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娯楽映画研究所ダイアリー 2022年1月10日(月)〜1月16日(日)

1月10日(月・祝)佐藤利明の娯楽映画研究所

今回は、東宝特撮映画「変身人間」ものについて、切通理作さんと語ります!

1月10日(月・祝)『絶壁の彼方に』(1949年・英・シドニー・ギリアット)

高尾での打ち合わせを終えて立川へ。これからシネマシティで「サンダーバード55」極音上映でございます。「サンダーバード」「サンダーバード6号」を幼き日に、東銀座の東劇で観た者としては、半世紀以上ぶりの新作「サンダーバード55」を劇場で観られる喜びを噛み締めてます! 開映までバリー・グレイを聴きながら待ってます!


立川シネマシティ「サンダーバード55」日本語吹替版・極音上映。驚いた! レコード用に吹き込まれた3本のエピソードを、1966年当時のままに2021年に再現してしまう。名城や古民家の復元みたいに、あの「サンダーバード」のまだ観ぬエピソードが眼前に。

映画版、21世紀版の二度のリメイクにガッカリしてきたリアルタイム世代としては、あれ?このエピソード、見逃していたっけ?のような既視感体験。今回はレディ・ペネロープとパーカーのスピンオフとしても楽しめる。ミンミンが出てこないのは残念だけど、ザ・フッドの悪巧みは久々に楽しめる。

トレシー家のラウンジは少しスッキリしたけど、新たなメカも含めて、デレク・メディングスの世界。嬉しくてドキドキした^_^黒柳徹子さんがアテていたペネロープを満島ひかりさんが演じているのも違和感なし。山田康雄→栗田貫一のルパン継承みたいで!

バリー・グレイの音楽にシビレ節^_^ で、最後の最後に日本語主題歌が流れて、正常な判断はつかなくなってしまいました。55年後に再会した初恋の相手は、いまでも美しかった。そんな「サンダーバード55」体験でした。

新しいシナリオではなく、レコードドラマの映像化は、賛否両論だろうけど、ぼくは朝日ソノラマの「なぐりこみバルタン連合軍」「ゴジラは王様」の映像化が、観たくなった。どれだけ夢想したことか!

「ゴジラは王様」

「なぐりこみバルタン連合軍」

立川シネマシティのTさんが、「番匠義彰 映画大全:娯楽映画のマエストロ」ご購入くださいました! 署名第一号となりました。ありがとうございます。


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今宵の娯楽映画研究所シアターは、シドニー・ギリアット『絶壁の彼方に』(1949年・英)。ダグラス・フェアバンクスJr.のアメリカ人医学博士が、イギリス滞在中、独裁国・ボスニアに招聘され、手術のデモンストレーションをする。患者は、実は宰相・ニバ将軍で、博士は拉致され秘密治療をさせられる。しかし10日後、博士の帰国の当日、将軍は死亡。国民には情報統制が敷かれ、博士は知りすぎていた男として抹殺寸前。一人逃げ出す博士、追い詰められ、寄席芸人の歌手・グリニス・ジョーンズの助けで、国境を目指す。しかし、国家No.2のジャック・ホーキンスが、秘密警察を率いて執拗に追いかけてくる。

 後半、ロープウェイのサスペンスで、テンションが一気に高まる!四半世紀ほど前に、和田誠さんから「これは面白い」と伺ってきた作品を、アマプラで堪能。面白いのなんの!イギリスの冒険サスペンスの真髄を目の当たりに!だから映画はやめられない。

1月11日(火)『青の恐怖』(1946年・英・シドニー・ギリアット)・『昨日消えた男』(1964年4月18日・大映京都・森一生)

今宵の娯楽映画研究所シアターは、昨夜の『絶壁の彼方に』(1949年)のシドニー・ギリアット監督『青の恐怖』(1946年・英)をアマプラで。シドニー・ギリアットといえば脚本家として、アルフレッド・ヒッチコックの『バルカン超特急』を手掛けた人。相棒のフランク・ロンダーとインディヴィデュアル・プロダクションを立ち上げて、その第三作となる。

 原作はクリスチナ・ブロンドの推理小説。第二次大戦末期1944年のロンドン郊外の病院が舞台。ナチスのV1ロケットがイギリスを連日襲っていた頃。郵便配達夫で救護班長をしているヒギンズが、V1ロケットの爆発で負傷。手術の直前、麻酔をかけている間に急死。さらにその直後、手術に立ち会った看護婦長・ベイツ(ジュディ・キャンベル)が病院のダンスパーティの席で、ヒギンズの死は他殺で、その犯人を知っていると発言。その直後に何者かに殺されてしまう。

