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 「若大将」といえば加山雄三のニックネームで、今でも呼称として通用している。スポーツ万能、女の子にはモテモテ、人に頼まれたらイヤとはいえない。東京麻布の老舗のすき焼き屋「田能久」の跡取り息子・田沼雄一は京南大学の四年生。学費の使い込みやレストランでの大乱闘が原因で、父親・久太郎(有島一郎)から勘当を言い渡され、家を出る。そこでヒロイン澄子(星由里子)と出会い、青大将こと石山新次郎(田中邦衛)の横恋慕あり、運動部の合宿での大騒動あり。というおなじみの展開。若大将には可憐な妹・照子(中真千子)がいて、早くに母を失っているために、祖母・りき(飯田蝶子)が一家の母親がわり。

 極端なやきもち焼きで、思い込みの激しい澄子の嫉妬や誤解から、若大将の心は乱れるなか、宿敵西北大学とのスポーツ試合が始まる。と、ほとんどがこのパターンの繰り返し。そのルーティーンこそが、若大将映画の楽しみだし、個性豊かなレギュラー陣によるアンサンブルの楽しさこそ、娯楽映画のシリーズの良さでもある。

 若大将の屈託のなさは、60年代ニッポンの若者の憧れの象徴でもあるが、同時に「そんな青春なんてなかった」という現実からの、格好の逃避場所として、ひたすら明るく楽しい。若大将にはアンポもドラッグもセックスも無縁。もちろん東宝映画だから、登場人物たちはみんな裕福だし、そのリアリティのなさが、コメディとしても青春映画としても理想的な空間を作っている。

 今回のセレクションは「キャンパス篇」ということで、初期三部作に加え、『赤ひげ』の撮影のため、およそ一年半ぶりに作られた『海の若大将』の四本。昭和36(1961)年の夏から、昭和40(1965)年の夏にかけての作品である。この四年間に、若者の風俗は大きく様変わりしている。例えば『大学〜』ではドドンパ、『銀座〜』ではハワイアンを歌っていた若大将が、『海〜』ではヴェンチャーズ・スタイルのエレキを手にしてバンド演奏をしている。その変遷もまたシリーズを通してみる楽しみでもある。それに、ボックス特典として、映画の歌唱シーンを編集した「若大将トラックス」がついている。同名CDを、今から1995年にリリースさせていただいいたが、いや、良い時代になったものです。

大学の若大将(1961年・東宝・杉江敏男)

 京南大学水泳部のエース・若大将が、青大将の父経営の「石山製菓」キャンディストア・ガール・澄子と出会い、箱根芦ノ湖でひと騒動。勝ち気な澄子と、坊ちゃん育ちの若大将の恋の行方は? 若大将シリーズの「黄金律」がこの第一作ですでに完成されている。脚本家の笠原良三と田波靖男は、加山の実生活でのエピソードをキャラクター作りに取り入れ、日本映画でもっともさわやかなヒーロー・田沼雄一が誕生。製作者の藤本真澄は、戦前の松竹『大学の若旦那』のような明朗篇を目指したという。若大将の語源は、作家・黒岩重吾の株屋時代の愛称「北浜の若大将」からのイタダキ。挿入歌はドドンパ「夜の太陽」(加山のデビュー曲)。

銀座の若大将(1962年・東宝・杉江敏男) 

 若大将が西北大学の学生と乱闘を繰り広げた銀座のレストラン・ノースポールは、父・久太郎の友人の店だった。そのお詫びにと住み込みコックとなる若大将は、隣の洋裁店「らべる」のお針子・澄子と知り合う。今回のスポーツは、万座温泉でのスキーと、ボクシングの二本立! 新しもの好きのおばあちゃんと雄一のやりとりに、有島一郎の父の素っ頓狂な楽しさ! 岡本喜八の男性活劇などで活躍していた加山だが、その地の魅力を引き出した「若大将」は女性ファンも獲得し、東宝の人気シリーズとなる。若大将が澄子に弾き語りをする「星空」は、加山ではなく広瀬健次郎が作曲。パーティで歌うハワイアン「夢をえがいて」は当時の学生音楽スタイル。

日本一の若大将(1962年・東宝・福田純)

 当初は三部作完結編として用意されたもの。本作で若大将の就職が決まり、妹・照子と、陸上部のマネージャー江口(江原達怡)とのゴールインもにおわされる。監督は前二作の杉江敏男から、若手の福田純にバトンタッチ。東宝創立30周年の夏に公開された。同名主題歌は、東京人形町の弁当屋の若大将出身でもある青島幸男が作詞。「俺は若大将」と自意識過剰な歌詞は、青島イズムに溢れている。これまで敵役として登場していた田中邦衛の青大将が、路線変更。憎めないイイ奴というポジションを獲得し、シリーズは続投。1960年代を駆け抜けることになる。挿入歌は澄子とのデュエット「ひとりぼっちの夜」、ホテルのラウンジで歌う「青い月影」。

海の若大将(1965年・東宝・古澤憲吾)

 『赤ひげ』の撮影で中断していたシリーズ再開にあたり、田波靖男は脚本で若大将のセックスを取り上げたところ、プロデューサーの逆鱗にふれ、ワンパターンであることの重要性を知ったという。監督には、植木等を日本一の無責任野郎に仕立て上げたパワフルな古澤憲吾。東宝傍系の宝塚映画での撮影なので、設定上では東京界隈の話なのにロケは関西で行われている。本作ではじめて、加山の愛艇「光進丸」がスクリーンに登場。主題歌「海の若大将」はともかく、挿入歌は「恋は紅いバラ」と「君が好きだから」と、加山のオリジナルソングが歌われ、50万枚を超す大ヒットとなる。澄子が勤めているのは高級スーパー「青山ユアーズ」。

2005年映画秘宝より


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