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出雲地方をX-Pro2と 後編

後編という事で、二日目。
二日目は出雲大社周辺を歩き回る計画。

…の前に初日の夜の話を少し。
無事に稲佐の浜で日の入りを拝み、さて今度こそ帰るか…と宿に向かって歩く。
足は重たいがもう移動手段は歩くしかないので宿までの道を暗い中歩く。

しかし観光の街というのはよく訪れる宮島もそうなのだが、基本的に夜は静かなものだ。もともと土産物のお店が多いのもあり大社前の大通りは街頭がついているだけ。

さぁ、晩ご飯どうしよう。

おそらく出雲大社に観光しに来る人々は付近にある温泉やお食事付きの宿に泊まって旅を満喫するのだろうが、残念ながら私はそうではなかった。
開いている所は…居酒屋が一軒。
宿の人に聞いても開いてる店は付近にはほとんどないとのことだったので結局歩いて5分ぐらいのコンビニでお弁当を買って宿で食べるというちょっと寂しい晩ご飯だった 。(事前に調べてないのが悪いんだけど)
まぁいいのさ元々貧乏旅の予定だったし。
コンビニ弁当も普段買う事はほとんどないし。
風呂に浸かって写真の粗選びでもしよう。

という事で宿を大いに楽しんだ私は二日目を迎える。
身支度をして窓の外を見ると向こうに迂迦橋の大鳥居が見える。



雨こそ降ってはいないが、雲行きはあまり良くない。
今日は天気予報通りに曇りかちょっと降るか、ぐらいになりそうだ。

とりあえず出雲大社への参拝と古代出雲歴史博物館に行く事が目的で、あとは特に決めてはいなかった。
出雲大社は朝から入る事は出来るので宿を出て直行する事も出来たが、せっかくなので朝の内に出雲の町を散策することにする。

宿を出て出雲大社とは反対方向へ行く。
私が歩いた辺りは比較的古い家が多いように見えた。
住むにはあまり便利ではないのだろうか。
だが近くに学校は何個か見受けられたので家族でのんびり暮らすのにはいいのかもしれない。



所々に歴史を感じる場所がある。
やはり知らない土地を歩くのは面白い。
旧大社駅は残念ながら修復工事中だった。(これも着いてから知った)

と、この辺りからパラパラと小雨になってきた。
まぁいいかと思いながら散策を続けているとだんだん雨脚が強くなっているような。
とりあえずカメラに雨が直撃しないようには一応しておこう。
本体は防塵防滴だがレンズはそうではない。



結局小雨で済むかと思ったら普通に降り始めたが、傘など持たない性分なので降られるがまま。
だがしっかり降ってはいるが、雨の当たりは心なしか柔らかいように感じる。
何となく出雲大社が「来ていいよ」と言ってくださっているような気がしたので出雲大社の方向に足を向ける。

そこからしばらく歩いて出雲大社の側まで来た時は、すっかりずぶ濡れで傘を買う気も失せていた。(買う場所もない)
濡れ鼠のまま行くのもどうかな…と思ったがもう今更なのでとりあえず境内に入る。

朝なのもあり、たまにすれ違う程度で人は多くない。
境内をのんびり歩く内に雨も上がった。



出雲大社はそこまで興味がない人にとっては「縁結びで有名の凄い神社」というぐらいの認識だと思うのだが、社殿の大きさや造り、その成り立ち、出雲地方の歴史などいろいろと興味深く、しかも奉っている神様やなぜ奉られているかの理由も多くの神社とは違う、調べれば調べる程面白い場所だ。(個人的には出雲大社において縁結びというのはそこまで重要な事柄ではないと思う。何故そう言われるようになったかもはっきりしていないらしいし。)

出雲大社自体の敷地は広く様々な建物が。
まずは御拝殿にてご挨拶をする。
そして奥にある御本殿をまず正面から、そして御本殿の中で御神体が向いている西の方向からお参り。
垣根で囲まれているので御本殿を間近で見ることは出来ないのだが、遠目からでもその大きさには圧倒される。



出雲大社の御本殿は今現在の形で高さは約24mで、8階建てのマンションと同じぐらいもの高さがある。
さらに驚くのはこの出雲大社、古代では高さは倍以上あったそう。(最古で96m、48m、最終的に24mになったそう)
今現在の形は社殿自体が巨大で高さが24mだが、48mの時はどうなっていたかというと、巨大な樹を3本束ねた物を一つの柱としてそれを田の字に9本並べ、その上に御本殿が鎮座する、という形である。なのでまさしく「天の上に社が建っている」という姿だったそう。
48mってそんなバカな、と思うかもしれないが、幾つかの文献にその事が載っているらしいのと、古代のこの柱(真御柱、宇豆柱)が実際に出雲大社内から出土している(!)
実際研究していた人達からも最初は「ホンマかいな」という意見はあったそうだが、出土したことによって「ほぼ間違いない」という結論になったそうな。ちなみに、この柱は出雲大社内の宝物殿と古代出雲歴史博物館にて展示されている(一部複製だが)
そして古代出雲歴史博物館ではこの48mの高さがどんな姿だったのか、というのを再現した模型も見る事が出来るのだが、「本当にこれがあったのか」と想像するとこれがまた何とも不思議な気持ちになれるので、出雲にいったら博物館は是非行って欲しい。

