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第3回東大本番レベル模試 物理所感

総評:標準~やや難
 第1問が力学, 第2問が電磁気, 第3問が波動という珍しくない構成でした。いわゆる“よくある典型的な問題設定”ではない、少し見慣れないものが多かったように思えますが、基礎がしっかりできている方であれば小問群の流れに沿って点を積み上げることができたのではないかと思います。問題自体の難易度として「標準~やや難」としましたが、時間が大変というのを加味すると「標準」の2文字は消してしまってもいいかもしれないという感触です。試験時間内に現象を掴みきれなかったという方でも、解答冊子のきめ細かい解説文や解説授業などで確実に復習していけば、理解・定着は難しくないはずです。この所感がそれの一助となれば幸いです。

第1問 標準
Ⅰ. 標準
(1) どう座標が置かれていてどういう力が働くのかという問題設定のベースを、運動方程式の立式を通して掴んでいきましょう。重力については、それとつりあうだけの上向きの弾性力を生む伸びが含まれての座標設定になっているため運動方程式上では打ち消され現れて来ない、という単振動範囲常連のポイントも意識したいものです。
(2) いわゆる重心系の考え方で既述すれば棒による内力Fは考えなくてよくなるためシンプルな立式になります。また「重心系」をきっちり扱う自信の無い方でも、与えられているようにこの条件下であれば小球2つの加速度の平均を取ればよいので、小球2側で(1)と同様の運動方程式を立て合わせれば何の困難もなく正答が導けるはずです。その方法でも結局Fの影響が打ち消されることになります。
(3) 見るからに三角関数のグラフであり、その三角関数を用いて微分やら積分やらで計算するのかなと最初に思ってしまうかもしれません。そう思ってしまう気持ちもわかりますが、焦らず落ち着いて力積の求める方法を考えましょう。最終的に求めたいのは小球1なので、重心の運動を軸に考えるには小球2を含めた系全体の模様を捉える必要があります。この時点で大変そうだと判断し、条件が変わるⅡへ一旦移ってみるというのも戦略として現実的な動きかもしれません。解答解説を読んでいただければ分かる通り、式計算自体はそこまで面倒ではないので、飛ばした方・苦戦した方はぜひ復習しこのような問題にもさらっと対応できる実力をつけていただければとてもよいです。

Ⅱ. 標準~やや難
条件がリセットされるので把握しなおしましょう。Ⅰで少しイメージしにくかった人でも、ここでは重心が原点上で動かないことから運動がシンプルになりそうと感じ、とっつきやすかったのではないかと思います。
(1) 淡々と力学的エネルギーを書き並べ立式しましょう。棒の中心が静止することから2つの小球が対応した同様の動き方をすることをすんなり掴むと、文字を無駄にたくさん置くことなく進められますね。
(2) よくある力学的エネルギーの問題と言えるでしょう。ばねがlまでのびない・縮まないためにはそれだけのエネルギーを与えなければよい、という自然な思考だと思います。
(3) 系全体で捉えることでさんざん打ち消してきたFを、ここで考えます。片方の小球についてのみ見れば、弾性力とFによって円軌道を描いているということになる(むしろ円軌道を描くようにFがはたらいている)ので、物理基礎の向心力の式を使ってさっと正答が導けるのではないでしょうか。
(4) どういう条件下でFが最大値・最小値をとるかというのが分かるかどうかです。もちろん正しい議論を展開しビシッと正解できるのが理想ですし物理を学ぶ者の姿勢としてはそうあるべきなのでしょうが、試験時間内ですべての問題そう簡単にうまくいきません。少し考えて自信の持てる結論を導き出せないとき、少し上で書いたように一旦飛ばすのも当然ありですし、1点でも多く積めたもの勝ちの受験生の世界という意味では、ざっくり「急に鉛直方向の撃力を加えられたその瞬間にそれを円軌道にグイっと持ってこないといけないθ=0のときF最大になるのいい線いってそう」の様に希望的観測のもと時間かけずにささっとその場合の答えを書いておくというのも有効な一手だと私は考えます。得点できればラッキーです。賢明な受験生のみなさんには言うまでもないことかもしれませんが、そうして得点できた問題について答案返却後「合ってたからいいや」と軽視するのではなく間違った問題と同じ扱いでしっかり理解できるまで復習してくださいね。
(5) 結論から言えば前の(4)を飛ばしても解けます。糸は引っ張る力Fが0になったらたるみ、たるんだら半径を保てないので円運動ではなくなります。それさえ把握できていればあとは(3)の結果を用いてすぐです。

第2問 やや易~標準
I. やや易 
(1) まだ学校で習ってから日が浅くそこまで固められてないという方には少しだけ時間のかかる問題かもしれませんが、慣れたらもうあっという間にできるでしょう。基礎を固められていない方もまだ時間はあるので共通テスト対策の比重が大きくなる前にがっしりおさえときましょう。
(2) 同じく慣れている人にとってはスムーズに手が動くのではないでしょうか。
(3) 抵抗を流れる電流の大きさが曲線的に変化する(詳しくは解答解説にて)ので、エネルギー収支から足し引きで求めるのが一番順当だと思います。電気回路の問題で意識から消えがちな運動エネルギーを忘れないようにしましょう。

