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生命のすごさ💫(2)酵素:酵素は身体の中でどう働いているの?

生命のすごさ💫(1)酵素:酵素がなかったら?で、酵素は生体の化学反応の速度を速める触媒として働くことを書きました。酵素なしではあまりに遅すぎて生命が成り立たないような反応を引き起こせるということです。それだけでも酵素はすごいと感じられると思いますが、さらに酵素反応の生命活動に欠かせない特徴を挙げてみたいと思います。

まず酵素が触媒であるという意味ですが、酵素自身が変化せずに酵素に反応物(基質という)が結合して反応を引き起こさせるということです。その基質の結合はとても特異性が高く、通常はただ一つの(またはそれと類似の少数の)反応物を認識し、結合して特異的な産物を生成します。つまり、生体内で何千種類もの反応が起こりますが、それぞれの反応にそれぞれ構造の違う酵素が触媒しているということです。それに対しほとんどの非生物触媒は非特異的です。

酵素の研究は、目的の酵素を単離、精製して試験管内で反応を測定するという方法で行われています。そのなかで各酵素反応に下記のような条件が必要となります。
✅最適な温度
✅最適なpH (酸性度、アルカリ度)
✅最適な塩濃度
✅金属イオン(例. Ca, Mg, Zn, Cu, Mn, … 等)が必要な酵素もある。
✅補酵素と呼ばれる、酵素反応の際に基質と共存することが必要とされる化合物(ビタミン類)が必要な酵素もある。
✅他の酵素やタンパク

上記の温度、pH、塩濃度、溶媒など置かれた条件の違いによって、タンパク質である酵素は立体構造が容易に変化しその働きが影響されます。条件が大きく変わると立体構造が不可逆的に大きく変わり(変性)、その触媒としての能力を失ってしまいます。胃で働く消化酵素のペプシンのように強い酸性下(胃液はpH=2)で働く酵素もあります。一方、他の殆どの酵素はこの条件では変性し、失活してしまいます。

大抵の酵素は体温(37˚C)、中性付近のpHなど温和な条件(生体内の条件)で最も良く働きます。

一般に化学反応は高温で起こりやすいものですが、酵素反応は37˚Cのような温和な条件で反応を起こす事ができます。(もちろん、極端な環境に生息する好熱菌などの高温で反応する耐熱性酵素もある)

また、pHに関しても生体内はほぼ中性に調節されていますが、やはり酵素も中性付近でよく働くものが多いです。このことも他の化学反応が強酸性、強アルカリで反応させることが多いのと比べても特殊的であることがわかります。

そして、酵素反応の大事な特徴として水の中での反応であるということがあります。大学で有機化学合成の実験で水を使うことは殆どなく有機溶媒の中で反応させていたのを覚えています。生物化学と有機化学を分けるものは水なのかと思いました。水の性質の特殊性と生命が水から生まれたということを考えるととても興味深いと思います。

このように、酵素の研究は酵素の発見以来100年以上に渡って試験管の中で多くの研究が行われ、何千という酵素の性質が明らかになってきています。ひとつひとつの酵素がそれぞれ違う性質を持っているので、試験管内だけでも大変な研究なのです。
そして、実際に生体内において、試験管内で示す同じ挙動で酵素が働いているかどうかはまだ研究が始まったばかりなのです。複雑な環境である細胞内で、試験管内での単純化され最適化された条件で同じように働いていないのではないかと考えられてはいました。生体内で直接酵素の働きを観察する事は非常に困難ですが、2017年に下記の研究が発表されました。How Enzymes Behave “At Home” in the Cell 
Quantifying enzyme activity in living cells
直接細胞内で酵素の働きの効率を初めて調べたもので、酵素の活動に意外な制約があることを明らかにしました。つまり、細胞内でのある酵素による触媒作用を調べると、試験管内のものと化学的には同じであるようだが、反応効率が異なっている可能性があるということです。細胞内の複雑性を考えると当然かもしれません。

つまり、体内では、何千種類もの性質の違う酵素がミリ秒単位の速さで、反応を起こし様々な環境因子から色々な影響を受けその役割を果たしているのだと想像するとその複雑さ、壮大さに驚きを感じます。

そのような酵素の働きをオーケストラにたとえた、ENZYMES The Fountain of Life by D. A. LOPEZ, M.D. から引用してみます。

多種多様の異なった酵素がお互いに相互依存しながら生体内で休むことなく、まるで完璧に調和のとれた交響曲を生み出す大オーケストラのように働いている。この完璧な平衡状態というものが、生命を維持し、健康を保ち、すべての生命活動を担っているのである。それは、バランスを維持するための繊細でかつ驚くべきシステムであろう。

参考:
カラー図解 アメリカ版 新・大学生物学の教科書 第1巻 
カラー図解 アメリカ版 新・大学生物学の教科書 第3巻 
酵素反応のしくみ 藤本大三郎
Image by esudroff from Pixabay


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