 そこでスコットランドヤードの敏腕警部・コックリル(アラステア・シム)が捜査に乗り出す。容疑者は、トレバー・ハワード、ロナルド・アダム、サリー・グレイ、ウェンディ・トンプソンたちが演じる手術に参加した医師と看護婦たち。それぞれのドラマや影のある部分がじっくりと描かれて、意外な事件の真相が明らかになっていく。

 ミステリーとしてもなかなかで、素晴らしいのは役者たち。同時期のハリウッド映画のような美男美女たちののっぺりした芝居ではなく、一人一人が見事。また陰影のある映像がシックで、とにかくミスリードの連続で、どうなっちゃうんだろう?とミステリ映画の醍醐味を味わった。

 原題は「青の恐怖」ならぬ”Green for Danger”「緑の恐怖」!では、ワイアール星人の仕業か!(笑)このGreenが犯人のトリックで、ああ、なるほどね、とモノクロ画面を観ながらイマジネーション。緻密で上質のミステリ映画でありました。

娯楽映画研究所シアターで、市川雷蔵の『昨日消えた男』(1964年4月18日・大映京都・森一生)をアマプラからスクリーン投影。

脚本はベテランの小国英雄さん。昭和16(1941)年に同じ、小国さんの脚本で長谷川一夫さんと山田五十鈴さんの同名作品があるけど、プロットは全くの別もの。八代将軍吉宗(市川雷蔵)は、大の推理マニアで、何か面白ことはないかと不眠症気味。そこで大岡越前守(三島雅夫)にわがままをいって、同心になりすまして江戸の町へ、難事件を解決にいく。もうそれだけで面白い。市川雷蔵流「暴れん坊将軍」というわけだ。

しかし勅使五条大納言兼広卿が江戸城に登城する日が近い。その日までい江戸城に戻らねばならない。というタイムトライアルのなか「幽霊船」をめぐるミステリーの謎を解いていく。その捜査に協力するのが、寺子屋の先生をしている浪人・大橋兼四郎(宇津井健)。雷蔵さんと宇津井健さんのコンビぶりがなかなか楽しく、二人は喜んで危険に飛び込んでいく。やがて、この幽霊船=竜神丸は幕府転覆を画策する連中が、武器を運ぶために使用していたことが判明。その陰謀を見事に同心となった吉宗が解いて、悪党どもを一網打尽。

そして勅使がいよいよ登城。謁見の場で、吉宗がびっくり!その正体は?というオチの鮮やかさもあって、愉しい娯楽映画となった。

1月12日(水)ドルビーシネマ『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(2021年・ソニー・ジョン・ワッツ)・『死の谷』(1949年・ワーナー・ラウォール・ウォルシュ)・「ボバ・フェット」第3話・『自来也』(1937年・日活・マキノ正博)

打ち合わせ後、丸の内ピカデリーへ。ムビチケがあったのでドルビーシネマで『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(2021年・ソニー・ジョン・ワッツ)二度目の鑑賞。IMAXで観た後だけに画角は気になるけど、さすがのドルビーシネマ、画面のクリアさ、音響の素晴らしさを堪能。やはり、クライマックス、MJを救った後のピーターの表情に涙。「トラウマの克服」のカタルシス。この映画のテーマは「救済」。だからこそ素晴らしい!

今宵の娯楽映画研究所シアターは、ラウォール・ウォルシュ監督『死の谷』(1949年・ワーナー)をスクリーン投影。アマプラは有難い。これは傑作! ウォルシュが1941年にワーナーで撮った、ジョン・ヒューストン脚本、ハンフリー・ボガート、アイダ・ルピノ主演のギャング映画『ハイ・シェラ』を西部劇にリメイクしたもの。

とはいえ僕は、子供の頃、最初に『死の谷』を観ていたので、後からテレビで『終身犯の賭け』と改題された『ハイ・シェラ』を観て、どこかで観たことがある話だなと思ったことがある。

 1870年代、コロラド。強盗犯で牢屋に入れられていたウェス・マックィーン(ジョエル・マクリー)は、ボスの手引きでまんまと脱獄。次の仕事のために、メキシコ国境に近い、天然痘と地震で壊滅した町・トドス・サントスで、リノ(ジョン・アーチャー)とデューク(ジェームス・ミッチェル)と合流。ウェスは列車強盗計画に参加するが、これを最後に引退。駅馬車で知り合った娘・ジュリー・アン(ドロシー・マローン)に、亡くなった恋人の面影を見て結婚をしようと決意をしている。

