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【読書感想】公務員という仕事

 元厚生労働省事務次官で、女性や障がい者の労働政策を担当された村木厚子さんの著書。今まで、公務員のやりがいや仕事の目的などが書かれた本を読んでいましたが、この「公務員という仕事」という本が一番わかりやすく、胸にスッと入ってきましたし、何よりも公務員の仕事を頑張りたいと思える一冊でした。そのため、知り合いの公務員志望者や来年度から公務員になりたい子たちにも積極的に「悩んでいるならこれを読め!」とおススメしています(笑)
 著者の村木さんが国家公務員のトップでもある事務次官を勤め上げたことや、局長時代に「郵便不正事件」で逮捕されて、そこから無罪勝ち取って国家公務員を続けてこられたこと、何よりも実際に「男女雇用機会均等法」や障がい者の「トライアル雇用」などの法律や制度の導入をトライ&エラーで取り組んでこられたから自分の心に響いていると思っています。

以下、気になることを
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公務員の仕事の多くは、誠実に進められており、不祥事ばかりが強調されることに対しては、多少の割り切れなさも感じていますが、なにかあるとそれだけ強く反応されるということは、おそらく公務員の仕事が大切なものであり、みなさんからきちんとやってほしいと期待されていることの裏返しであるともいえると思います。(P.14)

社会を支える公務員の仕事は、一見、地味なものにみえるかもしれません。しかし、長い目でみれば、理想に向かって現状を変え、ときには人々の意識を変え、そして社会全体を変革することもできる、ダイナミックな要素もある仕事です。(P.14)

・・・では企業と公務員との違いはどこにあるのでしょうか。それは、企業は利益が出ないと存続できず、人のためになることを最優先にできない、ということです。事業が基本的にペイしないといけない(利益を出さなくてはいけない)のは企業の宿命です。これは、社会に必要であれば。利益を生まないところにも税金を投入でき、ペイしなくても事業を継続し、組織も維持できる役所の仕事との最大の違いともいえます。もし、それがペイする事業で、企業が事業としてやってくれるのであれば、役所はやる必要がないということもできます。(P.23)

繰り返しになりすますが、熱烈なファンがつく商品ではなく、とりあえずみんなに「まあしょうがないか」とか「これで行くしかないな」と納得してもらえる制度をつくり、それをみんなに“押し付ける”。その制度に対して、国民や住民は拒否権を選択できない。そのような特殊な商品を扱っている組織が役所だということです。(P.27)

一方で、あの市は子育てに力を注いでいるから、あの市に住もうというように、住民に「選ばれる」こともあるわけですから、その自治体“らしさ”をどうつくるかも大事になってきて、このあたりが地方公務員のおもしろさにつながっていると思います。(P.28)

まず一つめは、「公務員の仕事は翻訳だ」というものです。・・・(省略)・・・公務員の仕事は、国民のニーズや願いを汲みとり、それを翻訳して制度や法律の形につくり上げていく翻訳家のような仕事だ、ということです。(P.29)

「公務員は五〇を一〇〇にする仕事」という言葉も、納得できたものの一つです。(P.30)

このように公務員は、膨大なデータや情報をもとに、現状を分析し、制度の設計図をつくります。さまざまな研究や調査結果などを集めてくると、ある問題について、どこに障壁があるかが見えてくるものです。公務員は多くの人の協力も得ながら、膨大なデータや情報をもとに考え、現場で生まれているニーズとその解決のための制度までの間をつなぐ仕事、ということができるかもしれません。(P.35)

制度も社会も自分たちで変えられる。(P.37)

ですから、自分の名前で仕事をしたい人には公務員は向かない、ということできます。逆に、際立った個性や特殊な才能がなくても、みんなのために何かしたい、自分の名前が出なくてもだれかのために貢献していきたいと思える人なら、活躍できる仕事はたくさんあります。(P.39)

しかし、それは彼らが好き勝手をしたわけではなく、人々のニーズを把握し、それに対して知恵を出し、行動し、みんなのコンセンサスをもらえた結果、制度になったものです。(P.40)

