見出し画像

『喜劇 駅前弁当』(1961年・久松静児)

「駅前シリーズ」第3作!

 さぁ、朝から娯楽映画研究。今日は第3作『喜劇 駅前弁当』(61年・久松静児)。舞台は東京から急行で3時間半、大阪から4時間の浜松駅前の老舗の弁当屋・互笑亭。その女将・景子(淡島千景)にご執心の森繁さんと伴淳さんの旦那衆が織りなす、色ぼけ、慾ぼけの風俗喜劇。フランキー堺さんの溌剌ぶり!


フランキーがヤマハのハモニカ教室でドラムを叩き、坂本九ちゃんが「あの娘の名前はなんてんかな」を歌い、渡辺トモコさんが参戦。昭和36年の人気者勢揃い。このシーンだけでも価値あり。この曲は永六輔さん中村八大コンビの楽曲。歌詞の女の子の名前は渡辺プロ、曲直瀬プロ、「夢であいましょう」関係者!


フランキーさんが時折発する奇声は「ウッドペッカー」の真似。ダニー・ケイの「ウッドペッカー・ソング」よろしくゴキゲンなフランキー。この頃、テレビでは外国マンガ(当時の呼称)を放映中。『世界大戦争』のフランキー家のテレビも然り!東京映画だからキャストも多彩。駅員役に天津敏先生も!


同時上映は、九ちゃん&古澤憲吾監督『アワモリ君西へ行く』。つまり「坂本九ちゃん二本立」。九ちゃんと渡辺トモ子さんは掛持ち出演。伴淳はストリップ小屋の親父、ナンバーワンの踊り子に新東宝のヴァンプ三原葉子さん。で、大阪のインチキコンサルにアチャコさん。むちゃくちゃでござりまするかな。


横山道代さんの役は、芸者でもホステスでもなく「ステッキーガール」。昭和4年に大宅壮一が命名、男性のステッキがわりのデート嬢。実際にいたかどうかはロッパの漫談で「ステッキガールって、見たことあるかい」というネタがある。ところが戦後、浜松では「ステッキガール」ビジネスがスタンダードに。


そんな風俗ネタが「駅前」の身上。浜松名物オートレースのシーンでは、森繁、伴淳、アチャコ、金語楼、フランキーが勢揃い。「喜劇役者」のショーケースでもありますなぁ。

『駅前弁当』が良いのは、森繁さん、伴淳さんの大先輩でもある喜劇人・アチャコさんを(詐話師とはいえ)ビッグネームとして立てている作り方。喜劇人といえば、駅前常連となる立原博さんがとにかくおかしい。野口ふみえさんの男で、フランキーさんが彼女のアパートを訪ねるシーンでの挙動不審ぶり!


砂丘で森繁さんに不審尋問する巡査に松村達雄さん。この頃、NHK「若い季節」でプランタン化粧品の部長役をやっていたけど、あ、二代目おいちゃんだ!と、遅れてきた映画ファンならではのお楽しみ。


森繁宅にフランキーが飛び込んで「家宅捜査」前の家探しをするシーン。植木等さんの「スーダラ節」の二番から最後のコーダーまで延々と流れる。子どもたちがテレビで見ているという設定なのだが、1961年末に「スーダラ節」が日本中を席巻していた証拠物件でもあります(笑)


音楽が広瀬健次郎さんなので、眺めているだけで「若大将気分」に包まれる幸福感。あ、駅前マニアだと、若大将を見ると「駅前気分」に浸れる、か(笑)あと、三木鶏郎さんの「僕は特急の機関手で」に歌われている「ハモニカ娘」を具体的に味わうことができるのもポイント。やはり映画はタイムマシン。


森繁さんが付け髭をして、鏡の前で、カジモドみたいな表状をして「スリラー」と叫び、横分けしてヒトラーの顔真似をするシーン。アドリブだろうけど、うまいなぁ。しかも「ハイル、ヒットラー」とは言わない節度がある。この節度が、お色気や下ネタにもあって、泥臭いけど品のある感じになっている。


ストリップ小屋の楽屋で、ハモニカに合わせて、九ちゃんが歌う「九ちゃん音頭」のしみじみ。そこへ森繁さんが現れると、九ちゃんが「船頭小唄」を森繁節の物真似をする。ちょっとしたシーンだけど、芸達者を観る楽しさがここにある。


ステッキーガールの横山道代さんは出演シーンごとに仕事が変わる。最初「マッサージ師」→「ステッキガール」→「芸者」→「ストリッパー志願」と、生活のためならなんでもやるという現代娘。ケロッとした感じがチャーミング。それから坂本武さんの弁当屋の番頭が、松竹映画的安定をもたらしてくれる。

よろしければ、娯楽映画研究への支援、是非ともよろしくお願いします。これからも娯楽映画の素晴らしさを、皆さんにお伝えしていきたいと思います。