Ⅱ. 標準
(1) まっすぐ回路方程式をたてましょう。プラスマイナスに注意です。
(2) 前のエを正しく埋められれば、単振動の式として角振動数を求めることができ、あとは定番の進め方です。
(3) 見たことのないグラフが並びどこから手を付ければいいのかと戸惑った方も少なくないと推察します。元も子もないことを言うと関数を書くことができればグラフを選ぶことなんて容易ですが、問題を順に解いてく中でその関数を導けそうな手掛かりを微塵にも感じられないときだってあることでしょう。ここで僭越ながら前回の東大本番レベル模試の所感で私が書いた言葉を自分で引用します。「見慣れないかたちのグラフでとっつきにくいと感じ飛ばした方も一定数いるのではないかと推察します。限られた時間のなかで得点を最大化するためにはそのような瞬時の判断も大事になってくるのは言うまでもないですが、ここまで選択肢の形がばらばらだと、ざっくりとした定性的観察から答えを絞り込むことができるのではないかと活路を見出すことも不可能ではありません」。この問題においては、①導体棒に同じ電流同じ磁場がかかっているわけだから同じ加速度がかかっていること②前の小問に書いてあるように重心が単振動すること、の2点で絞り込むことができます。①についてですが、同じ加速度ということは速度の時間変化のしかたが同じ、つまりグラフの形がそっくり同じという大ヒントが手に入ります。あとは②、速度の平均を線で結んで単振動の挙動を示すものという条件を加えれば、もう答えは見えてきます。
(4) これはボリュームのある問題と言えるのではないかと思料します。2つの導体棒の速度を求めエネルギー保存則の式を立ててごりごり行きましょう。

第三問 標準
Ⅰ 易
(1)(2) ドップラー効果の問題です。これらは落としたくありません。
(3) 与えられている(1+x)^kの近似式を用いて計算していけば自然と答えが現れます。

Ⅱ 標準
(1) 何やら微分っぽい香りがしてきますが、まだまだ初等幾何の問題です。瞬殺してください。
(2) (1)と同様まだ初等幾何の問題です。気づけば簡単ですが気づかないと際限なく時間がかかるこういう問題、手強いです。
(3) (1)(2)に続いて初等幾何の問題です。ここまで続くとなるとこれらの立式をあとで使うんだろうなと推理し、これまで導いた答えたちを見返して絶対に合っていると確信を持ってから次に進みたいものです。
(4) ECとADで同じ数の波が入り、考えやすいように波1つ分としてもよいとわかると、あとの立式は難しいものではないでしょう。
(5) これまでの小問の結果をようやく使うときが来ました。代入・近似で形を整えれば答えが現れます。

Ⅲ やや難
ここに来て新しい問題設定です。ただでさえ時間の無い理科のうちのただでさえ焦りがちな第3問において、新しい設定を読み込んで把握し手を動かし始めるのはなかなか大変なものだろうと推察します。とはいえ、これまでの波動の問題とまったく関連の無い条件なわけありません。どう繋がってくるのか心のどこかで楽しみにしながら解き進めることができれば、最後の最後に待っている伏線回収で感動に出会えるかもしれません。試験時間内ではまるまる飛ばす判断をしたという方も、ぜひ復習時に解答解説冊子を読んで趣旨を一滴残らず味わっていただきたいです。
(1) x方向y方向それぞれについて、指示通り運動量保存則で立式し整理すると導けます。新しい問題設定に少しひるんでしまったとしてもこのとっかかりやすい問題は難なく拾えればいいですね。
(2) 運動エネルギーについて記述していきましょう。見慣れないエネルギー式の取り扱いをクリアできれば、ごりごり整理してください。するとⅡの(5)で出した2cosθが登場する式にそっくりな結果が出現します。ゴールは目の前です。
(3) 波動のⅡと粒子のⅢで別々に登場した似た式2つを見比べると、運動量と波長が反比例の関係にあるという輝かしい1つの結論が導き出されます。全く別の事象を別のプロセスから考え別の物理量を記述していくなかでこんな明瞭な関係性が現れるという、物理の面白さ・奥深さ・醍醐味を垣間見ることのできる問題構成となっていると言えるでしょう。先生でもなんでもない工学部3年が書いたこんな長い所感を最後まで読んでいただけるくらいに物理への高いモチベーションをお持ちのあなたには、ぜひとも、「充実した」という陳腐な言葉で言い表すのが申し訳ない程にてんこ盛りの解答解説をフル活用していただきたいです。入試が刻一刻と近づき勉強自体が点数最大化のための殺伐なものになってしまいそうになるこの時期だからこそ、物理への興味をいっそう膨らませ、勉強を最大限楽しんでいただきたいです。これを切に願い、2021年度第3回東大本番レベル模試物理の所感といたします。

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