公務員にとって大切なものは何かと聞かれると、私はずっと「感性と企画力です」と答えてきました。(P.41)

この制度自体の成功はもちろんよかったのですが、だれかに何か新しいことをやってもらうときには、最初の一歩のハードルを下げるとか、まずは経験してもらうことがとても有効だと知ったことが大きな収穫でした。(P.44)

私はずっと、公務員に大切なのは先の二つ(感性と企画力)だと考えてきましたが、五〇台になり、もう公務員生活も終盤に差し掛かったとき、もうひとつ大事なことがあると気付きました。「説明力」です。(P.45)

仕事というのはそのように、自分の知らない自分を引き出し、成長させてくれるところがあります。もちろんそれは公務員だけのことではありませんが、自分を成長させてもらえて、人にも貢献でき、お給料ももらえるなんて、公務員という仕事は、なんて“お得な仕事”なんだろうと、私は思っています。(P.50)

それぞれ違うキャラクターの公務員同士が、お互いのよいところを活かし、苦手なところを補い合ってよい方向に向かうための仕事ができるというのも、チームワークが基本の公務員という仕事のおもしろさではないでしょうか。(P.54)

公務員のつくる制度には、全員の利害が全て一致するようなこともなければ、その政策を進めたら国民全員が喜ぶ、というようなものもなかなかありません。(P.55)

見逃すか見逃さないかというのは、行政側のセンスでもあるわけです。(P.63)

ですから、問題に気づいてすくい上げる感度のよさも大切ですが、どのように取り組んでいくのかという解決策を生み出すことが重要です。(P.67)

いずれにしても、解決策の具体的な制度設計のところは役所が担うので、公務員は、何か起きたときにつねに当事者として受け止め、行政としてやらなくてはいけないことがないかどうかを考えていかなくてはなりません。(P.68)

制度や法律は、なかったらつくり、できた後はそれを検証することによって発展させていくことができるものです。(P.82)

このとき思っていた政策が全て実現できる予算は取れませんでしたが、当時の小宮洋子大臣が、「思っていたいことの八割は取れましたね。私はこれでいいと思います」といってくださり、救われた思いがしました。いつでも一〇〇取れるわけではない状況の中で、どうやって一〇〇に近づけていく、どうやって七〇を八〇、八〇を九〇に上げていくかを考えながら、公務員は制度をつくっています。(P.90)

このとき、政治家は自分の首をかけて何かを決めるのだ、ということを実感しました。(P.96)

特に最近の法律は、施行した成果を見て、三年後や五年後に見直しを行うという規定を予め法律の中に入れておくということもよくあります。制度には完成形はなく、つねに進化を続けるのだという考え方が主流になってきたということができるのかもしれません。(P.120)

こんなふうに所々でこの社会課題に直接関わりながら、また異なる仕事に携わっているときも含めて、ずっと、大きな社会課題にみんなでチャレンジしているんだという気持ちを持ち、その進展を喜ぶことができました。こうしたところも公務員の仕事のひとつの醍醐味だと思います。(P.132)

昇進は階段を上がるのと似ていて、下にいたときとは見える風景が自動的に変わります。(P.135)

「公務員は一流である必要はない。三流では困るが、二流でいいのだ。一流の人を外から連れてきて、その人の力を借りればよいのだから」(P.144)

ですから私は、新しい部署に着任したとき、役所の資料を読み込んで役人の頭になる前に、学者や現場の人が書かれたその分野でオーソドックスな本、よい本といわれているものを何冊か読むようにしていました。(P.146)

「社長の仕事は社員のいいところを見つけ、それを最大限に発揮してもらって、会社に貢献してもらうことだ。その意味では障害の有無は関係がない。『社員』という意味ではみんな同じだ」(P.147)

つまり、法律が必要になるであろう問題をいち早く見つけ、研究し、理論武装し、世論を見方につけつつ、国会もイエスという、そこまで持って行くことが、法律や制度をつくったり、改正したりするときの公務員の仕事ということになります。(P.160)

課題を解決する現実的でバランスのよい案をつくっていくことが公務員には求められます。(P.161)

