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 「空・海・陸にスカッと痛快大あばれ!」「ドヒャーッ!スーパー植木危機一発!!」 1965(昭和40)年、クレージーキャッツ結成10周年記念映画『大冒険』のポスターに踊るキャッチコピー。1955(昭和30)年、ハナ肇とキューバーン・キャッツとして結成されたクレージーキャッツは、ジャズ喫茶、ステージ、テレビと活躍の場を拡げ、映画にも進出。東宝では『ニッポン無責任時代』(62年)を第一作に、クレージー映画が連作されていた。
 製作を総指揮した東宝のプロデューサー藤本真澄と、渡辺プロダクションの渡辺晋が狙ったのは、スケールの大きなアクション・コメディ。時はあたかも空前の007ブーム。さらにシネラマの大作コメディ『おかしなおかしなおかしな世界』(63年)など、洋画のトレンド取り入れて、クレージー映画のスケールアップがはかられた。

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 脚本は『ニッポン無責任時代』(62年)で無責任男を誕生させた田波靖男と、『日本一の色男』(63年)など「日本一の男」シリーズの笠原良三。二人のメインライターが前半と後半のパートを書き分け執筆。監督は植木等の“無責任男”のキャラクターを、独特の突撃演出でさらにパワフルなイメージに仕立てた古澤憲吾。そしてファンタジックなビジュアルを担当したのが特撮の神様、円谷英二特技監督。こうした最高の布陣で製作が開始された。

 世界的偽札偽造団の陰謀に巻き込まれる、「週刊トップ」の記者・植松唯人(植木等)と、幼なじみで発明家の谷井啓介(谷啓)と妹・悦子(団令子)植松を偽造団の一味と勘違いして、尾行する警視庁の花井部長刑事(ハナ肇)、乾刑事(犬塚弘)、市橋刑事(石橋エータロー)の三人組。安い金利を触れ込みに巨額融資で偽札をバラまいている森垣久美子(越路吹雪)たち偽造団が、悦子を誘拐して神戸へと向かう。東京〜名古屋〜神戸を舞台に、悦子を救助するために大冒険を繰り広げる植松に、襲いかかる危機また危機! 鉄橋からぶら下がったり、馬に跨がって汽車に飛び乗り、崖から落ちそうになったり、文字通り植木の体当たり演技で、信じがたいビジュアルが展開する。偽札偽造団の意外な正体も含めて、クレージー映画史上、最高のスケール“感”の作品となった。森繁久彌、ザ・ピーナッツなどゲストも豪華版。

 それまでのサラリーマン映画のアンチとしてのクレージー映画とは異なり、『大冒険』が斬新なのは、ハリウッド映画風のアクションの手を凝らしていること。ノンクレジットながらギャグ監修として、作家の中原弓彦(小林信彦)が招かれ、古澤監督とともに撮影台本制作に参加。二人の脚本家が別々に書いており、前半と後半に作劇上の矛盾があったため、その辻褄合わせに腐心したという。しかし、そんな矛盾を吹き飛ばしてしまうのが、古澤憲吾のパワフルな問答無用の演出と植木圧倒的な存在感。

 お楽しみの主題歌は、クレージーがラスト、東京プリンスホテルのパーティで歌う青島幸男作詞、萩原哲晶作曲の名曲「大冒険マーチ」! 挿入歌は、植木の「遺憾に存じます」と「犬山音頭」。「辞世の歌」、谷の「ヘンチョコリンなヘンテコリンな娘」の5曲。主題歌、挿入歌の編曲は萩原哲晶、劇伴音楽は広瀬健次郎と音楽面でも充実している。

 今回『東宝名車座デラックス』として、映画に登場した二台の車を完全再現。名古屋で植松を追跡する、花井部長刑事らが乗るパトカー、トヨペット・クラウン。「愛知県警察」のペインティングまで再現。間抜けな刑事たちの追跡は、お約束のエンコで失敗してしまう。

 もう一つは、神戸(ロケは横浜)の公園(本当は山下公園)で、気を失っている悦子を発見した植松に、親切に声をかける女性(実は組織の一味)の赤で白屋根のセドリック。このセドリックがたどり着くのは神戸のホテルメリケン(ロケは赤坂プリンスホテル)。神戸という設定なのに、東京や横浜でロケしているのは、多忙の植木のスケジュールを考えてのこと。このセドリックは、さらに埠頭の倉庫で、植松がバイクでチェイスするシーンまで“出演”する。余談だが、バイクが豪快に転倒するショットは、植木等の付き人の小松政夫がスタントにかり出されたという。

TLV東宝名車座「大冒険」(2006年・トミーテック)解説書より


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