 ネイティブ・インディアンの混血娘・コロラド・カーソン(ヴァージニア・メイヨ)が、一味に加わっているが、彼女はウェスに一目惚れをしている。というわけでこの映画にはヒーローがいない。足を洗おうとした悪党の最後の仕事と、その顛末を、ウォルシュらしくハードかつクールに描いた西部劇だけどフィルムノワールの味もある。同時に、ヴァージニア・メイヨの純情、美しきドロシー・マローンの薄情が、ドラマの陰影となっている。勧善懲悪ではないところがイイ。

 後半、列車強盗に成功したものの、肩を撃たれたウェスが、コロラドと共に、ジュリー・アンの牧場に逃げ込んでいくシークエンスは、二人の女と主人公のバランスが絶妙。クライマックス、死の谷に追い詰められたウェス。彼の命を助けようとして保安官と駆け引きしようとするコロラド。二人が結ばれてくれればいい、と心から願ってしまう。「犯罪者必罰」のハリウッド映画らしく、悲劇的なラストとなるが、それも含めて、手に汗握る94分!

 続きましてはディズニー+「ボバ・フェット」第3話。ジョン・ファブローがストーリーとプロデューサーなんだけど「マンダロリアン」の面白さはない。マンドーとベビー・ヨーダの物語は「子連れ狼」的なロードムービーだから楽しかった。ボバ・フェットは、『ジェダイの復讐(帰還)』で、サルラックに食われた筈のボバが生きてきて、自力で這い出すところから始まる。で、タスケン・レイダーの奴隷となるも、その腕っぷしの強さで、リーダー格となり、マフィアと渡り合う。で、ついにはジャバ・ザ・ハッド亡き後の後釜となり暗黒街のボス=大名となって君臨している。

 作り方は『ゴッドファーザーPART2』のように、現在と回想シーンが入り乱れて、ボバがボスにのし上がっていく様を描いている。前作が西部劇だったので、今回はギャング映画という趣向。ヴィジュアル的には「スターウォーズ」を観ている気分になるんだけど…第3話はロバート・ロドリゲス演出でありました。

 ラウォール・ウォルシュ、ロバート・ロドリゲスときて、最後はマキノ正博監督。アマプラに入ったばかりの、片岡千恵蔵御大の『自来也』(1937年・日活)を戦後改題再上映した短縮版『忍術三妖傳』。少年・太郎丸が、父の仇を打つべく忍術修業を重ねて、自来也(千恵蔵)に成長。

 サイレント時代「目玉の松ちゃん」こと尾上松之助の十八番を千恵蔵御大がトリック撮影たっぷりに演じた「ドロン」映画。大蛇丸に瀬川路三郎。男装の麗人・縄手姫に星玲子さん。のちの『怪竜大決戦』の遥かなるルーツでもある。

 眺めているだけで楽しく、千恵蔵御大のエロキューションで、もうお腹いっぱい。脚本はのちに「多羅尾伴内」シリーズを手がける比佐芳武さん。ケレンもたっぷり。マキノ演出は、千恵蔵御大と星玲子さんが最悪の出会いをして、勝気な星さんが御大に平手打ちをすると、御大が倍返しをする。ハリウッドのロマンチック・コメディみたいな描写をあちこちに(笑)

仇の一人が志村喬さんで、大蝦蟇出現に慄く姿に、『ゴジラ』の遥かなるルーツも感じる(笑)

1月13日(木)『大平原』(1939年・パラマウント・セシル・B・デミル)『アマゾン無宿 世紀の大魔王』(1961年4月21日・ニュー東映・小沢茂弘)

今宵の娯楽映画研究所シアターは、セシル・B・デミル監督『大平原』(1939年)をアマプラからスクリーン投影。ジョエル・マクリー、バーバラ・スタンウィック、そしてロバート・プレストン主演。アメリカ東海岸から西海岸への大陸横断鉄道建設を描いた西部劇スペクタクル大作。

 これは何度見ても面白い。リンカーン大統領の命により、スタートした大陸横断鉄道。しかし資本家のバロウズが、西海岸からのセントラル・パシフィック株で一儲けするために東部からのユニオン・パシフィック鉄道工事を妨害。さまざまなアクシデントが起こる。

