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娯楽映画研究所ダイアリー 2022年7月11日(月)〜7月17日(日)

7月11日(月)『X エックス』(2022年・米・タイ・ウェスト)・『夫婦』(1953年1月22日・東宝・成瀬巳喜男)

月に一度、歯のクリーニングで浅草の歯医者へ。午前中の仲見世、夏の日差しが眩しい。

夏の朝の浅草仲見世

TOHOシネマズ日本橋にて、話題のホラー映画、タイ・ウェスト監督『X エックス』。1979年、ポルノ映画の舞台裏がなかなか面白く、ホラーとしてもなるほどよく出来ている。特に前半、撮影チームの描写は『リコリス・ピザ』同様、1970年代の空気の再現が素晴らしい。ホラーとしてのコワサさ、新東宝の怪奇映画で五月藤江さんと邦創典さん夫妻が出て来たらコワイ、コワイ。あのコワさです。老婆パール役はなんと!劇中、カルト教祖のテレビ説法が延々と流れ、それゆえ現実逃避は出来ず…

7月11日(月)の娯楽映画研究所シアターは、連夜の成瀬巳喜男監督特集で『夫婦』(1953年1月22日・東宝)をスクリーン投影。DVD化が未だなので、1998年に日本映画専門チャンネルで放映録画をスクリーン投影。成瀬としては『稲妻』(1952年・大映)に続く作品で、原作はなく、藤本真澄から「夫婦もの」をというオーダーで、藤本製作の『丘は花ざかり』(1952年・東宝)の井手俊郎と水木洋子がオリジナル・シナリオを執筆。

未DVD化の成瀬巳喜男監督『夫婦』(1953年)の録画を観ていたら24年前、川本三郎さんと佐藤利明の対談映像が出てきた。江戸博で収録したもので、娯楽映画研究家は今と同じようなことを言ってる。

7月12日(火) けやきホール「フラワー・メグ伝説〜エロスな夢・夢・夢〜」・『七人の刑事 終着駅の女』(1965年・日活・若杉光夫)

これから代々木上原のけやきホールへ。今宵はフラワー・メグさんのコンサート「フラワー・メグ伝説〜エロスな夢・夢・夢〜」です。フライヤーに原稿を書かせて頂きました。最高のバーレスク空間!コケティッシュでチャーミング。そのシルエット、佇まい、しぐさの美しさは、時空を超えて舞い降りた天使! ショーの構成も素晴らしく、ゲストのパフォーマンスも楽しい、まさに夢現(ゆめうつつ)の宵となりました!

若杉光夫『七人の刑事 終着駅の女』(1965年・日活)といい、恩地日出夫『めぐりあい』(1968年・東宝)といい、西村潔『死ぬにはまだ早い』(1969年・東宝)&『白昼の襲撃』(1970年・東宝)といい、今月リリースDVDの作品純度の高さよ!

7月13日(水)「ミズ・マーベル」第6話「ノーノーマル」・『あに・いもうと』(1953年・大映・成瀬巳喜男)・「花婿の寝言」(1935年・松竹蒲田・五所平之助)

8月7日から1ヶ月間。佐藤利明のクレイジー講座をラジオ第二でオンエア!カルチャーラジオ 日曜カルチャー「クレイジーキャッツの音楽史」(1) - NHKまた、どこかのライブハウスで、クレイジーキャッツをテーマにトークライブしたいなぁ。名古屋、大阪では? 思えば数年前の名古屋 #TOKUZO ライブが、このラジオに発展したのです。

7月13日(水)配信。ディズニー+「ミズ・マーベル」第6話「ノーノーマル」をスクリーン投影。曽祖母から受け継いだバングルでスーパー・パワーを身につけた高校生・カマラ・カーン(イマン・ヴェラーニ)。パキスタンのカラチで、1947年のインド・パキスタン分離独立の混乱にタイムスリップして、幼き日の祖母を助けた。というのが前回までの話。

今回は、再びニュージャージーのジャージー・シティに舞台を戻して、スーパーパワーの持ち主を脅威に感じているダメージコントロール局(『スパイダーマンNWH』に登場)から狙われる。そのクライマックスが最高に素晴らしい。高校の親友たち、家族が、カマラとカムランを守るためにあの手この手の作戦を展開。ファミリー・ムービーの楽しさと、ムスリムへの偏見に対する人々のアゲインスト、コミュニティの人々が一致団結して、カマラとカムランを身を挺して守ろうとする。

これが1947年までのイギリス統治下から分離独立運動で分断された人々の「大きな力」への抵抗心とシンクロして、感動的なのである。テレビシリーズなのだけど、映画以上のテンション。このシリーズそのまま劇場で上映してほしい!

で最後の最後、エンドロール後に、アッと驚くサプライズがあって、映画『ザ・マーベルズ』に続く、というわけ。MCUのドラマシリーズ、侮れないというか、今回、ここまでのクオリティだとは思わずに毎回、本当に驚きながら楽しんだ。カマラとキャロル・ダンバースの共演が今から楽しみ!

