならない。学びに焦点が当たり、卒業時に学びを評価されなければ都市部の大学に進学するメリットは薄くなっていく。
 そのためには個別の授業だけではなく、教養という土台、専門課程の中のカリキュラムのコース設計に基づいて授業展開があるような一貫性のある教育によって学生が自分の言葉(理論)で学びを説明できるようにならねばならない。教員は授業だけに集中せずに、学部学科の学びの流れを理解するためにも教員間の専門性や授業内容の理解が必須になり、学生にとってもどの科目を取るのかというストーリーを意識した履修のためのフォローアップが必要になる。

就職という出口の取り扱い

 中堅以下の私立大学を中心に、卒業時の就職は就学した学生を一つの作品として社会に送り出す際の重要なブランド指標になっている。いままでは東京を中心に都市部に就職のバラエティがあり、説明会を含めて都市の利点を生かした展開がブランドになっていたと考える。ただ、オンライン説明会が増えつつあり、オフィスを活用しない働き方も突然に台頭してきたため、大学が都市部立地することの利点は徐々に低下しつつある。雇用の流動性も増してきているため、必ずしも新卒が採用されるとは言えない社会が見えてきていると感じている。
 ただ、今は地方就職を狙う際に採用情報へのアクセス方法が学生には見えていない課題がある。ビジネスモデルとして確立する必要はあるが、地方にある採用情報を整理して発信できるようにするだけでも学生獲得の機会は増える。また立地する自治体内の大学は当然ながら格好の採用現場になるだろう。

 都市部の中堅以下の私立大学は就職を出口として教育に重点を置く場合が多い。オフィス需要が低下し、オンラインワークが一つの働き方として一気に立場を持つようになると、職場を都市部に置く意義も薄れていく。そうした中で地方大学は都市部に流れていた学生を、対面授業やキャンパスライフ、地元就職である程度のブランディングが可能になり、都市部の大学はオンラインと対面のバランスの中で、学びに集約したブランディング戦略に切り替えていく必要があると感じている。

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