神様のお守りも楽じゃないわと彼女は言った~西園寺命記 玖ノ巻~ その5
* * *
風馬は、華織に言われた通り、華音と一緒にモニタで様子をうかがっていた。
膝の上の華音が、画面を食い入るように見ている。
「どうした、華音。あのお姉さんが気に入ったのかい?」
「うーたん……」
「ん? あれは悠斗くんじゃないだろ」華音の頭をなでる風馬。
画面の中の桜が「あの子の力を開きたいのだと思います」と言った途端、華音が手を振り回しながら叫んだ。
「うーたん!!」
娘の反応に思わず画面に見入る風馬。
“狙いは星也くん…?”
「そうなのか、華音?」
「うーたん」風馬の膝をぎゅっと握る華音。
「咲耶ちゃんじゃないのか、狙いは…」
華音は、すっくと立ちあがると、紗由たちと一緒に踊っていたダンスを踊り出した。
「ははは。華音、前より上手だなあ」
「うーたん、うーたん」
笑顔で踊り続ける華音。
「パパに大丈夫だよって言いたいのかい?」
「うーたん!!」
飛び切りの笑顔で決めポーズをとる愛娘に、風馬の顔も思わずほころぶ。
「そうだな。もう、進むしかないんだな」
* * *
ハワイの5ツ星ホテルの一室、一条誠の父親、先代の一条の“命”央司は、昔見た夢に思いを馳せていた。
「“命”のシステムを盤石なものにしたいとは思いませんか、一条の先の宮」四辻奏人が微笑む。
「もちろんそれは思うのが当たり前でしょう、我々の立場としては」
「ですが…このままでは“命”の力を持つ人間たちが危うい目にあう可能性もあるのでは」
ため息をつきながら答える央司。
「戦いを挑まず、守りに徹していれば、危うい目にあうことはないかと」
「いやいや、それは甘いのでは。守りに徹しても攻撃してくる相手がいれば話は終わらない」
「いや、ですから、攻撃されたら防御する。それだけのことでしょう」
「結局終わらない。そういうことですね?」したり顔で微笑む四辻奏人。
「人の欲は止めても出て来る。つまりは終わることはない。そこは否めません」
「では、決定的な勝利を見せつけるというのはどうでしょう。次の戦いをしなくなるように」四辻奏人がゆったりと微笑んだ。
「…その勝者はあなたではないのですよね」
「ええ。勝者は西園寺の“命”です。彼女が統制をはかる世界こそが美しい。私はそう思っていますので」
「彼女はそれをお望みか?」
「いえ。彼女は欲がなさすぎる…というか、きれいに欲をコントロールしている」
「望まないことを彼女にさせると?」
「国の平和のためなら」
一条は笑い出した。
「国の平和は民があってこそ。民が望まぬことをさせて、何が国の平和なのです?」
「…ここは見解の相違ですね。未来を見て、利益の多いほうが国の平和につながると私は思っています」
「身近な人たちの幸せを犠牲にするもやむをえず、ですか」
二人の間に沈黙が流れた。
「犠牲、の考え方次第でしょう」微笑む四辻奏人。
「それではあいにくと私はあなたにご協力いたしかねます」
「残念です」
そう言って四辻奏人の姿は消えた。
* * *
一条の先の宮、央司は、四辻奏人との夢中での邂逅の後、娘の澪の元を訪れていた。
「お父さん、どうしたの?」
「急に迷惑だったかな」
「ううん。うれしい」満面の笑みになる澪。「忙しいのに、わざわざありがとう。…お母さんの具合はどう?」
「一緒に来てるんだ。後で来ると思うよ」
「わあ…うれしい…この子のことでね、いろいろ相談したかったっていうか…」自分のお腹を撫でまわす澪。
「そうだな。そこは母さんに教わるといい」
央司は右手で澪のお腹を撫でまわしながら、左手で印を結んだ。
「ん…?」
体をぐらつかせる澪の背中を支える央司。
「大丈夫か?」
「あ…うん」
「そうか。体を大切にしろよ」
「もちろん!」
うれしそうに笑う澪の頭を、央司は優しくなでた。
* * *
その夜、部屋のカーテンを開け、月の光を見つめていた央司は、深く息を吐くと力強く声に出した。
「生まれてくる子に私の力のすべてを授けました。日本の未来を正しい形でお守りください」
* * *
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