🪔らんたん〜灯りを決して消してはならない

2022年5月3日 08:28

ずっと読みたかった小説「らんたん」（柚木麻子著・小学館）を完読しました。

「女が手を取り合えば、男はいつか戦争ができなくなる。」

明治・大正・昭和ー。
女子学校教育の黎明期。
シスターフッドを結んだ
ふたりの女性が世界を変える

ふたりの女性とは恵泉女学園・高等学校の創立者河井道先生と
彼女の右腕となって活躍した渡辺ゆり先生のことです。

恵泉の卒業生である柚木さんは丁寧な取材と、
お二人の対する尊敬と愛情を持って
素晴らしい物語に仕上げていて、分厚い本なのに、
次々とページをめくってしまいました。

河井道先生

1877年、伊勢神宮の神職の家に生まれました。
明治維新の政策でお父様は神職を失職。
頼りにしていた身内同然の男の保証人になりますが、
彼は事業に失敗。
家族は大損をして一家で北海道に移住しました。
温暖な気候の伊勢とは全く違う北海道の凍てつく寒さ。
10歳の道さんはミッションスクールのスミス女学校で学びます。
のちの北星学園です。
小樽ではクララ・ロースが始めた女学校の開校にあたり、
寮母として、教師として
生徒たちと寝起きを共にしました。
神官だったお父さんもキリスト教を信じるようになる様も
興味深かったです。

私の先祖の伊勢神宮で要職にあたっていたらしいので
親しみを感じました。

札幌農学校で教鞭をとっていた新渡戸稲造戸と出会い、
新渡戸夫妻から実子のように可愛がられ、大望を持って上京。、

津田梅子先生の家に下宿しながら学び、
奨学金を得て、ブリンマー大学で学びました。
帰国後は津田梅子が創立した女子英学塾（現・津田塾大学）で教え、
梅子先生の絶大な信頼を得ますが、
自身の教育をするために52歳で恵泉女学園を創立しました。

美しいお写真は恵泉学園のHPからいただきました。

一色ゆり先生

道先生の生涯の右腕となったのは、
英学塾での道先生の教え子だった渡辺ゆり先生でした。

大家族で育ったおかげで、無邪気で明るく天真爛漫。
一度決めたらとことんやり遂げる性格で、
米国留学にあたっては大山捨松にダンスの手ほどきを受けるなど、
誰にでも愛されていました。
道先生が悩んだり、迷ったりし時は、
ゆり先生がしっかりサポートしていました。
ふたりは信頼し合い、協力し合あう、
イエス・キリストによる姉妹〜シスターフッド
で結ばれていました。

この小説はそのゆり先生に
一人の男性がプロポーズしたところから始まります。
彼の名前は一色乕児。
なんと天璋院篤姫が名付け親でした。

これからの日本の道筋をしっかり見ていた天璋院は
12歳の当主徳川家達のイギリス留学を強くすすめ、
明治10年、家達はイートン・カレッジに留学しますが、
この時、乕児は付き添って留学しました。
彼は実直に人生を歩み、
51歳まで独身を通していました。
明治学院大学の恩師井深梶之助の勧めで
お見合いをしたお相手がゆり先生で、
彼は一目惚れをします。
その時38歳のゆりさん、
寡黙な乕児さんのプロポーズを受けるにあたって、
一つの条件を出しました。
それは
「シスターフッドの契りを結ぶ河井道と三人で暮らすこと」というものでした。

恵泉学園を作る時の情熱には心を動かされ、
戦時中の国策や同調圧力への対応の
しなやかさと賢明さには
多くを学びました。

今、誰でも望めば女の子でも高等教育を受けることができるようになったのには、
多くの先輩の努力と祈りがあったのだと思います。

光はシェアするもの。
私たちの社会を明るく灯す光。
この光を決して消してはならないと思います。

光の子らしく歩みなさい！
というみ言葉が深く心に沁みました。

内容はぜひお読みいただきたいと思います。

豪華な登場人物

◎津田梅子

つだうめこ1864年12月31日〈元治元年12月3日〉- 1929年〈昭和4年〉8月16日）は、日本の教育者。女子英學塾（のちの津田塾大学）創立者

◎大山捨松

おおやますてまつ、1860年3月16日（安政7年2月24日-）1919年（大正8年）2月18日
日本の華族、教育者。旧姓は山川（やまかわ）、幼名はさき、のち咲子（さきこ）。日本最初の女子留学生の一人。大学を卒業して学士号を得た最初の日本人女性。元老となった大山巌の妻としての立場を通じ、看護婦教育・女子教育への支援を行った。