このように出向には専門知識を生かす意味合いと、視野を広げるという意味合いがあり、本人にとっても、自分の知識・経験が求められているのだなあと思えるときもあれば、青天の霹靂のような予想外のケースもあります。(P.166)

上司だからといって、わからないのにわかったふりをしても仕方がないと考えました。(P.177)

出てくるのはバラバラな意見なのですが、バラバラだからこそよかったのです。それはつまり、自分に合ったやり方を選べばいい、どんなふうにでも乗り切っていけるということ。(P.180)

公務の役割をきちんと理解し、その守るべき規範を踏み外さないようにすることと、組織をオープンなものにし、公務員が外の世界との交流を持つということは、十分に両立し得ることです。(P.193)

一方、役所という組織の中にあっても、日頃の仕事を枠を外して物事を考えることは重要です。それが視野を広げ、新しい発想を得ることにもつながるからです。(P.194)

責任を持っている分野においては、人は保守的になりがちです。しかし、そこから外れると、考えをのびのびと広げることができ、本質を追求する楽しさを実感できるようになります。(P.195)

だからこそ、ときどきは異分子を入れてかき混ぜたり、道の仕事をしたり、ふだん顔を合わせない人たちを呼んできて議論することが大切なのです。(P.198)

こんなふうに考えると、国家公務員の発想も、「国がこのような制度をつくってこういう課題を解決します」というだけではなく「こういう課題を解決するのに、国としては、次はこのような制度がつくれます。自治体には○○を、民間団体には△△をやってもらうのはどうでしょうか?住民の方は◇◇で協力できますか?あるいは□□をしている住民の方を支援します」と、「できることをみんなでやっていく」ことを前提に、端々にまで目を配って、最終的に全体でどのように進めていくかというグランドデザインを描く力が必要になってくると思います。(P.204)

私たちが想像力を広げられる範囲というのは、その人が実体験をどれだけしているかによって決まってくるところがあります。(P.206)

ですから公務員を志すみなさんは、自由になる時間がある学生のうちに、できるだけいろいろな体験をし、さまざまな人に会うということを、意識してやっておいてほしいと思います。(P.206)

役所の仕事は、どの省庁であっても、最後の目的は国民の幸福、すなわち生身の人間の暮らしをよくすることに行きつきます。いわば公務員は、生身の人間の人生を扱う仕事であるわけです。(P.207)

組織の上の人の移行を汲んでおいたほうがよいからと、公正ではないやり方で物事を進めてしまうなど、忖度を契機に発生する不祥事は、公務員の真面目さが世界の狭さによって歪んでしまうために起こることだと思います。(P.210)

重要なことは、公務員が置かれている状況を理解した上で、根幹の原因を第三者の意見も聞きながら冷静かつ丁寧に分析し、改善策を積み上げて、何があっても不正をはたらかなくてすむ仕組みを根気強くとり入れていくことではないでしょうか。(P.211)

そうであるからこそ先にも書いたように、これから公務員になる人には、企業と協力でき、NPOとも連携できる市民感覚がある人であってほしいと思うのです。さまざまな立場の人々をつなぎ、情報をきちんと流し、みんなで何ができるかを考える、という方向に社会を持って行くためには、本章冒頭で示した「つながる力」は不可欠になると思います。(P.224)

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上記のほかに、キーワードだけの抜き出しとなりますが、下記のことも。

〇仕事をやりたい、本気で取り組むための3つの要素(P.12から記載)
1.自分の仕事が人の役経っていると思える、価値があると思えること。
2.苦しいばかりではなく、楽しく働けること。
3.自分がその仕事によって成長できるかどうか。

〇「よい行政とは」=「よい社会」とは(P.218から記載)
1.社会の成員の一人ひとりが自分の能力を十分に発揮できる社会(包摂的成長)
2.困っていることを人に伝えられていない大勢の人が、早い段階で困っていると言える社会にすること、あるいは、早い段階で困っている人を見つけ、寄り添って支援できるような社会にすること(これを伴走型支援と呼びます)