成瀬巳喜男『あに・いもうと』(1953年・大映)。何がすごいって、強面の山本礼三郎さんが無愛想にかき氷を仏頂面で、客の高品格さんに出す。しかしスプーンがないと高品さん。山本さん無言で、前の客のスプーンを水につけてチャッチャと水切り。ヌッと差し出す。で、高品さん懐から手拭いを出して神経質そうにスプーンを拭く。やくざ映画でも何でもないのに、やたら緊張感がある。

7月13日(水)の娯楽映画研究所シアターは、連夜の成瀬巳喜男監督特集。室生犀星原作の二度目の映画化となる『あに・いもうと』(1953年8月19日・大映東京)をアマプラのシネマコレクション by KADOKAWAからスクリーン投影。無頼の兄・伊之助を森雅之さん、奔放な妹・もんを京マチ子さん。しっかり者の次女・さんを久我美子さん。そしてかつては護岸工事の親方で鳴らし、今は引退している親父・赤座を山本礼三郎さん、河原で茶店を開いて家計を支えている母・りきを浦辺粂子さんが演じている。ともかく役者のアンサンブルが見事。眺めているだけで惚れ惚れする。

今宵の娯楽映画研究所シアターは、五所平之助「花婿の寝言」(1935年・松竹蒲田)。長谷川一夫さんと川崎弘子さんの新婚夫婦のお惚気喜劇。そのデレデレぶりは、度を越して、エロティックな感じすら^_^ 突貫小僧の飛ばしっぷりも最高!

7月14日(木)『山の音』(1954年1月15日・東宝・成瀬巳喜男)・『外濠殺人事件』(1960年・松竹・池田博)

7月14日(木)の娯楽映画研究所シアターは、連夜の成瀬巳喜男監督特集。川端康成原作、鎌倉を舞台にした文芸作『山の音』(1954年1月15日・東宝)をDVDからスクリーン投影。

7月14日(木)の娯楽映画研究所シアターは『外濠殺人事件』(1960年・松竹・池田博)。いろんな意味で唖然とした。大木実さんのタクシー運転手が城山順子さんと夫婦になるも、金が仇で転落。ついにはタイトルのようなことに…『大阪野郎』同様、ナントモハヤの世界。しかし大木実さんのアパートがある越前堀の倉庫街、栄橋や、浅草仲見世風景、三和交通のある墨田区文花などの東京風景がたまらない。松屋浅草屋上スカイクルーザーも!

スカイクルーザー

驚いたのは『外濠殺人事件』というタイトルなので刑事もの、ミステリーと漠然と思っていたら、女房の過去にまつわることで、諸角啓二郎さんに強請られ、追い詰められた大木実さんが万策尽きて… という転落のオチがタイトルなので、カタルシスもなにもあったもんじゃない。二人の出会い、出来事、それまで描かれてきたことは、一体何だったんだ!という、突き放され感が半端ない。

松竹には、力足らずで、えー?こんなの?という脱力映画が結構あるけど、これは横綱クラス^_^ そういう意味で面白くないのが、面白かった。元は、東宝傍系の東京映画の佐藤一郎プロデューサーが、鈴木英夫監督作品として企画していたもの。

鈴木英夫監督を想定した企画書

7月15日(金)『野球部に花束を』(2022年・日活・飯塚健)

山本コウタローさんの訃報。僕らの世代ではなんといってもTBSラジオ・コウタローパック。板さんとの「たいこめ」コーナーで深夜に抱腹絶倒しました。「よっすいたいまたんち」などが今も頭の中に…

氷川竜介さんの書き込みで教えて頂いた「バットマン」TV(シーズン1−3)Blu-ray全巻セットが届いた。全部入り、日本語吹き替え入りで楽しめる。幼稚園の頃「武士は食わねど高楊枝」を、バットマンとロビンの会話で学びました。アダム・ウエスト(広川太一郎)が僕にとってのブルース・ウェインなので。


なんたって、第1話「怪盗ナゾラー 前編」"Hi Diddle Riddle"では、リドラーはナゾラー(フランク・ゴーシン、声・熊倉一雄)ですからね。僕らのバットマンは「ゴッタムシティ」の平和を守ってくれるのですよ。吹替版でないと見た気がしなかったので、楽しい、楽しい。
41話「カブト虫には毒がある」85話「グリーンが町にやって来た」86話「アルファベットは26文字か?」は、「グリーン・ホーネット」とのクロスオーバー回なので、カトー(ブルース・リー)も出てくるし!

シネコンで予告を観て、吹き出したので、喜劇映画脳が発動して、京橋へ『野球部に花束を』(2022年・日活・飯塚健)最終試写へ。これは面白かった。少年チャンピオン連載の漫画が原作だが、時代逆行というか、僕らの世代の部活、高校野球部のアナクロな世界を、笑いを交えつつ、真面目に描いた青春喜劇。一年生からみると、三年生はすべて小沢仁志さんに見えてくる。このギャグは、一瞬かと思っていたら、高三の先輩が小沢さんに変身するタイミングがルーティーンの笑いになっていて、爆笑を誘う。また監督役の高嶋政宏さんの体育会系教師の怪演がおかしく、斎藤寅次郎喜劇みたいな笑いの最大瞬間風速が強烈だった。

試写の後、泰明小学校1976年卒業生の仲間たちと、2年ぶりの飲み会。同級生の寿司屋で、気のおけない友人たちと、12歳のあの頃のバックトゥ。楽しかった!