◎新渡戸稲造

にとべいなぞう、1862年9月1日（文久2年8月8日） - 1933年（昭和8年）10月15日）日本の教育者・思想家。

◎有島武郎　
ありしまたけお、1878年（明治11年）3月4日 - 1923年（大正12年）6月9日）小説家

◎野口英世

のぐちひでよ、1876年（明治9年）11月9日- 1928年（昭和3年）5月21日）
医師、細菌学者。

◎太宰治

だざいおさむ、1909年〈明治42年〉6月19日 - 1948年〈昭和23年〉6月13日）
小説家。

◎平塚らいてう

ひらつからいちょう、1886年〈明治19年〉2月10日 - 1971年〈昭和46年〉5月24日）は、日本の思想家、評論家、作家、フェミニスト、女性解放運動家。本名は平塚明（ひらつかはる）。

◎市川房枝

いちかわふさえ、1893年〈明治26年〉5月15日 - 1981年〈昭和56年〉2月11日
婦人運動家、政治家（元参議院議員）。

◎神近市子

かみちかいちこ、本名：神近イチ、1888年6月6日 - 1981年8月1日。
長崎県出身のジャーナリスト、婦人運動家、作家、翻訳家、評論家。

◎山川菊栄

やまかわきくえ、1890年（明治23年）11月3日 - 1980年（昭和55年）11月2日
評論家・婦人問題研究家。

◎伊藤野枝

いとうのえ、1895年（明治28年）1月21日 - 1923年（大正12年）9月16日）
婦人解放運動家、無政府主義者、作家、翻訳家、編集者。

◎広岡浅子

ひろおかあさこ、旧字：廣岡淺子。1849年10月18日（嘉永2年9月3日） - 1919年（大正8年）1月14日
実業家、教育者、社会運動家。

◎村岡花子

むらおかはなこ、1893年〈明治26年〉6月21日 - 1968年〈昭和43年〉10月25日
翻訳家・児童文学者。

◎柳原白蓮

やなぎわらびゃくれん、1885年（明治18年）10月15日 - 1967年（昭和42年）2月22日
大正から昭和時代にかけての歌人。

◎矢嶋楫子

やじまかじこ、1833年6月11日〈天保4年4月24日〉 - 1925年〈大正14年〉6月16日　女子教育者、社会事業家。女子学院創立者。

◎徳富蘆花

とくとみろか、1868年12月8日（明治元年10月25日） - 1927年〈昭和2年〉9月18日　　小説家。

◎徳富蘇峰

とくとみそほう、1863年3月14日（文久3年1月25日） - 1957年（昭和32年）11月2日　明治から昭和戦後期にかけてのジャーナリスト、思想家、歴史家、評論家。

◎久布白落実

くぶしろおちみ、1882年12月16日 - 1972年10月23日
戦前戦後における女性解放運動。矯風会会頭。

◎白洲次郎
しらすじろう、1902年（明治35年）2月17日 - 1985年（昭和60年）11月28日、実業家。

◎石井桃子

いしいももこ、1907年3月10日 - 2008年4月2日　
児童文学作家・翻訳家。

生年月日に注目くださいませ〜

学燈ゆずり

恵泉の卒業式には「学燈ゆずり」という伝統があり、第1回より今日まで続いています。卒業生代表が在校生代表に学燈を手渡し、一人ひとりの卒業生が学燈から灯をうけ、「光よ」の歌を歌いながら退場します。河井は『わたしのランターン』（”My Lantern”の邦訳版）の中で、「ここまで、わたしは、わたしのランターンをかかげてきた。時がくると、それは別の手へとひき継がれて、さらに先へと運ばれていくであろう」と書いています。河井の志が、今もこの学燈ゆずりに込められて引き継がれています。（恵泉女学園HPより）

なんて素晴らしい伝統なのでしょう。

御殿場二の岡

恵泉学園の夏の家もあった御殿場。
少しご紹介します。
本を読んだら、ぜひ、おでかけください。

明治維新後、日本に訪れた外国の特に宣教師たちは
それまで日本に概念がなかった「避暑地」を探しました。
御殿場のもアメリカ村と呼ばれた避暑地がありました。
ニの岡神社付近には多くの別荘がありました。
少し離れた場所には万国村もできました。

プールやテニスコートも作られ、
富士山を眺めることのできる夏の避暑地として活用されました。
福岡の西南学院のボールデン先生は
アメリカ南部バプテストの宣教師でしたが、
太平洋戦争が始まり帰国を余儀なくされるまではニの岡に住み、
酪農やハム作りを農家に教えて、彼らを応援しました。
戦争が始まり、いよいよ帰国す流にあたり、
万国村は恵泉女学園に委ねられ、
横浜のフェリス女学院、捜真女学校などが施設を引き継ぎましたが、
恵泉もフェリスも施設を手ばなし、
今では捜真が残っているだけです。

私は捜真小学校から女学校の12年間、
毎年、御殿場の自然教室に行きました。
森閑とする静寂をおしゃべりで破って歩いた
女子生徒も森の中にある小さなチャペルの内部は
厳かで神様に心を向けることができました。