〇村木さんが官民の若い人たちに職業生活を送る上でお勧めしていること(P.227から記載)
1.新しい仕事をするチャンスがあったら引き受けましょう
2.昇進のオファーがあったら受けましょう
3.ネットワークを作りましょう
4.家族・家庭を大事にしましょう


と、僕の読書感想文の抜き出し至上、共感することばかりなので超長くなりましたが、最後に所感を。これでも大分長くなりそうなんですよね(笑)

 東京で過ごしていると、国や東京都のコロナ対策に疑問や不満しか湧かなかったので、「あー国に頼っていたら地方は沈むから自立を考えないといけない」と思っていましたが、この本で村木さんが法律や制度を新しく作ったり、改正したりするエピソードや最近国の官僚の人と直接話をして、「みんなめっちゃ悩みながら仕事している・・・」と思いました。
そう考えたら、やっぱり悩んでいる国の人たちに対して、地方自治体職員である自分たちが現場の課題を見逃さずに対処して、「こんなやり方で成果出ていて、法制度化してくれるとやりやすくなります!」と政策提案をしていく必要があると実感。僕らも悩んでいるし、国も悩んでいると理解した上で、色んな方とお付き合いしていく必要がありそうです。

 公務の役割も「国民(住民)の幸福」の追求であり、自分たちは民間企業では供給できな公共サービスを提供している、いわば人を救う最後の砦であると自分の仕事の役割を認識できました。よく、効率性重視とか民間のやり方を導入しろ!と言われますが、そもそも提供するサービスは違うので何でもかんでも民間に合わせることはできないと理解する必要はありそうです。ただ、それに胡坐をかいた非常識・不合理な業務のやり方は見直す必要があるので、民間の知恵をお借りしながら「国民(住民)の幸福」を追求するためにはどうすれば良いかを考えていきたいです。

 「公務員の仕事は翻訳」ということも納得で、様々な人と関わる僕らだからこそ、様々な人の意見から中で何が現状では最適解かを見つけ出して、政策提案して、難しい用語などは分かりやすく説明するなどの癖はつける必要がありそうです。
 少し話題は変わって翻訳と似たような話で、某上級国民が全く謝らないことに対して、ヤフコメで「役所で働いてきて、理屈こねくり回して仕事してきたんだろうから自分が悪くないように理屈こねくり回そうとしているんだろう」を見て、「あぁ・・・自己保身のために理屈をこねくり回そうとしていないかは常に気を付けよう」と思うようになりました。

 この前、紹介した本の著者の木村俊昭さんが言っている言葉に「あなたは、どの分野の何をどこまで明らかにし、どこからを次世代へ引き継ぐのか?」というものがあります。村木さんも「法律や制度は常に進化する」ものと仰っていると考えた時に、公務員も異動が2~3年であると考えると常に「自分が担当するであろう最低2年間で何を明らかにして次の担当者に引き継ごう」という意識が重要だと思いました。正直、地域活性化センター派遣されるまでの4年間で全くその意識はなかったので、帰任した1年目はこのことを意識したいですね。3年以上になれば、毎年目標設定すれば良いですし(センターの仕事もそうですが!)。

 もう感想も書いていたら案の定、超長くなりました・・・(笑)
 それほど、この本に僕は共感というか心動かされたんだなと思います。昇進も係長とかに
なったら給与そこまで上がらないのに責任増えるだけだから平職員のままでいたいと思っていましたが、今は30代のうちに係長になりたいと生意気な夢を持つようになっております。急に公務員が絶賛されるような世の中にはなりませんが(なったらなったで気持ちが悪い)、公務の意義は常に意識して、自分の今やれるベストを尽くしていきたいと思います。まあ・・・変化の激しい、厳しい世の中でもあるので、あまり公務の意義に囚われ過ぎて。病まないように自分の感情をコントロールするために、応用心理学はガチで勉強したいとも思っています笑笑

 最後に、「ぼくらの履歴書」に村木さんが登場していて、仕事や郵政不正事件の話など本書では触れられていなかったことも、こちらには書かれているので、ご一読ください!
https://employment.en-japan.com/myresume/entry/2020/11/26/103000

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