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『クレージーの怪盗ジバコ』(1967年10月28日・東宝・坪島孝)

深夜の娯楽映画研究所シアターは、東宝クレージー映画全30作(プラスアルファ)連続視聴。

19『クレージーの怪盗ジバコ』(1967年10月28日・東宝・坪島孝)

4月25日(月)は、昭和42(1967)年10月28日、シルバーウィーク番組として封切られた『クレージーの怪盗ジバコ』(坪島孝)をアマプラの東宝チャンネルからスクリーン投影。同時上映は、東宝ドリフ映画第1作『ドリフターズですよ!前進前進また前進』(和田嘉訓)だから、当時としては豪華版。クレージーと、売り出し中のドリフの映画二本立ては、「映画への夢」を抱き続けていた渡辺プロダクション社長・渡辺晋さんの戦略でもあった。

東宝新聞

さて『クレージーの怪盗ジバコ』は、北杜夫さんの小説「怪盗ジバコ」(文藝春秋社)の映画化。クレージー映画で原作があるのはこれだけ、と言われているが、『ニッポン無責任時代』(1962年)には田波靖男さんの小説「無責任社員」(光風社)が出版されている(まあ、ノベライズだけど。原案は「無責任社員」なので)。それからクレージー映画に入れるかどうか意見が別れる『喜劇 泥棒大家族 天下を盗る』(1972年・坪島孝)は、加藤延之さんの「こちら特報部・泥棒村潜入記」(東京新聞連載記事)が原作である。

田波靖男さんと、市川喜一さんの脚本は、『クレージー黄金作戦』の前半で成功した、植木等さん・谷啓さん・ハナ肇さんの芝居場を「均等に描く」ことを意識している。坪島孝監督も『〜黄金作戦』同様、三人の個性をバランス良く描いていて、それまでの古澤作品のように、メンバーは顔見せ程度ではなく、本当の意味での「クレージー映画」となっている。

世界的な怪盗・ジバコ(植木等)は、変装の名人。肌の色から骨格まで変えてしまう変装術で、誰にでも化けてしまう。アバンタイトル、名古屋章さんのナレーションでジバコの特徴が丁寧に説明される。下半身だけだが『キングコングの逆襲』(7月22日・本多猪四郎)のコングの着ぐるみも「怪獣キングゴリラ」として登場する。この年は空前の怪獣ブームで、子供たちのセリフにも「ウルトラマン」「快獣ブースカ」の名前が出てくる。

さて、怪盗ジバコが来日。警視総監(東野英治郎)へ「日本のホコリを頂戴する」と挑戦状を送りつける(紙飛行機で・笑)。早速、警視庁ではジバコ特捜班を編成。明智少伍郎警部(ハナ肇)と、鈴木次郎刑事(谷啓)が捜査にあたる。この明智警部の捜査があまりにも杜撰というか、ハナ肇さんのイメージの「典型的なオヤジ」キャラなので、現場は大混乱。実直だけど不器用な鈴木刑事のキャラは、これまでの坪島監督&谷啓さんが培ってきたスクリーン・イメージの集大成。少し間抜けで、被虐的な性格、だけど憎めない。住んでいるのはマンションとは名ばかりの東横線の高架下のオンボロアパートで、隣室に恋人・眉田洋子(豊浦美子)が住んでいるというもの『クレージーだよ天下無敵』(1月14日)の高橋紀子さんと同じパターン。

で、羽田空港についたジバコを、拳銃不法所持で鈴木刑事が逮捕するも、トイレでジバコは鈴木刑事に変装してしまい、画面には二人の谷啓さんが登場。明智警部も観客も大混乱。誰が誰だかわからない。谷啓さん好みのシュールな展開となる。この映画の面白さは、植木さんが、谷啓さん、犬塚弘さん、桜井センリさん、石橋エータローさん、安田伸さん、そしてハナ肇さんに次々と変身して、現場を大混乱させていくこと。さらに国際的窃盗団WCWCのレロレロ・ヘブン!(ロベルト・バルボン)や、ボスのアルカ・ホネ(アンドリュー・ヒューズ)にも変装してしまう。近鉄や阪急で活躍したキューバ生まれの野球選手ロベルト・バルボンがノリノリでおかしい。

というわけで、坪島演出は丁寧かつ、子供にもわかりやすい。ヒロインの姫野ナナ(浜美枝)は、1967年の最先端の若い娘で、ドライというかアッパラパーというか、今でいう「ギャル」のような軽ーい女の子。クレージー映画では唯一の落ち着きのなさがいい。まあ『日本一の色男』(1963年)での由利徹さんの愛人役もこんなタイプだったけど…

谷啓さんの彼女を演じている豊浦美子さんは、東宝ニュータレント第5期生でテレビ「青春とはなんだ」「これが青春だ」で注目を集め、「ウルトラセブン」のアンヌ隊員を演じることになっていた。しかし坪島孝監督の指名で本作に出演、クランクイン直前に降板。ひし美ゆり子さんがアンヌを演じることになった。クレージー映画では、翌年の『クレージーメキシコ大作戦』でも、大学病院の看護師役で出演することになる。

渡辺プロのアトラクション的には、ナイトクラブのシーンで、伝説のカルトGSアウトキャストの演奏が楽しめる。さいたまんぞうさんが上京してアウトキャストのボーヤになった頃だろう。さらにMC役で、植木さんの付き人からタレントになった小松政夫さんがいっぱいいっぱい(ご本人談)のアドリブを見せてくれる。そこでスクールメイツを従えて木の実ナナさんが登場。本作の劇伴も手がけている宮川泰先生の名曲「恋のフーガ」を英語で歌う。あ、冒頭には青山ミチさんもゴーゴーガールで登場!


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