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雪の三滝寺 カラーとモノクロを再考する

広島県の三滝にある三滝寺は、境内の豊かな自然や無数のお地蔵様などが有名で、秋になると紅葉スポットとして人気の場所となる。
私自身、1シーズンに一回ぐらいは行くようにして、その時々の自然を楽しむようにしているお寺だ。
そんな三滝寺だが、昨年末の寒波の影響で大雪になったこともあり、今まで見たこともない姿になっているだろうという事で大雪の中訪れた。

そこまでの経緯は前回記事にて。


道中の銀世界の時点で十分期待は膨らんでいたのだが、三滝寺のある山へ続く坂道を登りながらそれはさらに大きくなっていく。


X-Pro3 + SIGMA 30mm F1.4 DC DN contemporary / ACROS


そして三滝寺の入り口に着いた時点でその期待を大きく上回る景色が待っていた。
まさに一面真っ白。
そもそも草木以外は石で作られた物が多く色彩が少ない景色だったので、それが雪によって完全に彩度が失われたよう。

前回訪れたのは紅葉の時期で、境内の紅葉や銀杏の木が赤や黄色に染まる景色が何とも美しかったのを覚えている。だがそのほんの一ヶ月後の今では一面真っ白になってしまっているのだ。自然というのは面白いし恐ろしい。

そんな三滝寺の姿を前に「よし」と意気込んで境内に入る。
レンズはとりあえずSIGMA 30mm F1.4、いつもはJpegで撮影だが今回は雪景色を撮るのは初めてなのでRAWで撮る事にする。とりあえずのシミュレーションだけいつも通りACROSにしておく。

境内にはほとんど人はいないが、同じように滅多にない雪の三滝寺を見に来た方は何人かいた。境内で出会ったおじさん方と「すごいですね」「足元気をつけましょうね」などと軽くやりとりする。みんな感動していた。


X-Pro3 + SIGMA 30mm F1.4 DC DN contemporary / ACROS


三滝寺には県の重要文化財である多宝塔があり、中には国の重要文化財である阿弥陀如来坐像が安置されている。多宝塔は原爆犠牲者の慰霊の為に和歌山から移設されたもので、三滝寺への道中の墓園にも原爆犠牲者のお墓などがある。多宝塔はここ数ヶ月は修復工事(塗り直し)で姿が見られなかったのだが、この時には姿を見ることが出来た。
多宝塔は境内入って比較的すぐの上がった場所にあるのだが、下から見上げた時に朱色の塔が見えた時は非常に感動した。周りが白いので尚更その美しさが際立つ。

境内で写真を撮っていると色々な画角が欲しくなったので結局雪の中ガチャガチャとレンズを変えながら撮影をする。指が冷たくて動きが悪いがセンサーや電子接点に雪がつかないように必死で交換。
撮影は基本X-Pro3をOVFにして行っていた。雪がどんどん降っているのと、時折葉っぱから雪が流れ落ちたりするのをOVFの素通しファインダーでしっかりと見ていたいと思ったからだ。それに今回はRAWだから露出が多少合っていなくても後で何とか出来る。この考え自体はあまり好きではないがこういった時には便利だと素直に思う。
なのでOVFで見える世界をブライトフレームで切り取り、それをモノクロに変換するという事を最初はしていたのだが、プレビューで写真を見返した時に

「あれ、現実世界の方がモノクロじゃないか?」

と思った。
自分で思っておいて自分でも最初はよくわからない感覚だったのだが、おそらく普段色のある世界から色を抜いた状態で写真を撮っているが、今はそもそも色がほとんどないので現実をそのまま切り取った方が綺麗なんじゃないのか?と思った、と今では認識している。

三滝寺は宗箇山という山の中腹に立つので、御本堂への参拝は坂道を登っていく事となる。道中に見える景色がまた美しい。
自然もお地蔵様も雪を被っている。

御本堂辺りを撮っていると、人がいると思ってなかったのかお寺の方にびっくりされる。だが「綺麗ですね〜気をつけてくださいね」と声を掛けてもらえる。こういったやり取りが嬉しい。
御本堂で参拝を終え、来た道をゆっくり戻って三滝寺を後にした。