 ジェフ・バトラー(ジョエル・マクリー)は、南北戦争の勇士で、ユニオン側の工事を再開させるために派遣された正義漢。モリー(バーバラ・スタンウィック)はユニオン鉄道の名物機関士の娘で郵便業務に従事。ジェフに一目惚れするが、昔馴染みの伊達男・ディック・アレン(ロバート・プレストン)から求婚される。しかもディックはジェフの北軍時代の戦友。しかし今は、工事妨害を請け負った賭博場のボス・キャムポウ(ブライアン・ドンレヴィ)の配下だった。

 この三人の三角関係のドラマに、鉄道敷設の途中に起こる、ストライキ、列車強盗、そしてインディアンの襲撃などが、大迫力のスペクタクルで展開される。眺めているだけで、これぞ映画、これぞ西部劇の楽しさが満喫できる。モラルやコンプライアンス的には色々とアレだが、1939年の人々は、とにかく楽しんだに違いない。

 バーバラ・スタンウィックが最高に美しくチャーミングで、ハリウッド・ビューティを眺める幸福感を噛み締めた。ジョエル・マクリーはカッコよく、悪役だけど憎めないロバート・”ミュージックマン”・プレストンもなかなか。ラストは彼が攫ってしまう。

 タイトルバックは「スターウォーズ」。クライマックスの燃える鉄道橋通過のサスペンスは「バック・トゥ・ザ・フューチャーPart3」でリスペクトされている。堂々の129分!(オリジナルは135分)

続いては『アマゾン無宿 世紀の大魔王』(1961年・ニュー東映・小沢茂弘)。世紀の珍作!後を引く面白さ! 千恵蔵御大がパンチョスタイルのヒーロー、アマゾンの源次を快演!

1月14日(金)『北西騎馬警官隊』(1940年・パラマウント・セシル・B・デミル)

今宵の娯楽映画研究所シアターは、セシル・B・デミル監督『北西騎馬警官隊』(1940年・パラマウント)を久しぶりに。スクリーン投影で観るとテクニカラーの美しさに惚れ惚れ。ゲイリー・クーパーがテキサス・レンジャーのダスティ・リバース役で、カナダまで強殺犯・ジャック・コルボー(ジョージ・バンクロフト)を追ってやってくる。

 時は1885年。カナダ北西部では、ルイ・リエル(フランシス・マクドナルド)率いる混血族「メチス」が、反英戦争を仕掛け、逃亡中の政治犯・デュロック(エイキム・タミロフ)と騎馬警察隊を一掃しようと住民蜂起を企てていた。

 騎馬警官隊のリーダー・ジム・ブレット軍曹(プレストン・フォスター)は、テキサス・レンジャーのダスティとは反りが合わない。ジムが求愛している看護師・エイプリル(マデリーン・キャロル)は、ダスティに仄かな愛情を抱いている。その弟・ロニー・ローガン(ロバート・プレストン)で、騎馬警官隊でジムの直属の部下だが、「メチス」の情熱的な娘ルヴェット・コルボー(ポーレット・ゴダード)と恋に落ちている。しかしルヴェットは、お尋ね者のコルボーの娘。複雑な人間関係のなか、住民蜂起の時が迫る。

 『大平原』(1939年)同様、スペクタクルのなか、ゲイリー・クーパーとマデリーン・キャロル、そしてプレストン・フォスターの三角関係。ロバート・プレストンとポート・レッドゴダードの盲目的な愛が描かれる。ルヴェットは、ロニーへの愛を貫き、民族への忠誠を守るために、ロニーを脱走させ、警官隊を全滅させてしまう。その報いは、ロニーが受けるのだが、これも『大平原』のロバート・プレストンのリフレインでもある。

 セシル・B・デミルのダイナミックかつ、ケレン味たっぷりの演出で、あの手この手がギッシリで飽きさせない。ロバート・ライアン、ダグラス・ケネディ、そしてロン・チェニー・ジュニアなど、お馴染みの顔がズラリ。ネイティブの族長にウォルター・ハムデン。

 マデリーン・キャロルとポートレット・ゴダード。タイプの異なるハリウッド・ビューティの二人は、まさに眼福。ラストのサゲも素晴らしく、ゲイリー・クーパーは、恋愛の苦手なテキサス・レンジャー役にピッタリ。やっぱり西部の男が似合う。

1月15日(土)「根岸一郎による伊福部昭 全歌曲集」コンサート・『西部の男』(1940年・ゴールドゥイン・ウイリアム・ワイラー)

