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デジタル技術活用によって目指す姿

 前の記事で、デジタル技術活用によって目指す姿を明確にする上で、他社のデジタル技術導入事例を活用できると記載しました。具体的に目指す姿を考えるのかが課題になると思われます。
 以下に仮想の製造業企業を設定して、DX推進におけるデジタル技術活用による目指す姿を考えてみます。なお、私が想定して記載したもので、存在する企業の事例ではありません。

仮想製造業企業の状況

①仮想製造業の概要
・金属製品の部品製造
・下請部品製造が中心
・複合加工機を導入
・生産管理システムを導人
・様々な業務にアナログ的作業が存在
 現状のイメージを図に示します。

図1 仮想製造業企業の業務の流れて

②経営戦略を踏まえた現状分析とDX推進の前提条件
 目指す姿を考える上で、経営戦略を踏まえた前提条件が必要になると考えます。事業環境や経営戦略からデジタル技術活用によって、何を解決し実現するかを考える上で必要なものです。
 仮想製造業企業の前提条件は以下とします。

1)受注環境
・製造単価は低下傾向
・製品企画段階から参画しないと高額受注は不可能
・顧客も人手不足。製造企画段階からの参画は可能

2)社内状況
・常に人手不足。新規採用はできていない
・社員は、べテランと若手。べテランの知識・経験を伝授できていない。若手はミスが多い
・新たな活動を行う余力がない

③デジタル技術活用により目指す姿
 前提条件より、デジタル技術活用により目指す姿を考えます。
 結局、目指す姿は、経営戦略・経営ビジョンをデジタル技術活用によって実現させるものになります。
 当仮想製造業企業の場合は、以下を目指す姿とします。

(目指す姿)
下請製造企業から顧客の製品開発におけるパートナー企業に変革する。
実現するために顧客の製品企画段階から技術的な側面で顧客に提案・支援が可能となる社内体制を構築する。

 目指す姿は、デジタル技術の活用によって実現させますので、活用内容も同時に考えます。

3ステップのデジタル活用例

 以下に3ステップのデジタル活用のイメージを記載します。
 3ステップともパートナー企業への変革という目指す姿は同じと考えます。但し、具体的に達成できる成果(数値目標)や達成までの時間が異なってくると考えます。
 各ステップは、以下と考えます。

(ステップ1)
ムダ作業時間削減→余力で目指す姿を目指す活動→成果は限定的。時間もかかる

(ステップ2)
製造作業を全て自動化→価格競争力確保。製造担当者の大幅な余力で目指す姿を目指す活動→ステップ1より、成果大。早い達成

(ステップ3)
全業務の自動化・効率化→目指す姿達成

 実際のデジタル技術活用の検討は、具体的に達成させる成果目標を明確にした上で検討する必要があると考えます。

(ステップ1 )ムダ作業時間削減

 ステップ1は、付加価値のないムダ作業を削減し、生み出した余力で新たな取り組みを行うものです。DX推進活動における最終の目指す姿になるかというと中途半端なところはありますが、まず、取り組む姿として考えることはできます。
 イメージ図を以下に示します。

図2 ムダ作業時間削減の場合のイメージ

①デジタル活用のポイントと効果
「付加価値のない作業の削減、問題発生の未然防止の仕組みの構築」
   ↓
・新たな取組実施のための時間確保
・製造コストの低減(労務費低減、廃棄ロス削減)
・品質の安定(ミス発生防止、作業レベルの均一化)
・社内情報伝達の迅速化

②デジタル技術活用のポイント
1)生産管理システムへの入力効率化
・情報発生時点で入力。
→ 二重作業(紙のメモ→システム入力)時間削減

2)製造指示書のペーパーレス化
・製造指示書の画面での確認。
→印刷、配布時間の削減

3)人手作業の実施支援
・作業場に設置した画面に作業内容や留意点などを表示。作業時に確認させる仕組み構築
→若手(未熟練社員)の作業ミス発生の防止

4)複合加工機監視業務の効率化
・加工機状態を事務所画面に表示。正常時は、事務所で別作業実施。
→手待ち時間削減

(ステップ2)製造工程の自動化

 ステップ2は、製造工程を自動化することで効率化し、他社との競争優位を確保した上で、生み出した余力で新たな取り組みを行うものです。
 当案のイメージを図に示します。

