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『社長千一夜』(1967年・松林宗恵)

「社長シリーズ」第26作!

 昭和42(1967)年の元旦に封切られた正月映画『社長千一夜』はシリーズ第26作。同時上映は空前の加山雄三ブームのなか香港ロケで製作された『レッツゴー!若大将』(岩内克巳)。ちなみにこの年の正月興行は、東映は北島三郎『兄弟仁義 関東三兄弟』と高倉健『網走番外地 大雪原の対決』、松竹は橋幸夫『シンガポールの夜は更けて』と坂本九『九ちゃんのでっかい夢』(山田洋次)、日活は吉永小百合『青春の海』と舟木一夫『北国の旅情』、大映は勝新太郎『座頭市鉄火旅』、市川雷蔵『陸軍中野学校 竜三号指令』と、歌謡映画と人気シリーズ中心だった。

 映画界の斜陽には歯止めがかからず、各社ともテレビやレコードで人気の歌手たちをフィーチャーした作品を連打していた。そうしたなか、森繁久彌の「社長シリーズ」は「明るく楽しい東宝映画」のカラーを象徴する作品で、加山雄三の若大将とともに安定した興行成績を記録していた。

 さて、東京オリンピックが終わり、構造不況もようやく復調の兆しを見せるなか、3年後に大阪千里丘で開催される「日本万国博覧会」を前に、レジャーブームを巻き起こそうと観光業界は注目の的だった。東京五輪のために整備された東海道新幹線、そして国内線の充実などにより、旅行会社は「パッケージ開発」に躍起になっていた。

 そこで『社長千一夜』は、万博を前に大いに張り切る観光会社「庄司観光」が舞台となる。東京五輪の特需で潤い、「次は万博だ!」という気運のなか、社長・庄司啓太郎(森繁)、元秘書課長の開発部長・木村信吉(小林桂樹)、勤勉実直な専務・金井鉄之介(加東大介)、そして社用族の権化のような大阪支社長でホテル支配人・飛田弁造(三木のり平)と、おなじみの面々が新観光コース開発のために張り切っている。

 小林桂樹の秘書課長は、前作『続社長行状記』が最後となり、今回は開発部長役。秘書・小川次郎役には、東宝の若手俳優としてメキメキ頭角を現してきた黒沢年男が抜擢。ヤングパワーの登用によるシリーズの若返り策が図られた。かつての小林桂樹のように、社長の浮気癖に悩まされ、出張の随行では、社長夫人・邦子(久慈あさみ)から常務経由で浮気の監視役を命ぜられたりと、『社長道中記』(1961年)での「随行さん」がリフレインされる。

 庄司観光では、木村開発部長の発案で、大阪→別府→熊本、天草五橋をめぐる「新ジェットコース」を開発中。ところが外国人観光客を誘致するには、デラックスなホテル建設が急務という話に。そこへ、大阪のホテルの支配人がブラジルの日系三世・ペケロ・ドス荒木(フランキー堺)の耳よりな話を持ち込む。

 今回のフランキーは、ブラジルの日系移民三世。「オブリガード」を連発し、ポルトガル語混じりの日本語で、怪しいことこの上ないが、資産家で天草に近代的なホテルを建設しようと来日。そのコーディネイトを庄司観光に依頼したのだ。のり平さんとフランキーさんの悪ノリは、回を重ねるごとにエスカレートしてきたが、今回はその極みともいえる。

 ぺケロに会うため大阪出張したものの空振りに終わり、それではと馴染みの大阪マダム・鈴子(新珠三千代)のバーで、良いムードの庄司社長。そこへ飛田支配人が飛び込んでくる。「明日という日もございますから、今日は大船に乗った気持ちで、ワタシにお任せください」と言い訳もC調の極みである。「ですから、今日は、ここで十分に羽根をお伸ばしになって、パッパとお遊びください」。憤然とする社長。そこへ「五木の子守唄」を朗々と歌うぺケロが登場。さっそく商談開始と相成る。

 そこで大阪から、天草へぺケロ接待旅行となるが、観光会社が舞台だけに、中盤からは延々と九州接待旅行のシークエンスが展開される。『社長漫遊記』(1963年)では、社長の浮気相手の芸者・桃龍(草笛光子)にご執心のフランキーが、二人の仲に入り込んで大騒動となるが、今回は、九州で出会った芸者・はる美(藤あきみ)にぺケロが一目惚れ。

 そのはる美は、ツンデレ系で、とにかくぺケロを嫌がる。嫌がるというより毛嫌いする。そうなると燃え上がるぺケロの恋心。後半は、商談成立のために、なんとしてでもぺケロの相手をしてもらおうと、庄司社長と小川秘書がはる美をなだめて熊本・天草旅行をするが・・・

 そこへ、社長と密会のために大阪から鈴子ママも参加。結局、鈴子ママははる美の面倒をみることになるなど、いつもとは違う展開が楽しい。果たしてぺケロの恋は成就するのか?その間を取り持つのが、直情径行のアタック主義の小川秘書。黒沢年男のオーバーな芝居が実におかしい。パワフルで賑やかな狂騒曲が繰り広げられる。



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