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『へそくり社長』(1956年・東宝・千葉泰樹)


「社長シリーズ」第1作!

 「社長シリーズ」第一作『へそくり社長』(1956年・千葉泰樹)。戦後、藤本プロを作って外部プロデューサーだった藤本真澄が、東宝に返り咲いて製作。『三等重役』の河村黎吉が亡くなっていたので、『夫婦善哉』で評価を得た森繁久彌が、前年の『森繁の新入社員』から8ヶ月で一足飛びに社長昇進。

 『ホープさん』に始まる東宝サラリーマン映画はフレッシュマンものだったが『三等重役』で管理職の悲哀を描き、それが融合したのが『へそくり社長』。小林桂樹の秘書と森繁社長に、三木のり平のC調管理職はここから始まる。のり平は、最初はどじょうすくいの演技指導で参加しただけだったが、森繁の「君も出なさい」の一言で出演者となる。

 小林桂樹の恋人は同僚の司葉子。二人のランデブーの邪魔をしてしまうのは、奔放な前社長令嬢・八千草薫。この展開は『フレッシュマン若大将』などでもリフレイン。云うなれば東宝映画の伝統。森繁社長の浮気相手は藤間紫さん。この二人平成の「社長になった若大将」にも出てくるのだからすごい。

 社長夫人には宝塚のトップスター出身で、東宝の看板女優・越路吹雪。次作からは久慈あさみになるのだが「社長シリーズ」「駅前シリーズ」ともに、森繁さんを彩る女性陣は、バーのマダムも含めて「歌劇出身女優」と云うセオリーも、ここに確立している。

 『へそくり社長』の脚本・笠原良三、千葉泰樹監督は、この映画の少し前、藤本真澄プロデュースによる新東宝『アツカマ氏とオヤカマ氏』(55年)でコンビを組んで、その上でのキャスティングでしょう。同作には、小林桂樹、森繁も出演。いわば藤本真澄の東宝への復帰準備作でもあった。

 明和商事の新社長に就任した田代善之助(森繁)は、社員から「三等重役」ならぬ「三等社長」と呼ばれている。というのも、総務課長時代、先代の福原社長(河村黎吉)令嬢・福原厚子(越路吹雪)と結婚して、社長に就任したからである。

 先代社長のモットーは「仕事に惚れろ、金に惚れろ、女房に惚れろ」。善之助はその実践を心がけてはいるが、入婿状態で、恐妻家の善之助は、健康のためと、毎朝、厚子が用意する野菜ジュースや様式の朝食に辟易している。

 ある日、大阪から厚子の妹・未知子(八千草薫)が上京。大株主である母・イネ(三好栄子)の名代で株主総会出席にかこつけて、実は「お婿さん探し」が目的だった。関西弁ネイティブの八千草薫のわがままお嬢さんぶりが可愛い。義兄・善之助に「芸者遊びがしたい」と待合に連れていかせたり、社長秘書・小森信一(小林桂樹)が気に入ってお守りにさせたり。その奔放さに田代社長と小森は振り回されていく。小森は、かねてから交際中のタイピスト・大塚悠子(司葉子)とのランデブーもままならぬ。前社長令嬢には叶わないと、嫉妬しつつ諦めようとする悠子のいじらしさ。

 八千草薫と司葉子。東宝を代表する若手女優の華やかな共演も楽しい。何かにつけて不調法な善之助は、未知子の勧めもあって、小唄の師匠・小鈴(藤間紫)のところへ稽古に日参することになる。女房一筋だった善之助の鼻の下は伸びっぱなし。「筋がいい」と小鈴におだてられ上機嫌だが、小鈴は善之助をパトロンにしたいという下心があった。

 まだ売春防止法が施行される前、待合では芸者と客との「自由恋愛」が当たり前。それを踏まえてみると、夜の世界も、生々しい。『續三等重役』(1952年・鈴木英夫)でも、田島義文を伊豆肇が待合で接待するのも、そうした「売春」が前提だったので、遅れてきた世代には「大丈夫なの?」とつい思ってしまう。

 さて、小鈴には、大株主・赤倉社長(古川緑波)もご執心で、何かにつけて赤倉は田代社長を目の敵にする。株主総会のシーン。身勝手な赤倉社長が、昼食に「鰻重」を二つも注文。ペロリと平らげてしまうが、美食家で健啖で、わがままというロッパ自身の性格をそのままスライドさせていて、「古川ロッパ昭和日記」を読んでいると、おかしい。その株主総会で、野暮な赤倉に対して、何もかもスマートな株主・小野田(上原謙)が、ピシャリと赤倉をいなす。戦前、松竹の二枚目のイメージそのままの上原謙のゲスト出演は、松竹のプロデューサー・城戸四郎を目標にしていた藤本真澄のキャスティング。

 余談だが、上原謙は『へそくり社長』の半年前、藤本真澄製作の新東宝映画『アツカマ氏とオヤカマ氏』(1955年7月19日)で、小林桂樹、森繁久彌と共演。岡部冬彦の漫画を、笠原良三が脚色、千葉泰樹が監督したサラリーマン喜劇で、東宝復した藤本としては、この作品がプロトタイプとなり、『三等重役』の森繁によるリニューアル版として『へそくり社長』を製作したのだろう。
 
 さてタイトルの「へそくり」であるが、小鈴が小料理屋を開業したいので「五十万円」を出資して欲しいと頼まれた田代社長。なんとか女房に知られずに捻出するために、小森のアイデアで、ボーナスの伝票を家庭用と実際の二本立てにすることに。それに喜んだのは、恐妻家の社員たち。いよいよボーナス支給日、恒例の社員慰労会で、上機嫌の田代社長。仙台未亡人から「厳禁」されている「どじょうすくい」を披露する。

 このシーンの演技指導のために呼ばれた三木のり平と、森繁の「どじょうすくい」はお見事。これが、のちの「社長シリーズ」の定番「宴会芸シーン」となる。上機嫌で田代社長が踊っていると、そこへ先代未亡人が、未知子と厚子夫人を連れて慰労会会場に現れて・・・

 絶体絶命のピンチ! ここで、次作『続へそくり社長』へと続く・・・


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