『続 社長道中記』(1961年・松林宗恵)
前作から間を開けずに、昭和36(1961)年5月30日に封切られた続篇。データベースやウイキペディアには、サブタイトルに「女親分対決の巻」とあるが、これは1980年代、ぴあの映画辞典で『アトミックのおぼん 女親分対決の巻』と混同して『続 社長道中記 女親分対決の巻』と記述されてしまったことが要因。併映は、成瀬巳喜男監督『妻として女として』。前作は黒澤明、こちらは成瀬巳喜男作品と二本立。映画黄金時代、なんとも贅沢な上映プログラムである。
前作のラストで、太陽食品社長・三沢英之助(森繁久彌)に、意中の恋人・医務室の松浦敬子(団令子)との恋愛を告白した、桑原武(小林桂樹)は、社長の随行さんの勲功で秘書課長に抜擢される。いよいよ敬子と結婚、社長に仲人を頼もうとする。しかし、社長の妻・福子(久慈あさみ)は、娘・幸子(浜美枝)と桑原を結婚させようと、総務部長・倉持善助(加東大介)に、桑原との取り持ちを頼む。桑原君の恋愛、前途多難となってしまう。
今回も、源氏鶏太の小説「随行さん」を原作にしているので、早速、桑原は社長の名古屋出張の随行に出る。関西社長・土井(三木のり平)から、東南アジアへのうなぎの缶詰輸出原料のうなぎを買い付けるためである。ライバルの日の出食品も、うなぎの買い付けに動き出しているとの情報があり、先手必勝、養鰻業者の近藤社長(田崎潤)との交渉を取り付けようとするが・・・
万事、いい加減なのり平さんの土井支社長。いちいち仕事が停滞して、近藤社長は日の出食品・小山田社長(山茶花究)に、岐阜の長良川で養鸕の接待されていることが判明。というわけで、一進一退のビジネスにふり回されて、森繁社長の浮気に、桂樹さんの結婚は、なかなかうまく行かない。
岐阜へのタクシーが接触事故を起こし、助けた女の子・高橋百合子(中島そのみ)に鼻の下を伸ばした森繁社長、岐阜の宿でゴマのハエに遭ってしまい、財布が空っぽになってしまう。げに恐ろしいのは女の子なり。このシークエンスで、山茶花究の部屋に入って大恥をかいた森繁社長、侵入犯を桂樹さんに仕立てる。さらに夢遊病とされてしまい、仕方なしに幼児退行化のフリをする桂樹さん。その幼児化がどんどんエスカレートしていく。
松林監督の演出は、ツボを抑えて、テンポよく次々とエピソードを面白く転がしてゆく。新東宝で助監督修行し、都会派喜劇『東京のえくぼ』(1952年)で監督デビュー。その作品に通底しているのは「人の和」。「社長シリーズ」でも、森繁社長と社員たちの「和」が描かれている。ただ、様々な誤解が、その輪を乱し、事態はややこしいことになる。誤解から敬子に振られた桑原が、旅先でやけくそになるシークエンス。桂樹さんのエスカレートぶりがおかしい。真面目な堅物が酒の力を借りて、開き直るのは、抜群である。
お馴染み宴会芸は、森繁・のり平・桂樹さんのトリオによる「新婚ムードショー」。頭に島田のカツラをかぶったのり平さん、白塗りでヒゲの珍妙な表情が笑わせてくれる。第1作『へそくり社長』(1956年)のどじょう掬いに始まる「宴会芸」は回を追うごとにエスカレート。以後、最終作まで、シリーズのお楽しみとなる。
昭和36年の東京風景も堪能できる。社長一行を乗せた特急こだまが、有楽町に差し掛かるシーン。首都高1号線が並走し、日劇では前作の併映『用心棒』の看板が見える。「有楽町で逢いましょう」でお馴染み有楽町そごう(現在のビックカメラ有楽町店)の偉容はどこか晴れがましい。
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