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「七夕」の由来と行事の移り変わり【歴史にみる年中行事の過ごし方】

「七夕」とは旧暦7月7日の行事のことで、江戸時代には「五節供」の1つとして幕府の式日にも定められ、武家の間に広まるとともに民間の風習とも結びついて庶民の行事として普及した。

「五節供」は明治5年(1872)12月の「明治の改暦」に伴い廃止されたものの、それぞれ旧暦の日付をそのまま新暦に引き継いで民間行事として残っている。

現在7月7日、あるいは東北地方などでは月遅れの8月7日に行なわれる「七夕」行事の歴史を振り返りたい。


「二星会合」と「乞巧奠」

古代中国では漢代までに、牽牛と織女が年に1度7月7日の夜に天の川を渡って逢瀬を交わすという「二星会合」の伝承が広まり、その伝承にもとづいて女性が裁縫や手芸の上達を祈る「乞巧奠」が行なわれていた。

これらの行事が奈良時代には日本へ伝えられ、やがて古来の棚機女に関する信仰と結びつき、「七夕」行事が形づくられていく。

ただし、平安時代初期まで7月7日の行事といえば天皇相撲御覧と文人による賦詩の宴で、「二星会合」と「乞巧奠」に関する行事が中心となったのは平安中期頃から。平安後期の有職故実書『江家次第』には「宮中の庭に筵を敷き、山海の産物とともにひさぎ(赤芽柏)の葉に五色の糸を通した七本の針を刺して供えた」など、「乞巧奠」の舗設や次第が詳述されていた。

また、鎌倉時代の軍記物語で源平の争乱を描いた『平家物語』には「秋の初風吹きぬれば、星合の空をながめつつ、天のとわたる梶の葉に、思ふ事書く比なれや」と、この日、梶の葉に思いを書いたことが記されている。

七の数にかけた遊び

南北朝時代から室町時代にかけて、宮中では「七夕」にちなんで「七遊」という七百首の詩歌、七調子の管絃、七十韻の連句・連歌、七百の毬、七献の酒など、七の数にかけた遊びが行なわれた。

また、室町幕府における将軍拝謁と関係諸儀を記した『年中定例記』には「七月七日、御對面已下同前、梶の七葉に御詠あそばされ候也」と、七枚の梶の葉に詩歌を記す行事が記されている。

一方、地域社会では7月7日は夏麦の収穫祭として認識され、麦でつくった素麺を領民が領主に献上したり、逆に領主から領民の代表に下賜する風習が定着した。

戦国時代の越後北部の領主・色部氏の行事を伝える『色部氏年中行事』には「七夕」に贈られた素麺を食べたことが記されている。 

梶の葉から短冊へ

そして江戸時代、幕府が「七夕」を五節供の1つに定めたことで、武家のあいだでも定着する。

江戸城では将軍をはじめ一同が白帷子に長袴姿で祝い、大奥では四隅に笹を立て、しめ縄を張った台を縁側に置き、スイカ、ウリ、菓子などを供えた。このとき奥女中は詩歌や思いを梶の葉ではなく短冊に書いて笹に結んだという。

やがてこれらの行事が江戸市中に伝わり、6日の朝、庶民は詩歌や書の上達を願う短冊や商売繁盛を願う大福帳などを笹に結びつけ、家の屋根に掲げた。

江戸後期の天保9年(1838)年に刊行された『東都歳時記』には、「今朝未明より、毎家屋上に短冊竹を立る事繁く、市中には工を尽して、いろいろの作り物をこしらへ、竹とともに高く出して、人の見ものとする事、近年のならはし也」とある。

そして嘉永から慶応にかけての江戸の風習や事物をまとめた『江戸府内絵本風俗往来』には、「勿論今日夕には壹本残らず取拂ふて川に捨つる習ひなり」とあった。

当時「七夕飾り」は6日に掲げられ、翌7日には川や海に流されていた。さきにみた大奥の供物は品川の海に流すのが定例だったという。

江戸時代以前、そして江戸城内の行事はともかく、現在に伝わる「七夕飾り」の行事は、江戸後期に庶民のあいだで形づくられたようだ。

ちなみに旧暦7月の異称である「文月」の語源には諸説あるものの、「七夕」に詩歌を献じたり、書の上達を願ったり、書物を夜風に曝す風習に因み、「文披月(ふみひらきづき・ふみひろげづき)」が転じたとする説が有力とされる。

家から商店街のイベントへ

幕末、全国各地で盛んになった「七夕飾り」は、明治5年(1872)12月の「明治の改暦」を境に徐々に廃れていく。

そんな衰退しつつあった「七夕」行事を復活させたのが仙台の「七夕まつり」だ。

仙台の「七夕まつり」の始まりは昭和2年(1927)のこと。翌年同市で開催される東北産業博覧会を前に、商工会議所と協賛会が「飾りつけコンクール」を実施したものが年々盛んになっていったという。

そして昭和26年7月、神奈川県平塚市が仙台をモデルとした「七夕まつり」を開催する。以降、高度経済成長とともに全国各地の商店街が夏の一大イベントとして「七夕」を採用。近年では幼稚園や小学校などで「七夕飾り」が年中行事化されて久しい。(了)

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国立国会図書館デジタルコレクション

【主な参考文献】
・新谷尚紀著『日本人の春夏秋冬』(小学館)
・神崎宣武著『「まつり」の食文化』(‎角川書店)
・吉海直人著『古典歳時記』(KADOKAWA)

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