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変化の激しいスタートアップ企業に、弁理士がブランディングを実践

2月25日(木) に第2回ブランディング事例共有会を開催しました。2人目の発表者を紹介します。

株式会社Toreru / 特許業務法人Toreru パートナー弁理士 兼 最高執行責任者(COO) 土野 史隆さんです。

土野さんは、株式会社アルバック知的財産部にて、企業目線からの知的財産保護に従事。その後、秀和特許事務所にて、商標・意匠分野のプロフェッショナルとして、幅広い業界のクライアントに対し国内外のブランド保護をサポートしてきました。2018年9月より、株式会社Toreru/特許業務法人Toreruに移籍し、知的財産 × テクノロジー による新時代の知的財産サービスを創っていて「守れるブランディング」をサポートするブランド弁理士として、「個性に気づき、深化させる」をミッションとし「知的財産 × ブランディング × 内省」でこの実現を目指しています。

ブランド・マネージャー認定協会のトレーナーでもあります。

こちら↓で情報を発信されていますので、ご参考まで。
https://fumitakahijino.com/work/

ということで、土野さんより自社(株式会社Toreru)のブランディングの事例発表をしていただきましたが、その内容を簡単ではありますが、こちらでご紹介します。

株式会社Toreruは、2017年に創業。弁理士とITを融合させて、クラウドで商標登録が完結するサービスを提供している。「人間とテクノロジーで商標を、安心、カンタンに」が企業のスローガンとなっている。人数は12名のスタートアップ企業である。創業して4年程経つが業績は順調に伸びており、ブランディングについても会社として特に必要としているものではなかった。

今回事例紹介を行う土野氏は2年半前に入社。入社後に社内状況を確認した結果、今後の競合企業への対抗策として、なるべく早くブランディングに着手するべきだと判断したことで、本格的にブランドという概念を企業として導入していくこととなった。

この時に心がけたのが、優れたブランディングのフレームワーク(定説)をいかに “自分たちに合ったやり方”に落とし込んで実行するかが大事であるかということ。

これに伴い、下記のようなことを心掛けて、ブランドを浸透させていった。

自分たちに合ったやり方” にしたところ

• いきなり会社全体を巻き込むことはしなかった。
• ミッション・バリュー の2つを定義し、バリューを一番の “共通言語” にした。
• ブランディング推進は、無理せず、でも確実に。
• ITシステムを有効活用して、なるべく自動的に。

Toreruの主要サービスは、下記の2つである。
①ITを用いた商標登録サービス
②ITを用いた商標検索サービス

先行者優位で事業を進めていたToreruだが、今後、競合企業が進出してきた際にどのようなかたちで対抗措置をとれるかが懸念材料であった。このような状況下にある企業を次のステージへ導くために、今回のブランディングを目指すこととしたのである。

ブランディングの背景と狙い

ブランディングを開始した背景は、次の4つがあった。

【1つ目】
近い将来、 “技術的・価格的” 優位性だけでは競合他社との差別化ができなくなってくる
⇒ブランディングを導入する時点でも競合企業が出始めていたが、現時点では既に複数社がToreruと同様のサービスを開始している。

【2つ目】
創業者(社長)の想いや思想が、従業員や顧客などに伝わっていない
⇒人数がまだ少ないものの、日々の業務に追われていて、創業の志のようなものが共通認識になっていない。

【3つ目】
“技術的・価格的” 優位性(機能的価値)で勝てている間にそれを“ブランド” (情緒的価値)にうまく転化できれば、かなり優位に事業を進められそう
⇒先行者優位の立場であるうちに、自社の有為性をより高めるためにも”ブランド”を有効活用したいと考えた

【4つ目】
会社の規模が小さい(十数名規模)うちの方が、ブランディングを実行しやすい
⇒将来の成長の基盤となるものを、人数が限られているうちに定着させて、発展させていきたいという狙いがある。

この4点を踏まえて検討したことで、土野氏はブランディングを導入することが最適であると判断し、社長へブランディングを導入することを提案した次第である。

インターナルブランディングの8つのプロセスと実際にやったこと

1. CEOにブランディングの必要性を理解してもらう
 → あせらず時間をかけて(2ヶ月くらい)一対一で対話した
2. CEOと2人で「ブランド・アイデンティティ(仮)策定」まで行った
3. 約2ヶ月かけて全社員参加(CEO以外)でワークショップを開催
 → 「BIの策定」まで体験してもらう
4. 3の結果を2にフィードバックしてブラッシュアップ3ブランドをストーリーとして表現、実践していく。
5. ミッション・バリュー を正式に策定
 → 全社員の行動指針・価値判断の軸として共有
6. 人事評価制度の改定
 → 一部の部門に成果主義を導入(バリューの体現 → 売上の前提)
7. 全社員を対象とする定期的なブランド研修
 → ブランド体現の意識を忘れさせないように
8. 指標(KPI等)を各社員が見れる環境の構築
 → 自分でもフィードバックループが回せるように
9. 「朝会」の導入
 → 毎週1回、全員が「今週の個人目標と意識する “バリュー” を宣言
10.リニューアルプロジェクト
 → HP、LP、資料テンプレ、採用資料、発信するメッセージ
 → 刺激の再設計
11.CX(顧客体験)改善プロジェクト
 → カスタマージャーニーマップ研修・作成、CI規定プロジェクト発足
 → 刺激の再設計