7月16日(土)『浮雲』(1955年・東宝・成瀬巳喜男)・「バットマン」(1966)第3話〜6話

連夜の成瀬巳喜男特集。今宵は『浮雲』(1955年・東宝)。いつ見ても、何度見てもどよーんとする。森雅之さんのダメ男っぷり。誰しも少なからず身につまされる男と女のくされ縁。でも、やっぱり成瀬の代表作。デコちゃん渾身の演技。幸福だった仏印時代の想い出。甘美なる戦前、救いようのない戦後… ラストに「完」でも「終」でも「おわり」でもなく「花のいのちは みじかくて 苦しきことのみ 多かりき」とスーパーが。この言葉が全てを言い表している。あまりにも切なく、あまりにもやるせなく、あまりにもつらいヒロインの人生。

テレビ「バットマン」第3話「怪人ペンギン 前編」"Fine Feathered Finks"で宿敵ペンギンを演じているのは、フレッド・アステアの『セカンド・コーラス』(1940年)などハリウッド映画でお馴染みのバージェス・メレデス。「ロッキー」シリーズのトレーナー、ミッキー役の人。

ペンギン(バージェス・メレデス)

ジョーカーは、往年のFOXミュージカルのスター、シーザー・ロメロ! 第5話『謎のジョーカー 前編』"The Joker is Wild"に、すでにジョーカー一味の紅一点、ハーレイ・クィーン登場!(和名・ハートのクィーン)

ジョーカーとハートのクィーン

7月17日(日)『驟雨』(1956年・東宝・成瀬巳喜男)・『警視庁物語 十代の足どり』(1963年・東映・佐藤肇)

今日は石原裕次郎さんの「あじさい忌」。2019年の今日、「石原裕次郎 昭和太陽伝」を上梓させて頂きました。ぼくらにとって永遠の太陽、裕次郎さんの歌声に包まれながら、神奈川県鶴見の總持寺に向かっています。

35回目のあじさい忌。神奈川県鶴見区の總持寺に来ております。思えば、三十年以上も、7月17日には總持寺に。石原裕次郎さんは、戦後日本そのものであり、やはりぼくにとって、エルヴィス同様、ワン・アンド・オンリーのスターです。

石原裕次郎さんは1934年12月28日生まれ。エルヴィス・プレスリーは1935年1月8日。二人のレジェンドのキャリアは重なる部分が多いです。メジャーデビューは1956年。日本でもアメリカでも、戦後派世代の若者として、センセーションを巻き起こしました。エルヴィスは1968年「68カムバックスペシャル」で新境地を拓き、裕次郎さんは『黒部の太陽』を製作。1970年代、エルヴィスはラスベガスのステージで新たな時代を作り、裕次郎さんはテレビに進出。いずれも若い世代のファンに支持され、伝説となります。二人とも、常にファンのことを考え、ファンサービスを徹底しました。大衆の心を掴み続け、時代を創り、今なお、伝説であり続けています。

「青春カーニバル」撮影現場を訪問した裕次郎さんとまき子夫人

「石原裕次郎 昭和太陽伝」(アルファベータブックス)は友人で作家の中川右介さんから「裕次郎さんの評伝を書きませんか」と背中を押されて、中川さんの編集で2019年7月17日に上梓しました。書きも書いたり、上下2段で480ページに。自分の裕次郎さんへの想いを総て込めました。

7月17日(日)の娯楽映画研究所シアターは、連夜の成瀬巳喜男監督特集『驟雨』(1956年1月14日・東宝)をアマプラの東宝名画座からスクリーン投影。

7月17日(日)の娯楽映画研究所シアターは、成瀬巳喜男『驟雨』(1956年・東宝)、佐藤肇『警視庁物語 十代の足どり』(1963年・東映)をスクリーン投影。前者は日本橋の白木屋デパート屋上、小田急線梅ヶ丘駅、後者は渋谷のリキ・パレスなど。かつてそこにあったけど、今は失われた風景へ時層探検。

「バットマン」第7話『冷凍人間前編』"Instant Freeze"にMr.・フリーズ(和名・アイスマン)登場! 演ずるは、『イヴの総て』(1950年)でアカデミー助演男優賞を受賞したジョージ・サンダース! 豪華だなぁ!

アイスマン(ジョージ・サンダース)

あ!この回だったのか? 「バットマン」第8話「冷凍人間 後編」"Rats Like Cheeze"だ!アルフレッドが作ったパフェをロビンが「腹が減っては戦が出来ないっていうしね」と。翌日、幼稚園でさっそく、このセリフを実践しましたよ。

よろしければ、娯楽映画研究への支援、是非ともよろしくお願いします。これからも娯楽映画の素晴らしさを、皆さんにお伝えしていきたいと思います。