話を戻して、垣根を回っていくと奥には素鵞社(そがのやしろ)があり、素戔嗚尊(すさのおのみこと)が奉られる。
出雲大社の奥には山があるのと、境内には立派な杉が沢山生えていて空気が非常に美味しい。
樹齢の長い立派な杉は不思議な魅力を湛えている。



出雲大社での見所の一つに、神楽殿にある巨大なしめ縄がある。このしめ縄は間近で見ると本当に迫力がある。長さは約13m、重さ約5tで普段見るしめ縄とサイズが全く別物。遠巻きで見てもその大きさは圧巻で、人が近くにいるとなおそれが強調される。



神楽殿を見てからは出雲大社を後にし、メインストリート(神門通り)に戻り昨日食べれなかった出雲そばを食べる。十割そばだったのでそばの味はしっかりしていて、海苔も普通の刻み海苔ではなく(恐らく)岩海苔を干したものを使っていたので、出雲らしい食事を頂けた。
神門通りには土産物なども沢山並んでいてクラフトビールの幟にも後ろ髪を引っ張られそうになったが振り切って博物館に向かう。



この古代出雲歴史博物館、建物自体のデザインもなかなか良く周りが自然に囲まれているのもあって好きな場所だ。
ここでは先述の通り出土した古代の柱や国宝にもなっている銅剣、銅鐸、その他沢山の歴史的な物を見る事が出来る。ちなみにちょっと驚いたのが、館内は一部を除いてほとんど撮影OKらしい。まぁパシャパシャ撮れるような雰囲気ではなかったので撮ってはないのだが。

個人的な見所はやはり出土した宇豆柱もそうだったが、昭和28年の遷宮の際に取り外された御本殿の千木が見応えがあった。巨大な御本殿の一部なだけあって、千木もかなり巨大で壁一面に展示されて長さは約8mもある。
メイン展示の割と序盤、御本殿再現の巨大模型の後ろで異様な存在感を放っていて、一番魅力的だったかもしれない。駆け寄りたい気分を抑えて、静かに見ている人を演じながら順路通りに進んで、やっと千木の前に到着したのを覚えている(笑)

御本殿然り、しめ縄然り、宇豆柱然り、間近で見た千木然り、今回の出雲旅ではサイズが大きなものを沢山見たのだが、大きなものはそれだけで何か特別なものがあるんじゃないかと思ってしまうのは人間の性だろうか。
古代から人間はその感覚を持っていて、だから大きな物を作り、大きなものに神聖さを与えて来たのだろうか。

展示コーナーで一頻り興奮した後は展望スペースで目の前に広がる芝生と向こうに見える山を見ながら、少しぼーっとする。
服も髪もすっかり乾いた。
せっかくセットしたのも台無しだがまぁいいだろう。
さすがに風邪を引かないかちょっと心配にはなった。

さぁこの後はどうしようと考える。
とりあえず今日の目的は果たした。
もう一度出雲大社に行くか?それとも雨の稲佐の浜を撮るか?
正直疲れていてあまり歩く気分ではなかった。
昨日も1日歩き回ったし(その内半分は陽が照る中、岩の上を)今日も朝から濡れながらだったので身体はぐったりだった。
かと言ってカフェ巡りとかしても仕方ないしな…



と、いろいろ考えたが結局朝のように観光地っぽくない所を歩いてみるかと思っていつも通り歩き出す。
しかしお陰で良い写真が撮れたし、やはり私は歩くのが性に合ってると気づいた。



夕方になってまた雨が降り出す。
もうそろそろ頃合いかと思って大人しく出雲市駅に向かうバスを待つ。
バス停について時間を確認するとバスが来るまで20分程あるが大人しく待つことにする。

バス停の屋根の下で僕は目の前を流れる車を眺めていた。
夕方なのもあり、仕事終わりっぽい人も多い。
この人たちも家に帰るのか、と車を見送っていく。

バス停には一人の男の子、そしてお婆ちゃんとお母さんと孫娘、というご家族が後から来た。私と男の子は並んで立ち、お婆ちゃんは荷物と共に座ってその側にお母さんと孫娘が立っている。バス停は屋根があるタイプで雨はしのげるが、少し雨脚が強くなったところでお婆ちゃんが孫娘に「濡れるからもっとこっちに寄りな」と言う。孫娘は「大丈夫、ありがとう」と返す。

バスが来たが席は空いていたのでご家族が先に乗り込むのを私と男の子は黙って待つ。
バスの中で私はうとうとしながら外を眺める。
ご家族や男の子がいつ降りたかはわからない。

この出雲の旅は神社仏閣と自然という私が大好きなものを堪能出来る旅だったわけだが、そのどちらも繋がっていて、そしてこれが繋がるという感覚、そして生活に根ざすというのが人間として、とりわけ日本人として特に大事なものなのだろうという事を確認出来た気がする。
だから私はそれら単体だったり、それらを感じられる人の営み、そういったものにカメラを向けたいと強く思うようになった。
だが風景写真家になりたいか、と言われるとそれは違うと思っていて、あくまで人がこれまで見て来て、そしてこれからも見るであろうという視点というのは損なわないようにしたい。

だから今後も人の視点から離れた超望遠や魚眼などのレンズを使うことは、少なくともライフワークとしてはないだろう。
あくまで自分の見る視点、誰かが見れる視点の写真を、これからも撮り続けたい。



camera : FUJIFILM X-Pro2
lenses : XF23mm F1.4 R, XF18mm F2 R, OM Zuiko 50mm F1.8
film simulation : ACROS & Classic Chrome

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