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西園寺命記~紗由・翔太之巻~その13

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  *  *  *

「じゃあ、あらためて乾杯!」

「乾杯!」

 ケーキの登場で、龍が音頭を取り、再度誕生日祝いが始まった。

 龍と翔太の想像通り、目の前の18センチホールを一人でペロリと平らげる紗由。

 聖人と真琴がじーっと見つめているが、まったく意に介さない。

「すごいなあ…」愛娘の食欲に、あっけにとられる涼一。

「ほんまにすごい絵の具ですわ。手の甲と爪の上に置いても、発色が違いますし」

 翔太は、涼一からもらった絵の具を試しながら感心していた。

「あ、ああ。まだ商品化はされていないんだ。面白そうだったから、友人に非売品を譲ってもらったんだよ」

「そうですか。貴重なもん、ありがとございます」

「その友人は、黒を使わずに黒を作ることを考えていたんだが、結局完全な黒というのは他の色からは作れないとわかって、描かれる材質による色の変化を利用することにしたらしいんだ」

「なるほど。面白いですな」

「でもまあ、人間がこれは完全な黒だと思ったら黒だとも言えるってことだからね。それでいいなら、人間の目の側に細工するという手もあるわけだが」

「なんかもう、色って何なんだっていう世界ですわな」笑う翔太。

「三原色というのも不思議だよなあ。絵の具の三原色を足すと、ほぼ黒が出来る。光の三原色を足すと透明になって、まるでそこに色がないことになる」

「色がない…」ハッとする翔太。「そうか! 全部合わせたんや!」

「ん?」

「ありがとうございます! 解決の糸口が少し見えてきました」

「ん?」

 首を傾げる涼一に頭を下げると、翔太は絵の具を片づけ、立ち上がった。

「翔太、どこ行くの?」

 翔太と涼一に日本酒を持ってきた鈴音が尋ねた。

「涼一はんからの大事なプレゼントやからな。酔っ払いにいじられないうちに片付けて来るわ」

「飲み物は…」

「おかんが飲んどき。今日くらいゆっくりせえや。明日、旅館休みなんやろ?」

「そうね。涼一さんの日本酒談義をうかがいながら、お式のこととか相談しておくわ」

 ニッコリ笑う鈴音に翔太も笑顔で応えた。

  *  *  *

 龍、翔太、紗由の3人は、ベランダでワインを傾けていた。

「つまり、翔太にピカピカが見えなかったのは、違った流儀の能力を重ね合わせていたからってことか?」

「そうや。例えば“命”、“禊”、“言挙”の力を全部彼に投入してあったりやな」

「オールマイティくんなの?」

「そうとは限らないだろ。一つ一つの力を使いこなせているかどうかとは別問題だ」

「その力が自分の資質に合うかどうか、相性もあるやろしな」

「紗由だって、食べながら読書はできても、それに棒高跳びを加えたらやりづらいだろ」

「確かにそうね。ケーキとカレーとお寿司を一口では食べないし…」

 龍も翔太も、おまえなら食いそうだと心の中で思ったが、とりあえず黙っていた。

「そうだ。メールでまりりんに連絡したら、例のお見合いパーティーにご招待受けたわ。主催者の和歌菜おばさまが大乗り気みたい」

「龍のこと、客寄せパンダにしたがってたもんな、以前から。せやけど、奏子ちゃんが片っ端から弾き飛ばしそうやな。大丈夫か?」

「翔ちゃん。読みが甘いわ。あの和歌菜おばさまよ。にいさまと奏子ちゃんという理想のカップルの形を見せつけて、成約率上げる狙いよ」

 まるで自分のことのように自慢げに語る紗由。

「さすがや…久我家にはまったくもってかなわん」

「というわけなので、怪しいおにーさんの正体を皆で暴きに行くわよ」

「充と恭介くんは、どないするん?」

「ウエイターとして参加してもらうわ。そういう人たちへの態度も、おばさま的にはチェックポイントらしいの」

「正解だな。充くんをお見合いメンバーにしたら、まこがうるさそうだし。恭介くんは、あの生真面目な性格だから、そういう会合自体に否定的だろうし」

「詳細はまた明日連絡が来るみたいよ。おばさまから、にいさまに直接」

「え」固まる龍。

「もうすぐ選挙だし、いろいろ相談もあるみたい」

「……」

「せやな。ここは、西園寺保を継ぐ身として大事な仕事いうことや」

 にこにこ顔の翔太と紗由を、恨めしそうな顔で見ながら、龍はゆっくり頷いた。

「そうだわ、にいさま。例のPCデータと、メカゴキブリ二匹と、吸血野ばらの詳細、まだ翔ちゃんに話してないんでしょ?」

「誰がちょっかい出してくるかわからないからね。当分、触れずにおこうと思ったんだ」

「今なら大丈夫やな。結界張ってあるし」

「おばあさまを怒らせちゃったから、SPだらけになってると思うし」

「じゃあ、まずはPCデータのほうから聞こか」

「昔、恭介くんのところにお誘いが来た、多治見総研の英才教育プログラム。あれを進化させてる。しかも、玲香ちゃんたちが作っていたソフトの内容を無断で利用…いや悪用してるようだ」

「イマジカのソフトを…?」

「ただ…足らないらしいんだ」

「何が足らないんや」

 翔太は身を乗り出した。

  *  *  *

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