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夏の終わりとサンフランシスコ 2019【猫町旅日記】10

昨年の夏の終わりにサンフランシスコに行った記録。こんな2020年になるなんて微塵にも思わなかった。また心を昂ぶらせながら海外旅行に行きたい。

旅の最後の夜、僕はサンフランシスコ郊外の街パロアルト、フロスト・アンフィシアターの最前列にいた。夜のとばりが降りて、ついにTHE NATIONALの面々がステージへ。Youtubeで漁るように観たダイナミックな演奏を生で、目と鼻の先で体験できる喜び。僕がTHE NATIONALを好きになったのは2017年『Sleep Well Beast』からで、それまでいっかいのUSインディーバンドでしかなかった彼らがどういうわけか突き抜けた存在になった。ファンクラブに入ってその動向を見守った。この感じは、あれだ、R.E.M.を好きな感じに似ている。R.E.M.が2011年に消滅した後を継ぐのが僕にとってこのバンドだった、ということになる。

2018年にリリースされた『I AM EASY TO FIND』は、そういうわけで僕にとって年間ベストレコードとなった。アルバムの内容はもちろん、その楽曲をサンフランシスコで浴びたことは何物にも変えがたい経験となった。ボーカルのマットはステージにとどまることなく何度も客席へ飛び出していき、そのたびにオーディエンスが熱狂の渦に。僕もその背中にさわった。マットも僕も汗びっしょりだった。すべての曲で観客がシンガロングするところがアメリカ本国だなあと感動した。

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2時間ずっと至福のときが続く。東京から遠く旅をしてきて、素晴らしい風土に興奮して、そこで大好きなバンドの歌を聴くという幸せよ。これからの音楽人生にとってひとつの指針になるはずだ。アンコールの最後の歌は「Vanderlyle Crybaby Geeks」、PAを通さない生音で、歌は観客が担った。スモークが残ったステージが幻想的で、その風景がとにかく美しくて、東京に帰ってきてからもこの曲ばっかり聴く何日かがあった。

興奮さめやらぬまま帰路へと向かう流れに乗って、肌寒くなったパロアルトの街を歩く。アルバムレコーディングの予定が大幅に遅れて(本当はこの頃アルバムが完成しているはずだった)かなり無理して詰め込んだ旅行だったけれど、このタイミングで自分が好きなアメリカで、大好きな音楽に抱かれる数日間があって本当によかった。時間が経つにつれて、すべてが点と点で繋がっていくのだろうな、と思う。ここ2年インドネシアのバリ島旅行が続いたけれど、サンフランシスコに行って「やっぱアメリカだな」と思ったのも束の間、帰国するなり曇天の東京の空の下で「やっぱバリも行きたい…!」と思っている自分がいた。旅は続く。果てしなく。

パロアルトのホテルで最後の夜を過ごし、サンフランシスコ国際空港まではUberで移動した。その車のドライバーさんは日本が大好きな人だった。バックミラーにたくさんの日本のお守りとかキーホルダーを下げていて、「僕の奥さんに大阪でプロポーズしたから思い出の街なんだ」とニコニコしながら語ってくれた。来年のオリンピックで日本に遊びにいきたいけど観戦チケットが取れなくて四苦八苦しているらしい。「baby driver」という曲はバリ島で作った曲だったけれど、今回の旅でUberに乗るとき頭の中で流れる曲も決まって「baby driver」だ。僕を連れていけよ、ここじゃないどこか遠くへ。2020年もまた新しい音楽の旅に出かけられたら、と思う。(完)

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