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確実に販売につなげるパッケージデザイン

ブランド・マネージャー認定協会の顧問を務めていただたいている目白大学 社会学部 教授の長崎 秀俊先生は、長年にわたり「パッケージのブランド再認の貢献」について研究されていらっしゃいます。

その研究内容が2021年1月に出版された『コロナ禍と社会デザイン』(目白大学社会学部社会情報学科 編)の第9章にて「店頭でブランド再認に貢献するパッケージ要因の研究」として記載されていますので、ご興味がある方は、ぜひ購読をオススメします。

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私からは、雑駁となりますが、簡単にその内容をご紹介します。
※実際の調査資料などは、ここでは省略しています。エビデンスの確認が必要な方は、書籍をご購入いただきご確認ください。

現代消費者の購買行動

インターネットの急速の普及により、消費構造は大きな変化を遂げているが、現在の物販EC化率は約7%で、残りの93%はいまだにリアル店舗に出向いて買い物が行われている。

リアル店舗の消費者の購買行動には、入店以前に購入商品を決めた計画購買と、入店後に決めた非計画購買がある。計画購買は更に次の3つに分類される。

ブランド計画購買」=具体的なブランドレベルまで事前に決めており、実際に購入した場合
カテゴリー計画購買」=ブランドレベルではなくカテゴリーレベルで事前決定し、同カテゴリー商品を実際に購入した場合
ブランド変更」=事前にブランドレベルまで決めて来店したが、実際には同カテゴリーの異なるブランドを購入した場合

その比率は、調査によると次のとおり。

1. 計画購買 合計22.6%
(1) ブランド計画購買率 5.8%
(2) カテゴリー計画購買率 16.2%
(3) ブランド変更率 0.6%
2. 非計画購買率 77.4%

注目すべきは、77.4%の非計画購買率。ブランドレベルで計画購買されたもの以外は、全て購入ブランドの最終決定が店内で行われていることもあり、カテゴリー計画購買率16.2%を足すと、購買行動における意思決定の9割以上が店内で行われていることになる。目まぐるしく環境が変化する小売業態であるが、実は計画・非計画購買の傾向は長年にわたり変わっていない。

購買意思決定において重要なパッケージ

店内購買行動を観察する視点である購買時間については、生活必需品の衝動買い(非計画購買)の平均意思決定時間は12秒以下であり、多くの購入は5秒以内に即決すると指摘されている。

消費者の約7割が購買意思決定場面において、1ブランドしか購入検討していない。つまり、類似商品を比較することなく購入に至っている。

このことからも、「店舗内で買い物客が迅速に製品を検出できることは、メーカーにとって1つの競争優位になりうる。」と指摘されている。このような状況下、多くの商品のなかから、顧客が瞬時に欲しい商品を見つけ出すのに重要な目印となるのが、パッケージである。

「見られない商品は買われない」との言葉があるように、商品の外見であるパッケージの視認性を高めることが重要な意味をもってくる。

脳神経科学の視点からも「パッケージは、ごく短時間のうちに購入を誘発する決定的な要因である」と指摘されいる。

商品パッケージは、中身を保護したり、取り扱い利便性を高めたりするだけでなく、店頭において消費者からの瞬間視を獲得し、ブランドの再認(※1)を促す手段として再注目されている。

一昔前までのパッケージの研究は、ロゴのデザイン性、シズル写真の配置かなどの個別要素に分解してその効果を指摘するものが大半であった。しかし近年、パッケージを要素ごとではなく全体として捉える「ホリスティック・パッケージ・デザイン」の考えが提唱され、新たな視点でパッケージ研究が進められている。

この考え方は「全体は個別の集合ではない」といするゲシュタルト心理学に近い。このアプローチ方法を用い、商品ブランドのパッケージがどれほど消費者のブランド再認(※1)に貢献しているのかを実験調査の結果とともに解説され、ブランド再認効果の高いパッケージには、どのような共通点があるかも合わせて検証されている。