図3 製造工程自動化の場合のイメージ

①デジタル活用のポイントと効果
「製造工程の自動化により、人手に頼らない製造工場を構築」
   ↓
・新たな取組実施のための時間確保
・価格競争力の確保(製造コストの大幅低減、失敗コスト削減)
・顧客満足度の向上(誤出荷防止、納期厳守)
・社内要員不足の解消(人手を必要としない製造)

②デジタル技術活用のポイント
1)複合加工機を動作させるための人手作業削減
・材料投入、加工品取り出しのためのロボット導入
・動作プログラムの自動変更
→作業自動化による作業時間短縮。誤作業実施の防止

2)検査工程の人手作業削減
・製品画像から外観検査判定自動化の仕組み導入
・自動寸法測定装置の導入とシステムによる合否判定
→作業自動化による作業時間短縮。不良品出荷防止

3)製造指示作業の効率化
・事務所設置画面より、作業開始指示の実施。異常発生以外は、事務所で別作業実施。
→工場への移動時間削減。設備稼働率の向上

(ステップ3)全工程の自動化・効率化

 ステップ3は、部品製造に関わる全工程を自動化・効率化することで競争優位性を確保するものです。
 当案のイメージを図に示します。

図4 全工程自動化・効率化の場合のイメージ

①デジタル活用のポイントと効果
「あらゆる業務の自動化・効率化により、デジタル化工場を構築」
   ↓
・競合他社との競争力確保(短納期化、製造コストの大幅低減)
・顧客満足度の向上(顧客要望納期への対応、適正価格)
・自社の戦略に適う業務遂行が可能(社内要員は、パートナー企業になるための顧客との技術面での対応に注力)
・社内体制の強化(最小要員での対応、多品種少量生産への対応)
・新たな製品・サービスの開発・改善のための取組時間確保

②デジタル技術活用のポイント
1)顧客接点、見積作業の効率化
・見積・注文受付に関わる業務をネット上で完結する仕組み導入。
(図面入手、図面からの見積自動実施、見積結果の即時回答、注文の受付)
→顧客利便性向上。顧客接点・見積などの作業時間削減

2)複合加工機動作プログラム作成作業の効率化
・図面から動作プログラム自動作成の仕組み導入
→作成時間の削減

3)製造開始指示の自動化
・見積→注文受付→動作プログラム作成→製造開始指示の自動化が行える仕組み導入
→顧客利便性向上(短納期化)
各種作業時間の削減。設備稼働率の向上

 以上、3ステップを想定して、デジタル技術活用ポイントと導入効果を記載しました。当活用は、従来から実施されているデジタル化(IT化)の範疇であり、特別なものではないと考えます。当内容をDXにより目指す姿を達成させるためには、デジタル活用による効果をどのように目標達成のために活用していくかの検討が重要になると考えます。
 例えば、製造担当者や営業担当者、事務担当者は、大幅な余力が発生します。発生した余力を新規顧客開拓活動や新サービス検討に当て、競合他社との差別化を図るなどです。また、自動化による製造担当者の負荷低減により複数の複合加工機を導入して、製造担当者の数を増やさずに製造可能量を大幅に増加させ、これまで取りこぼしてきた受注を確実に受注することも可能になります。自動化による大幅なコスト削減とWEBによる即座の見積回答により、競合他社との差別化を図り、受注拡大させることも可能になります。
 デジタル技術活用によって目指す姿の検討は、DXの目的である競争優位性確立を念頭におくことが重要と考えます

まとめ

●目指す姿を考える上で、経営戦略を踏まえた前提条件が必要。
●目指す姿は、経営戦略・経営ビジョンをデジタル技術活用によって実現させるもの。
●デジタル技術活用検討のために達成させる成果目標を明確にする。
●デジタル活用による効果をDXの目標達成にどのように活用していくかの検討が重要。
●デジタル技術活用によって目指す姿は、競争優位性確立を念頭において検討することが重要。

 以上、仮想の製造業企業を例にデジタル技術活用による目指す姿について記載しました。私は、経営者が目指したい会社の姿を明確にもって、実現するにはデジタル技術が必要であり、活用すれば達成できるという思いが、大切なのではないかと思っています。

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