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想い出の栃木 前編

私の母は栃木県の出身で、父と結婚して香川県に移り、そして私や兄妹が生まれた。夏になると、母方の実家である栃木に行くのが恒例だった。少年時代の夏という大事な時期を沢山過ごしてきた場所。大人になってからは家族と都合も合わないのもあり夏以外の季節に一人訪ねることも増えた。といっても広島からはそうしょっちゅう行ける訳もなく、尚且つコロナも重なってここ数年は全然訪れる事が出来なかった。

そして今年、ようやく久しぶりに栃木に行く予定が出来た。
きっかけは母からの電話。
「栃木で法事もあるし、久しぶりに父さん母さんとも会おう」
そう、栃木は勿論の事だが香川の実家にも久しく顔を出していなかった。
帰る機会がなかったと言えばおそらく言い訳になるが、なかなか都合が合わずかれこれ3年ぐらい実家に帰っていない気がする。大人になってから両親との噛み合わなさを感じてしまうようになり、そこから何となく帰るのを避けてしまっていたのだと思う。

どうして今回「行こう」と思ったかと言えば、自分でもあまりはっきりとした理由はわからない。栃木の祖母の家が好きなのでそこに行きたいというのがおそらく理由として大きかったが、今までなら「一人で行く」など言っていたかもしれない。まぁ単純にそろそろ流石に顔を合わせねばと思ったのだろう。

そんなこんなで連休を取り2泊3日で栃木へ向かう。
栃木県は結構遠い。新幹線で東京まで4時間。そこから宇都宮までまた新幹線で50分程。そして実家のある那須烏山の方に乗り換えなども合わせて1時間程。細かな移動も合わせたら6〜7時間は掛かる。
と、改めて移動について調べものをしていた時にふと、数年前の祖父の葬式の際に父が話した「娘さんが遠い所に嫁ぐのを許してくれた」という言葉を思い出す。そうだよな、遠いよな、などと考えながらスケジュールを立てる。

しかし今回は祖母を連れて鬼怒川温泉に行くと伝えられ、行きは祖母の家ではなく鬼怒川観光ホテルに向かう事に。結局移動時間は変わらないぐらい遠いのだが。



東京についてから浦和駅に行き、そこから特急に乗り換え鬼怒川へ向かう。
幸いな事に新幹線も特急も乗客は少なくゆったり過ごす事が出来た。私はボーッと何もしなかったり音楽を聴くだけの時間を半分強制的に作れるから乗り物問わず移動が結構好きだ。この日はパソコンを開いて溜まっていた写真の整理など作業もしていたが、日頃の疲れが現れたのか結局寝るかぼっーっとするかでほとんど過ごしてしまっていた気がする。

車内でいろいろ考える。
温泉楽しみだな。
食事はどんなのだろう。
ばあちゃんは元気だろうか。
両親に会って私はどんな顔をしているだろう。
両親は私に会ってどんな顔をするのだろう。



鬼怒川温泉駅に着く。両親から「いつ着くの?レンタカーで側まで来てるからチェックイン一緒に行く?」と連絡が入っている。「ぶらぶら写真撮って後で一人でホテル行く」と返事をし、駅を出てすぐの辺りで写真を撮る。今回もX-Pro3とXF33mmは傍にあり、XF16mmも鞄に忍ばせている。



するとすぐにどこからか名前を呼ばれる。声のする方を見るとレンタカーの中から両親の顔が覗いていた。
一瞬「げっ」と思い、側まで行く。
「ちょっと写真撮って回りたい」
「あ、そう。父さんと母さんはそこの有名な橋に行くけどどうする?」
まさにそこは私も今から行こうと思っていた所だったので、観念して素直に便乗させてもらう。

後部座席には祖母が乗っていた。久しぶりに会った祖母は髪も白くなり一段と小さくなってしまっていた。少し会話をしたが、やはりちょっと元気がない。母や祖母の妹さんがこまめに連絡は取っているらしいが、やはり一人では元気が出ないのだろうか。

そうこうしていると目的地の鬼怒川盾岩大吊橋に着く。
車を降りて、ちゃんと両親の姿を見る。
両親とも老けたな。
私は何か変わって見えただろうか。
とりあえず母からは「ちゃんと食べてるの?」という事をまず聞かれたが。

両親と他愛のない話をしながら橋を渡る。
橋は思ったよりも大きくはなかったが、そこから見る景色は美しかった。




橋を渡ってさらに奥に行く道があったので、私はそちらに進み両親は車に戻って先にチェックインする事に。とりあえず一人になり一息。
気を取り直して奥へ進んでいく。展望台があるそうなのでそちらへ。



橋の周辺を堪能してからは、今回宿泊させてもらう鬼怒川観光ホテルへ向かいつつ鬼怒川の温泉街をぶらぶらスナップする。
あまり遅くなってもいけないと思ったので大体大きな道を通っていたのだが、それでもあらゆる施設の老朽化が目についた。後から調べたらSNSなどでもこの鬼怒川の廃ホテルなどが話題になっているそうだった。



鬼怒川観光ホテルに着くとロビーで両親と落ち合い、部屋へ向かう。歴史のあるホテルらしくどことなく古い感じはあるがロビーも広々としていて立派な所だった。こんな良い所に泊まるのは久しぶりだ。ありがたく羽を伸ばさせてもらおうと思いながら館内着の浴衣を選ぶ。部屋は父と二人。少しぎこちないながらも普通に会話をする。

とりあえず温泉入ってビール飲んで飯食おうぜという事で一緒に温泉に向かう。銭湯は近くにあるからたまに行くけど、温泉は久しぶりだな、などと話しながら二人で温泉に行く。
湯場では最初父は離れた所で浸かっていたが、それはそれでなんだかなぁと思いこちらから隣に行く。久しぶりの父との二人きりでの会話。仕事の話や兄と妹の近況、彼女作れよなどとどうでも良い話だったが、少しづつ今の自分の価値観を織り交ぜながら話す事が出来た気がする。父に何か伝わっただろうか。

温泉を出てからは二人でロビーでビールを飲み、母と祖母と合流して夕食のバイキング場へ向かう。
ここで母とまともに話す…というより心配されてひたすら食事を摂らされる。もう食えないと言ってるのにあれ美味しかったよこれ取ってこようかと言われ続ける。まぁきっと母親とはそんなものなのだろう。
ちなみに栃木は内陸なので海産品は地産出来ないはずだが、バイキングには結構な比率で海産物があった。もっと地元っぽい料理を出した方がいいんじゃないの?と思ったのはどうでもいい話。

食事を終えてからは部屋に戻り、母がワインを持ち込んで3人で飲もうという事に。父と母が向かい合って座り、私はベッドに座ってテーブルを囲む。
しかし私はワイン1杯飲んですぐに横になってしまった。
日々の疲れが温泉と食事で爆発してしまったのに違いない。きっとそうだ。
二人で話しているのを何となく聞きながらうとうとする。
父は母に温泉で話した内容を伝えている。
母は私の心配をする。


気がついたら眠ってしまっていた。夜中ふと目を覚ますと父の盛大ないびきが聞こえる。この盛大ないびきがまた懐かしく、母はよくこの横でいつも寝られてるなと感心する程うるさい。
しかし再び猛烈な眠気がすぐに訪れ、私はまた眠りに落ちた。



camera : FUJIFILM X-Pro3
lenses : XF33mm F1.4 R LM WR, XF16mm F2.8 R WR
film simulation : ACROS, Classic Neg.

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