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神様のお守りも楽じゃないわと彼女は言った~西園寺命記 玖ノ巻~ その6

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  *  *  *

 一年ちょっと前のことだ。

 おなかに咲耶を宿していた九条清子は、四辻記念病院の院長、絢子のところに診てもらいに来ていた。

 妹の史緒が言ったからだ。

「イベントの時に絢子先生は子どもがおりこうさんになる遊びを教えてくれました。赤ちゃんのことも、きっとおりこうさんにしてくれます。史緒もつきそいますから」

 史緒の目的は大地くんに会いに行くことなのだろうと清子は思ったが、その提案に乗ってみることにした。

 父は京都で出産するようにと言っているが、正直気が乗らない。もし絢子に主治医になってもらえるなら、父も文句は言えまい、そう思っていた。

 実際に絢子の診察を受けてみたところ、さすがは熟練の医師、不安なこともいろいろと解消できて、清子はとても満足していた。

 夫の幹也が車を回してくるからと、清子を玄関口に置いて駐車場に行った時、正面から歩いてくる夫婦がいた。妻は重そうにお腹を抱え、夫がその肩を支えるようにして歩いていた。

“臨月かしら…”

 清子が夫婦とすれ違おうとしたその時、妻が目の前で顔を抑えながらぐらりと体を揺らした。

「大丈夫ですか?」思わず、その妻の体を支える清子。

「あ…大丈夫です」

「ありがとうございます」妻の体を自分のほうに戻そうとした夫の手が、一瞬清子の肩に触れる。

「失礼しました」

「いえ。お気をつけて」

「ありがとうございました」夫が丁寧に頭を下げた。

 その時、幹也が車のクラクションを鳴らした。

 少し小走りに車に向かう清子。

 その清子を見つめる先ほどの夫婦。

「あれでよろしゅうございましたか」

「ああ。お腹の姫君に力を献上しておいた」

 男は不遜な笑みを浮かべた。

  *  *  *

 そして一年後、久我邸のリビングには、久我社長と二条智親、黒マントに黒頭巾の男の姿があった。

 男が久我と二条に尋ねる。

「お二人の目的は元“禊”側の力を強めること、それでよろしいでしょうか」

「そうです」強い口調で答える久我。「真里菜を翼くんの元に嫁がせたとき、“命”側と“禊”側が揉めていては困ります」

「さようです」二条も同意する。「“禊”の血を引く子供の力が強く出てくれば、今のような潜在的ないさかいはなくなるはず」

「それにはまず、久我さんのお孫さん、星也くんの力を出現させたい、ということですね」

「ええ。その上で、星也と咲耶ちゃんの縁談も進めたい。力的にバランスが取れていれば、京都側も文句は言わないでしょう」

「どんどん血が混ざって行けば、争う理由もなくなるはず」二条がうなづく。

「父母のどちらかが“禊”であれば、“禊”の能力値がアップしたことになると」

「…それが一番効率的かつ平和的な力の伸ばし方です」

「承知しました。神託が下り次第、星也くんの力を開きましょう。九条の姫君とバランスが取れるよう」

「ありがとうございます…つきましては…」久我が厚い封筒を黒マントの男に差し出した。「手付金ということで」

「いえ、そういったものは受け取れません」

 黒マントの男が封筒を押し戻し、久我の前に置いた。

「まずはその前にご神託を」

 男は目の前の水晶に手を置いた。

 しばらくしてから半紙にさらさらと文字を書き始め、筆が止まると紙を久我と九条の前に置いた。

「これは…!」眉間にしわを寄せ書かれた文章を必死に見つめている久我。

 二条が久我に細い声で言う。

「私も先代に言われた時は正直最初は疑ってかかってましたが…内紛とその成り行きだとするなら、すべて合致しています」

「この話はすすめないほうがいいのでしょうか」困り顔の久我と二条。

 開いていたリビングのドアの外では、通りかかった真里菜が、祖父の前に置かれた封筒をじっと見つめていた。

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