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『喜劇駅前飯店』(1962年・東京映画・久松静児)

「駅前シリーズ」第6作!

  世紀の珍作『喜劇 駅前飯店』(1962年・久松静児)。これが『ニッポン無責任野郎』と二本立てだったなんて、夢のような世界! お馴染みレギュラー陣が全員、カタコトの日本語で繰り広げる珍騒動。横浜中華街を舞台に、森繁久彌、フランキー堺、伴淳三郎がインチキ臭い芝居を楽しそうに(笑)


 米倉斉加年が、フランキーのバイヤーにオイスターソースを横流しする船員で珍演。最高なのは、何かにつけて「アタマ刈りタイナ〜」とハサミを持って迫ってくる床屋の陳屯謝を演じた三木のり平。子供たちの人気者・巨人軍の王選手にも「アタマ刈りタイナ〜」と濃厚接触しようとする。本作で駅前は一気にアチャラカ世界へ!


 下ネタもお色気も満載で、とにかく脱線の連続。カタコトの面白さで押し切る。森繁の役名・徳清波(トクチンポウ)に過剰反応する淡路恵子。徳さんがチーフコックの中華料理店は、芝公園にあった「留園」(リンリン・ランランの!)レギュラー陣に、第1作『駅前旅館』からおなじみ、山茶花究が参戦してアチャラカ度さらに倍増。


 女優陣は、池内淳子の芸者・染太郎が前作に続いて、さらに新東宝出身の大空真弓の由美ちゃんが本作からレギュラー入り。3作連投の三原葉子は、巻頭にフランキーの事務所で「エースコック ワンタンメン」を生齧り(笑)♪ブタブタコブタ〜と歌う!

 淡島千景は徳さんの女房で日本人。狂想曲の中で唯一、まともなキャラ。淡島さんにインタビューした時に「とにかく、みなさん、お好きに演られて、こっちは大変だったのよ」と(笑)本当に、皆さんのワルノリがすごい。いよいよ王選手登場。のり平の執拗な「アタマ刈ろうヨ」攻撃開始!


 小唄端唄に凝っている徳さんの怪しげな調子に、辟易している淡路恵子さんのリアクション。ご贔屓の旅芝居一座の座長に歌謡浪曲「トニーは今も生きている/流転」の大木伸夫!おさげ姉妹も登場。貴重な芸能記録でもある。


 森繁とお景ちゃんの揉め事。伴淳とフランキーが介入するも、夫婦はベッドイン。でもって、それを見せまいと伴淳がフランキーに「上を向いて」と顎を持ちあげると、フランキー「歩くの問題よね」と絶妙のタイミング。「上を向いて歩こう」がビルボード1位になる半年前のこと。

 フランキーのところに、林奇根(山茶花究)が「ゆりの丘の駅前」の土地を買わなか?と持ちかける。つまり「百合ヶ丘」。これがタイトルロール駅前飯店の由来となる。そして巨人軍・多摩川球場での王選手の練習。伴淳の息子・高橋元太郎がプロテストを受ける。空前の野球ブームは駅前シリーズにも!


 プロテストに落ちた高橋元太郎。やけになっても、グレ方が可愛らしい。みんなでツイスト踊って、挿入歌「ぼく」歌ったり、スリーファンキーズ脱退直後だもんな。喧嘩するヤクザ者が立原博さんだし、その喧嘩に現役の王選手が参戦するのも、今では考えられない倫理観(笑)

 フィクションの世界に、現実の王選手が登場して、物語が展開する。まさしく「巨人の星」の手法(笑)。この後、『喜劇 駅前茶釜』にはジャイアント馬場がゲスト出演して乱闘シーンがある。これはフランキーの後輩役なので倫理的には大丈夫だけど(笑)

 森光子は、山茶花究とグルのインチキ占い師で、その名も紅生姜。戦前、新興キネマ時代、伴淳の妹役をやった事もあるので、僕らには意外なアチャラカ芝居も楽しそうにこなしている。

 フランキーの実父の彼女だった沢村貞子の役名「金太郎」姐さん。伴淳さんは「チン太郎」と呼び、池内淳子は「あら金太郎よ」、伴淳「チン」の応酬。でフランキー「チンでもキンでも同じのことよ」。またしても下ネタ(笑)池内淳子のリアクションが素敵!

 色々あって(本当にエピソードのてんこ盛り)、フランキーが池内淳子と相思相愛に。彼女に懸想していた森繁が一人拗ねて「孤独ナ魂ヨ」と嘆息。抜群ですなぁ。山茶花究の狼藉に「天に変わって」と拳を振り上げると山茶花「クギでも打つか?」、森繁「天に変わってクギを打つ」(笑)

 で、いよいよ大団円。百合ヶ丘駅前「駅前大飯店」開店に乗じた山茶花一味の復售のドタバタ。もはや第1作『駅前旅館』の文芸映画ムードは微塵もなく、ひたすらくだらなく、ひたすら賑やかな珍騒動がくり広げられる。呆れる前に笑え、笑え、笑え!の「Mr.BOO」クラスのアチャラカ映画の楽しい世界!


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