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『続サラリーマン清水港』(1962年・松林宗恵)

 前作から二か月後、昭和37年3月7日に封切られた続篇。今回も石井松太郎(小林桂樹)宅の朝から始まる。大沢健三郎の新聞配達が「スーダラ節」を歌いながら世田谷の畑のある道を快走している。「スイスイ、スーダラッタ」ではなく「スイスイ、スータカタッタ」と歌っているが、昔、こういう風に歌う人が、僕の周りにもいた。歌詞カードで覚えるのではなく、耳から流行歌が入ってきて口伝いに流行したからだろう。この作品では三木のり平さん、森繁久彌さんも「スーダラ節」を口ずさむシーンがある。

 同居していた後輩の追分三五郎(夏木陽介)が、秘書課の妙子(藤山陽子)と婚約してしまい、少しヤケクソ気味の桂樹さん。母・てつ(英百合子)に横柄な態度で八つ当たり。毎度のことだが、マザコンぶりを今回も発揮。何をそこまで、というところまで母親に口答えする。余談だが、お母さん役の英百合子さんは、戦前は原節子さんのお母さん役など、東宝映画の「母」として、昭和40年代後半まで活躍。『三大怪獣地球最大の決戦』(1964年)では夏木陽介さん、星由里子さんのお母さん役もしていた。

 さて、株式会社清水屋では、宿敵・黒駒酒造との野球試合で盛り上がっていた。わざわざ清水工場長・小政(三木のり平)が出張してきて応援すると大張り切り。「勝てば勝利の美酒に酔い、負ければ無念のやけ酒に泣き、ああ玉杯に花受けて・・・すいすい、スーダラッタ〜」と相変わらずのC調ぶりを発揮。「君、ともかく飲みたいんだろ」と次郎長社長(森繁久彌)。「よし、それじゃ東京ホテルのグルリに」と森繁社長。「いいですな、あのグリルは」と興奮気味ののり平さん。「いやいや、あそこのグルリよ」で、ショボンとなる。

 「社長シリーズ」は、こうしたベテランのやりとりを眺めているだけで楽しい。さて、黒駒酒造との野球試合が始まる。清水湊のハッピを着て応援団長をしている桂樹さん。『サラリーマン出世太閤記』シリーズの木下秀吉を思い出させてくれる。こちらも笠原良三脚本のオリジナルだった。応援席ののり平さん「これで勝ったら、社長に背番号100番のユニフォームを着てもらって、銀座のバーというバーを練り歩く、バーオンパレードをしましょう」のワルノリに、森繁社長も満更ではない。

 惜敗した清水屋チーム。「女の子はいないが、安くて旨い酒をだす」銀座の居酒屋・三州屋で残念会。銀座の並木通りには、東宝映画のプロデューサー・金子正旦さんが経営していた名画座並木座があった。ここの重役には「社長シリーズ」のプロデューサー・藤本真澄さんも名前を連ねていて、その一階に今でもあるのが「三州屋」。僕は銀座の泰明小学校出身で、その後輩のプロレスラー、三州ツバ吉さんの実家である。

 さて、映画の三州屋の主人は、頑固者の吉良仁吉(河津清三郎)。日本中の銘酒を置いてある店なのに、肝心の「清水屋」の「次郎長政宗」は置いてなかった。その理由は「焼酎屋の作っている水臭い酒?」とけんもほろろ。で、なんとか吉良を口説いて、置いてもらおうとあの手この手が展開される。

 後編には残念ながら、フランキー堺さんの怪しげな邱六漢は登場しないが、のり平さんの面白さはますますエスカレート。ゲストとしては、灘の造り酒屋「神戸屋」の御曹司・神田長吉役で宝田明さんが『サラリーマン忠臣蔵』(1960年)以来の出演となる。気が弱くて、見栄っ張りのぼんぼんを好演。宝田さんは、こうした二枚目だけど、優柔不断なダメ男を演じると抜群。『夫婦善哉』の森繁さんとはまた違う、女性が放って置けないダメダメぶりに味がある。同時上映は、宝田明さん主演のラブロマンス『旅愁の都』(鈴木英夫)。相手役は司葉子さんではなく、星由里子さん。

前作の後半で、石井松太郎と出会い、交際を始めた京子(司葉子)を中心に物語が進んでいく。この年、司葉子さんは生涯の代表作『その場所に女ありて』(鈴木英夫)に主演、ますます輝いていた頃である。「社長シリーズ」では、『社長紳士録』(1964年)で、桂樹さんの秘書課長とゴールイン、そこからシリーズでは出産、子育て、よろめきと、二人の物語がサイドストーリーとなる。

 雨の土曜日、社長の昼食のざるそばをハサミで切りながら、先代社長・河村黎吉さんの思い出を語る。桂樹さんと森繁さん。「社長シリーズ」では、必ず先代社長の写真が社長室に掲げられている。桂樹さんは、先代社長に「君は会社のホープだよ」と言われ「ホープさん、ホープさん」と呼ばれた話をする。

戦後の東宝サラリーマン映画は『ホープさん サラリーマン虎の巻』(1951年)から始まる。そこに『續三等重役』(1952年)の浦島課長(森繁)が桑原社長(河村)の蕎麦をハサミで切るショットがインサートされる。

 プロデューサーの藤本真澄さんは、毎回、社長室に前社長の写真を掲示するにあたり、河村黎吉さんの遺族にギャランティを支払いしていた。云うなれば、先人の勲を大事にする社長シリーズの精神である。

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