社長と1~4までの過程を経ることで了承を得られ、そのことによりToreruとしてのブランディング導入がスタートした。

1. CEOにブランディングの必要性を理解してもらう
 → あせらず時間をかけて(2ヶ月くらい)一対一で対話した

社長は正直なところ、ブランディングの意味や効果に半信半疑だったようだが、土野氏のよる、
• 説明したブランディングの必要性
• 熱意
• 自分たちがブランドに密接な “商標” のサービスをしているので、ブラン
ドを理解・実践しておく価値がある
という説得を受けて、まずは “小さく” 始めてみましょうということになった。

2. CEOと2人で「ブランド・アイデンティティ(仮)策定」まで行った

ブランド構築のための8つのステップである、ブランド・アイデンティティに重点的に取り組み、これらのステップを経験したことで、最初は半信半疑だった社長も、ブランディングの意味や効果を実感し始めた。

3. 約2ヶ月かけて全社員参加(CEO以外)でワークショップを開催
 → 「BIの策定」まで体験してもらう

改めて自社のポジショニングマップを検討したところ、人間とテクノロジーの協働により今まで難しかったポジションに進出できることがわかった。

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それを示すスローガンが、
「速さ」×「カンタンさ」×「専門性の高さ」
というものである。

5. ミッション・バリュー を正式に策定
 → 全社員の行動指針・価値判断の軸として共有

ミッションは「知財の価値を最大化させること」と設定した。
これは、複雑化している知財の活用を、テクノロジーのチカラを用いて時代の最適解に導いていくことで、知財のライフサイクルを活性化させて、産業の発展に貢献していきたいという、企業価値と意欲を示すものである。

バリューは下記の2つの機能に分けることとした。
①機能的価値:速い、カンタン、専門性
②情緒的価値:安心、ストレスフリー、強みをつくる
以上の6つのバリューを提供することで、ミッションを果たしていくことが可能であると考え、自社のバリューとして設定した。

8. 指標(KPI等)を各社員が見れる環境の構築
 → 自分でもフィードバックループが回せるように

自社の重要指標を全て可視化し、できる限り数値化していくことで、情報の共有を図ると同時に明確性のある業務の進捗管理を目指したものである。

9. 「朝会」の導入
 → 毎週1回、全員が「今週の個人目標と意識する “バリュー” 」を宣言

朝会を導入することでもたらされた利点は非常に多く、短時間でブランディングの意味や効果が浸透するきっかけとして、とても役立つものであった。

朝会の導入で得られたメリットは、主に下記のようなものである。

• 経営会議で常にブランドの観点(ミッション・バリュー)で判断するようになった
• 経営判断や日常語業務において、迷いにくくなった
• 競合の動きに惑わされにくくなった(違いを自覚している。あとは伝えるだけ)
• 自分たちの価値の自覚(やっていることへの納得感 → やり切る力)
• 各メンバーの意識が高まった(バリューの体現をいつも意識)
• 顧客に「バリュー」が伝わってきている

ここまでのプロジェクトを振り返って

2020年の数値による実績を可視化すると、数多くの顧客に自社サービスが受け入れられていることが分かった。

・年間 商標登録出願代理件数 約3,800件
・クライアント数 15,000人以上
・顧客満足度 93%

また、有名ブランドに匹敵する NPS(顧客推奨度スコア)となっていることも確認できた。
・NPS(顧客推奨度スコア) 54

数値を裏付けする顧客の生の声としては、下記のようなものが挙げられる。
・すべてネットで完結するが、適時親切なメールでの報告が届き、安心を得ることができる。
・丁寧な対応と迅速な対応。
・対応が丁寧で簡潔なので、知識が無くても安心できる。

これまでのブランディング活動の結果で導き出された解としては、優れたブランディングのフレームワーク(定説)をいかに “自分たちに合ったやり方”に落とし込んで実行するかが大事であるということである。
これが今日、皆様に一番お伝えしたかったことである。


※事例発表後の質疑応答内容は、以下のとおり。

①ブランド・アイデンティティがミッションになったということか?
⇒当社ではブランド・アイデンティティはバリューが主体となっている。

②御社のブランディングはサービスのブランディングを優先しているのか。
⇒当社はスタートアップ企業であるため、まだ規模が小さい。そのためサービスブランディングとコーポレートブランディングはイコールである。

③ブランディングが上手くいっているように見えるが、その要因は?
⇒時間と人が限られている中、本業に影響が出ないように試行錯誤を繰り返してきたことが、功を奏していると考えている。

④ブランド・エクスターナルにおいては何を行ったのか
⇒今後、業務全般を全面的にリニューアルしていく予定である。


土野さん。自社のブランディングを協会で身につけられたフレームワークを自分たちに合ったやり方”に落とし込んで実行し、粘り強く成果を挙げていったプロセスといった、素晴らしい事例発表をありがとうございました。今後がますます楽しみです。

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※この内容は、第2回ブランディング事例共有会の発表の一部をまとめたものです。
ブランディング事例共有会では、チャレンジし、試行錯誤し、奮闘している実践事例の発表より、このプロセスから受け取る気づきやアイデアはもとより、元気と勇気をもらえます。
次回は、4月22日(木) 16時~ に開催ですので、お知り合いの方をお誘い合わせの上、ご参加ください。※参加費無料
■第3回 ブランディング事例共有会 ※参加費無料
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本編終了後には、当日の発表事例を振り返り、発表者を囲み学びを深めるディスカッションとして、オンライン勉強会を1時間ほど予定しています。
こちらも、ぜひ、ご参加ください。お目にかかれれば、うれしいです!



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