地元、亀戸で「根岸一郎による伊福部昭 全歌曲集」コンサート。これから開演です。伊福部昭先生の全歌曲を3時間20分(休憩30分)にわたり、根岸一郎さんが一人で歌ってしまうという壮挙! 有賀誠門さんのティンパニーが鳴るだけで伊福部ワールドに! ピアノ・松元博志さん、二十五弦箏!・金子展寛さん、アルト・フルート・高本直さん。ファゴット・宮部貴絵さん、ヴィオラ・伊藤美香さんのシンプルな編成で、耳馴染みの伊福部先生の楽曲が次々と演奏される幸福! プロデュースは西耕一さん。とにもかくにも素晴らしいコンサートでした。

今宵の娯楽映画研究所シアターは、ウィリアム・ワイラー監督の傑作、サミュエル・ゴールドウィン製作『西部の男』(1940年)を25年ぶりに堪能。ゲイリー・クーパーの主人公が、清廉潔白で完全無欠のヒーローではなく、清諾合わせ呑み、自分のライフスタイルで生きている「西部の男」というのがいい。のちのクリント・イーストウッドに通じる、The Westernerの魅力に溢れている。

 1880年代テキサス。南北戦争終結後、牛飼いたちが自由に放牧していた土地に、新天地を求めて農民たちが集まっていた。ちょうど「大草原の小さな家」のインガルス一家たちのように。農民たちは牛に農地を荒らされたくないので柵を作るが、それが違法とされていた。牧畜業者と農民たちの諍いが絶えなかった。

 そうしたなか、酒場の親父でありながら、土地を牛耳っている判事ロイ・ビーン(ウォルター・ブレナン)は、横暴の限りを尽くし、気に入らなければ誰も彼も絞首刑にしてしまう無茶苦茶な男。しかも牧畜業者と結託して、農民たちを迫害していた。

 そこへ、カリフォルニアを目指して旅の途中の流れ者コール・ハードン(ゲイリー・クーパー)がふらりと現れ、馬泥棒の容疑で、ロイ・ビーン判事の裁きを受ける。しかしロイが、女優リリー・ラングトリーに夢中だと知るや、コールは口から出まかせ「リリーと親密な関係」だと嘯き、彼女の髪の毛を持っているとホラを吹く。リリー命のロイは、その髪の毛欲しさにコールに擦り寄る。

 こうした前半の展開はユーモラスで楽しい。コールは、農場の娘ジェーン=エレン(ドリス・ダペンポート)の願いを聞き入れ、ロイに牛の追い出しをさせる。その見返りがリリーの髪の毛。実はジェーン=エレンの髪を切ったものだった。

 というわけで、西部劇でお馴染みのロイ・ビーン判事を、ウォルター・ブレナンが実にユーモラスに演じている。憎めない爺さんのようでいて、実はかなりのレイシスト。私利私欲の塊の感じをブレナンは目の奥の冷徹さで表現。ブレナンは本作でアカデミー助演男優賞を受賞。ロイ・ビーンといえば、僕らの世代ではポール・ニューマンが演じたジョン・ヒューストン監督『ロイ・ビーン』(1972年)の印象が強い。

 さて、後半、コールに従って牛を追い出したロイ・ビーンは、牧畜業者たちを焚き付けて、収穫前の農地を焼き討ちにして、ジェーン=エレンの父(フレッド・ストーン)は非業の死を遂げる。農民たちは次々と離農して、新天地を求めてまた旅へ。

 ロイ・ビーンの悪辣さに、コールは怒り心頭。保安官にロイの逮捕状を発行させ、副保安官となり、ロイを逮捕すべく一計を案じる。ここからの展開は捻りが効いていて、本当に面白い。クライマックスのウォルター・ブレナンとゲイリー・クーパーの対決がまたいい。

当たり前だが、ウイリアム・ワイラーの演出は緩急自在で、本当に面白い。ハリウッド映画の真髄が存分に味わえる傑作!

