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将棋メシの話〜竜王戦 藤井棋聖×丸山九段〜


「いや〜、驚きましたね・・・」

「長考に入りましたね」

「これは新手が見られるかもしれませんよ」


 将棋解説ではお馴染みのコメントだが、実はこれ、将棋の手についてではない。7/24に行われた竜王戦で、丸山九段が頼んだ昼食についてだった。

 丸山九段と言えば、注文の仕方に特徴がある棋士で有名なのだ。解説の中座真七段は「手は読めます。麻婆豆腐丼の一択ですね」とまで言い切った。丸山九段はカロリー消費理論に基づいて注文内容を決めているとか、なんとか。最近は昼食は麻婆豆腐丼、夜はヒレカツ定食というのがお決まりのコースらしい。

 だが予想に反して、丸山九段はじっと考える。そこで冒頭の発言につながるわけだ。もちろん将棋の解説に寄せたコメントだが、ウケ狙いというより、結構真面目に昼食の注文解説をしているのが面白い。将棋の解説と同じか、それ以上の熱量だ。

 ちなみに藤井棋聖は注文の仕方がバリエーションに富んでいると紹介されていた。その辺も将棋の指し方の棋風にも通じるところがあるのか、ないのか。

 先日の棋聖戦では、対局者の渡辺前棋聖が、藤井さんが遠慮せず頼みやすいように、自分が率先して高い鰻重を頼んだ、ということがニュースになっていた。タイトル戦では棋士の食事は自腹ではなく、スポンサーから提供されるので、こうした話につながるわけだが、たかが注文の仕方ひとつでもエピソードが隠れていて面白い。

 しかし、将棋を観戦しない人からすると、ランチにこれだけ注目が集まるのは意味がわからない、という人もいるだろう。だが、理解できないような深い思考の戦いをする中で、ふと庶民の側に降りてきて、我々と同じ食事の注文をする棋士を見るのは、なんとなくほっこりするものだ。一気に身近な存在に感じる瞬間だろう。

 ちなみに、この日二人が頼んだ昼食は

藤井棋聖:肉豆腐弁当(ご飯少なめ)
丸山九段:チキン南蛮弁当、肉豆腐弁当(大盛りそうめん)

 だった。丸山九段は二人分の注文で、前評判通りの大食漢ぶり。一度そうめんを大盛りに変更し、迷って普通に戻し、最終的にはやはり大盛りにしたということまで仔細に渡り紹介されていた。プライバシーはゼロだが、そんな細かいエピソードからも人柄が伝わってくるのが将棋メシの見所だろう。願わくば、将棋の手では迷いがないことを祈る。

 試合は序盤から丸山九段がノーガードで棒銀を選択し、急展開模様。進行が早く面白いので、こちらも見所満点だ。解説の中座七段が「夕食までいかないかもしれません」と言っていたが、夕食注文もぜひ見たいものだ。


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