実験調査から、ブランド名を確認せず、パッケージの雰囲気で購買意思決定を行っている割合が大きいことが分かった。

※この実験調査には、長崎先生にわざわざご来社いただき、私自身も当社社員も協力させていただいた。

実務へのインプリケーション

ネット通販など新しい小売業態が誕生した時代でも、大半の消費者はスーパーやコンビニで昔ながらの購買行動をとっていた。特に低関与最寄り品の購買行動においては、事前に計画せず、比較せず、よく確認せずに行われている。
このような状況下、メーカーが消費者に対応し、自社ブランドを選択してもらうにはパッケージが売り場で存在感を示し、ブランド名を確認しなくともブランド再認ができるデザイン・マネジメントを行っていくべきことが明らかになった。
具体的には、商品の美味しさや中身の機能を説明するコピー作成にプライオリティを置くのではなく、売り場でブランド再認を促進し、好感度が高まるようなパッケージ・デザインの開発を目指すことの方が重要なのである。またロングセラー商品においては、これまで培ってきたブランドらしさいを演出しているデザイン部分を踏襲しながら、微妙に鮮度を与えたデザインを開発していくことが、今後益々重要になってくるのである。

※1「ブランド再認」とは、ブランド要素(※2)に接した際に、特定のブランド名を認識すること。
※2 「ブランド要素」とは、ブランドを形成する最小単位のもので、代表的なものには9つの種類がある。
「①ブランド名」「②ロゴ、マーク」「③色」「④キャラクター」「⑤パッケージ、空間デザイン」「⑥タグライン」「⑦ジングル、音楽」「⑧ドメイン(URL)」「⑨匂い」

「ホリスティック・パッケージ・デザイン」の考え方は、2010年出版の拙著「確実に販売につなげる 驚きのレスポンス広告作成術」にも記載したが、広告の構造地図(レイアウト)と通じるものがあり、興味深かった。

―  広告では、「注目率」の獲得が何よりも肝心なことは第一の常識になっている。「注目率」に影響を与える要素としてレイアウトが考えられる。それにもかかわらず、広告の本でレイアウトを一番最初に解説したものがほとんどない。今までの広告表現研究といえば、「何を」「どう語るか」を第一のポイントとしてきた。
アムステルダム大学のフランツェン教授が調査データを示し、多くの人がひとつの広告の刺激に0.3秒間凝視し、1秒以内に「この広告は注意するに値するかどうか」を決めていると指摘している。新聞広告の「注目率」にスポットを当て、いろいろな解析を繰り返し行なったところ、結果的にフランツェン教授説をさらに具体化する糸口をつけるかのように、切りフダはレイアウトにあるということが浮きぼりになった。そして細かく見ていくと、「構造地図」に沿ったものが注目率を高めるうえで最も大きなカギを握っていることもわかってきた。(途中省略)
この著書には以上のような記述とともに、「広告を見た時に、最初に目にするものは、次の要素のうちのどれか?」ということで、構造地図、絵のスペース、カラー、ボディコピー数、絵の数、訴求内容、余白、字体、キャッチコピーの位置など、40項目以上の要素の調査報告もされている。その調査では、圧倒的に「構造地図」の注目率が高かったという結果が出ているのである。
このように、広告を見たときにまず最初に目にするのは、構造地図といわれる全体のレイアウトということがわかった。つまり、われわれも含めた消費者は初めに、広告の全体像を見るということのようだ。

※以下参考まで
イメージ広告は悪か?
https://note.com/toshi_iwamoto/n/nbb19f480689d/edit


ホリスティック・パッケージ・デザイン」は、全体として捉えることだが、新聞広告で最初に目にする注目率も同じく、全体として捉える構造地図であった。

いわゆる個別要素ではなく、全体としての雰囲気、誤解を恐れずに言えば、
ぼーっと見ている」ということである。


長崎先生、とても興味深い調査と考察、ありがとうございます。

パッケージを扱うデザイナーはもとより、ブランド・マネージャー、マーケッター、中小企業であれば経営者も知っておくべき内容だと思います。

コロナ禍と社会デザイン』(目白大学社会学部社会情報学科 編)
第9章 店頭でブランド再認に貢献するパッケージ要因の研究
https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4838233787/koteikyakuka-22/

オススメです!


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