RAW現像を行う

家に帰って撮れた写真を確認するのが、写真を撮る人間にとっての特にワクワクする時だと思う。
しかも今回はRAWで撮ったのでどんな写真に仕上げるか追い込む楽しみがあるので尚更だ。

という事でX RAW Studioを起動し、撮影した画像を確認していく。
とりあえずアクロスをシュミレートしてモノクロにしてみるが、やはり今回の写真はカラーの方が良さそうだ。
そしておそらくこれは雪景色の撮影をした事がある方にとっては常識なのだと思うが、オートホワイトバランスのままだと白がかなりマゼンタに転んでしまっている。うっすらピンクの世界になってしまっているのでまずはこれを直し、そしてフィルムシミュレーションをどうするかを考える。


ちなみにこれはクラシックネガ。そもそもがマゼンタ寄りなのでえらい事に。

いつも通りクラシックネガ?
落ち着いた感じでクラシッククローム?
ダイナミックレンジを優先してエテルナ?
いや、自然なのだからアスティアかベルビア?

など変えてみるが、最終的には雪の表現が一番素直だと感じたのはのはエテルナと感じ、一通りエテルナを当ててみる。


エテルナ

が、何かが違う。何か物足りない。
確かに階調も良く落ち着いた雰囲気となり雪の写真としては理想的かもしれないが、自分が求めているものとは少し違う気がする。
なんだか面白くないし、撮影中に感じた感覚とは少し違う。

どうしようかと考えていると、「雪をただ白くするんじゃなくて、色彩を感じられるようにしたい」と思いつく。
となると、色自体に癖が出て、シャドウやハイライトにも色が乗るクラシックネガの出番だとなる。結局クラシックネガかと自分でも思ったが、ただ当てただけでは理想にならないのは先程知ったので、ホワイトバランスを調整をして雪と雪のシャドウの色が理想になるように追い込む。

フジフイルムの素晴らしい所はフィルムメーカーとして培った知識による画作りで、「この状況でこう撮ればこう転ぶ」などといった色の出方、乗り方を熟知しているという事。だからクラシックネガは露出の調整によって色の乗り方も変わるし、ハイライトやシャドウの色づきも変わってくる。そしてホワイトバランスの調整がしやすい。不自然になりにくいというか、「こう調整したい」と思ったのを簡単に実現出来る。
ちなみにこれはX RAW Studioを使ってPC上でカメラ内RAW現像をしているから得られる恩恵でもある。私はCapture Oneも使用していて同じように頑張れば出来ると思うが、なかなか骨の折れる作業になるのでは?と思う。フジフイルムとしてもカメラ内で完結する画作りを目指しているらしく、実際それぐらいの事をカメラだけでやってくれる。(私の場合は撮って出しではなく、そこから少しレタッチはするが)

と、調整が済み、そのシミュレーションを他の写真に当ててみる。
うん、なかなか良い。
白をただ白くするのでなく、そしてシャドウにうっすら色が乗る事だったり雪の隙間から見える木肌でほんのり色を感じられる。
結局理想としてはモノクロの写真で同じように色彩を感じられるぐらい凄い写真が作れたら良いわけだが、今回はそこにたどり着くまでの一つの道のりとして非常に意味があったと思う。

大雪という広島では滅多にないシチュエーションのお陰で、カラーやモノクロについて再考する事が出来た、非常に良い経験となった。


以下作品


X-Pro3 + SIGMA 30mm F1.4 DC DN contemporary / Classic Neg.
X-Pro3 + SIGMA 30mm F1.4 DC DN contemporary / Classic Neg.
X-Pro3 + XF14mm F2.8 R / Classic Neg.
X-Pro3 + XF23mm F1.4 R / Classic Neg.
X-Pro3 + XF23mm F1.4 R / Classic Neg.
X-Pro3 + XF23mm F1.4 R / Classic Neg.
X-Pro3 + SIGMA 56mm F1.4 DC DN contemporary / Classic Neg.
X-Pro3 + SIGMA 56mm F1.4 DC DN contemporary / Classic Neg.
X-Pro3 + XF23mm F1.4 R / Classic Neg.


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