1月16日(日)『無頼の谷』(1952年・RKO・フリッツ・ラング)『大怪獣バラン』(1958年・東宝・本多猪四郎)

 今宵の娯楽映画研究所シアターは、フリッツ・ラング監督『無頼の谷』(1952年・RKO)を30年ぶりぐらいに。アマプラで配信中のPDだがスクリーン投影で、テクニカラーの美しさを(それなりに)堪能した。マレーネ・ディートリッヒはこの時五十歳! 美しく、鉄火な西部の盗賊団のボスを艶かしく演じている。その美しさにうっとり。主演は若き日のアーサー・ケネディ、そして僕らの世代では「オードリー・ヘップバーンの夫」のイメージが強いメル・ファーラー。1940年代までの西部劇とは違って、少しだけ主人公の苦悩などの心理描写が重めに表現されている。

 1860年代、ワイオミングのとある町。ヴァーン・ハスケル(アーサー・ケネディ)の許嫁・ベス(グロリア・ヘンリー)が強盗団に乱暴されて殺されてしまう。怒りに燃えるヴァーンは、犯人を探す旅に出る。その途中で、瀕死の重傷の強盗の一味を発見。男は「チャック・ア・ラック」の言葉を残して絶命。ヴァーンは「チャック・ア・ラック」を手がかりに、捜索の旅を続ける。

 ケン・ダービー作曲の主題歌「チャック・ア・ラック」が流れるなか、ヴァーンの旅が描かれるのだが、歌詞とシーンがリンクするミュージカル的な演出が楽しい。1950年代の西部劇にはこうした主題歌がつきもの。まるでアーサー・ケネディが歌っているかのようなリップ・シンクロ演出もあり、その明朗さと、ドラマの重さのアンバランスが1950年代だなぁと(笑)

 「チャック・ア・ラック」とはメキシコ国境に近い牧場で、無法者フレンチー・フェアモント(メル・ファーラー)が関わっていることを知ったヴァーンは、牢屋に入っているフレンチーに近づいて脱獄を助けて、一緒に「チャック・ア・ラック」へ。牧場は、かつて一世を風靡した酒場の歌姫・オルター・キーン(ディートリッヒ)が経営していたが、彼女は無法者たちの元締めだった。

 というわけでいよいよ、ディートリッヒ登場。回想シーンも含めて、彼女が歌うシーンがふんだんにある。昼は女牧場主、夜はカクテルドレスに身を包んで妖艶に歌う。ありえない設定をみせてしまうのはディートリッヒのスターとしてチカラあればこそ。

 「チャック・ア・ラック」には案の定、恋人殺しの犯人がいる(らしい)のだが、その正体は誰かわからない。だからヴァーンの目つきは鋭くなる。1930年代の西部劇ヒーローなら、その辺りは余裕たっぷりのポーカーフェイスで真相に迫るのだけど、アーサー・ケネディはガツガツしているというか、苦悩が剥き出しになるので「余裕がないなあ」と思ってしまう。

クライマックスの強盗シーン、そこからの復讐劇、悲劇的なラストも含めて、フリッツ・ラング映画のケレンを堪能。メル・ファーラーがなかなかよく、ディートリッヒの素晴らしさを味わうにはもってこいでありました。

 続いての娯楽映画研究所シアターは、メキシコ国境の無頼の谷から、北上川上流の秘境へ。久しぶりに『大怪獣バラン』(1958年・東宝・本多猪四郎)をスクリーン投影。東宝版スコープ(スタンダードを上下トリミング)モノクロ作品で、東宝特撮映画では地味な印象だけど、バランの造形、東北のシーンの特撮が素晴らしいので、たまに観たくなる。

だけど、いつも途中で眠くなってしまい、ウトウト。気がついたら、園田あゆみさんが羽田空港で走っているシーンに。昔から映画館でもつい眠くなってしまうのは何故だろう? バランのフォルムは素晴らしく怪獣美の極致でもあるのに。タイトルバックの婆羅陀魏山神像も見事!子供の頃から、この像のフィギュアが欲しかったなぁ、といつも思いつつ。

関沢新一さんによる脚本は「ウルトラQ」の原点でもある。

博士の助手・魚崎健二(野村浩三)→万城目
記者・由利子(園田あゆみ)→江戸川由利子
カメラマン・堀口元彦(松尾文人)→一平
生物学者・杉本博士(千田是也)→一の谷博士

前半の東北の秘境でのバランの大暴れの神々しさ!
後半の羽田沖→羽田空港での攻防戦!

シンプルなストーリーで見せ場もたっぷりなのに、途中で眠くなってしまうのは、何故だろう?(笑)だからこそ年に一回、ぐらいのペースで観たくなる。伊福部昭さんの音楽も最高だし!


よろしければ、娯楽映画研究への支援、是非ともよろしくお願いします。これからも娯楽映画の素晴らしさを、皆さんにお伝えしていきたいと思います。