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0ゲートからの使者「36」

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十和子

「ねぇ玲衣、聞いてるの?」

十和子からの電話に適当に相槌を打ちながら玲衣は考え事をしていた。

あと一か月足らずでテラスとスーサのレクチャーが終了してしまう。
数秘術や数を通じてのこの森羅万象への理解はまだまだほんの入り口で、二人が去った後、どうしたらいいかと考えを巡らしていたのだった。

インやヤンとも夢の中でおしゃべりができなくなってしまうかもしれない。そして本当は考えたくないが、ひとりになった自分はどうなるのか、ついつい考えてしまっていたのだ。

 
「ああうん、聞いてる」

「もう、聞いてなかったでしょう。だから、その彼とは相性占いだとかなりいい縁みたいなのよ」

「ああ、相性ね」
 

十和子。

玲衣の小中の同級生。
小学校高学年で同じクラスになった頃の十和子は、あまり目立たない大人しい子だった。
玲衣が貸してあげた漫画をきっかけに仲良しになった。
十和子の家に初めて遊びに行ったとき、豪邸だったことに玲衣はびっくりした。広いリビングには大きな応接セットがあり、海外のものであろうか高級そうな見たこともないような飾り物がそこかしこに置かれ、玲衣は口を開けたまま、天井から吊り下がった初めて目にするシャンデリアに見惚れた。

十和子には兄が二人いた。どちらも有名大学、有名私立高校に在学中で、十和子の両親はそれが自慢のようだった。
十和子は幼い頃から事あるごとに兄たちと比較されていた。
本当は頭のいい子なのに、十和子自身、自分はダメだと劣等感を抱くようになっていた。

テストの成績がイマイチだったりすると、父親から叱られていたようだ。
女の子だから、末っ子だから、といった甘い扱いは十和子の家では通用しなかった。
母親も躾に厳しく、世間体を重んじるあまり、日常の細々したことを口うるさく言っていたようで、玲衣の母親も似たようなところがあったため、お互いよく愚痴をこぼし合っていた。

 
そんな十和子が高校入学を境に変わった。
二人は違う高校へと進学したので、たまに駅で見かける十和子がだんだん変貌していくのを玲衣は複雑な気持で見ていた。
制服のスカートは短く、当時流行していたルーズソックス姿に茶髪と派手なメイク。
「玲衣久しぶり!」と声をかけられたときも、一瞬誰だかわからなかったくらいだ。

話をするとそこには昔と変わらない幼馴染の十和子がいて、ゲームや漫画の話で盛り上がったりするのであったが、十和子の高校生活での武勇伝は玲衣には驚くものばかりだった。

 十和子は出来の良い兄たちのような進学校には行けなかったことを両親から何かと嫌味を言われていたらしく、その反抗で親が眉をひそめるような言動をするようになった。

夜遅くまで遊び歩いたり、親と喧嘩しては友人宅を泊まり歩くこともあったそうだ。男性関係もたびたびすったもんだしていたらしい。

「仕返ししてやってんのよ」
ある日、十和子がぽつりと漏らしたその一言に、玲衣は十和子の心中を思って胸を痛めた。

 
やがて時が移り、それぞれ大学、就職と全く違う人生を歩んでいたが、昨年ばったり再会し、連絡先を交換したので、こうしてたまに電話やメールのやりとりをしている。

十和子は昔から何かにハマると盲目的になる傾向があった。
そして三人兄弟の一番下でもあったし、兄たちと比較され続け、自分に自信が持てなかったせいか依存心が強かった。
交流のなかった数年間、十和子はだいぶ奔放に恋愛をしていたらしい。
最近はある相性占いにハマり、歴代の彼氏のことを占いで確認すると、自分にとってはみな良くない関係性だったからうまくいかなかったのも当然、と話していた。
 
今日の電話の内容も、とある相手にアプローチをかけるかどうか、という話で、この人はその相性占いだとバッチリとのこと。自分に幸いをもたらす人物だそうだ。

もはや十和子は占いでよさげな男性に目星を付けてから恋愛する、というパターンに陥っていた。


玲衣は相性云々に違和感を覚えていた。
あの瀬田さんも誰かの占いの結果、相性が大凶と言われ彼と別れさせられた。
それもあってか、吉凶で他者の人生に介入し、不安を煽るのには憤りを感じていたのだった。

なので十和子の話をモヤつきながら聞いていた。

玲衣自身は、十和子同様、自分に対しての自己肯定感が低かったため、以前は何かを決めたり選択したりしなければならないときは、間違えたらどうしよう、批判を受けたらどうしようという不安から、誰かに正しい答を決めてもらいたかった。

恋愛に関しても、傷つけあうような関係性とわかっていたら最初から深い関係にならない方がいいと、失恋直後は考えていた。だから十和子の気持ちもわからなくはない。

しかし最近では玲衣も成長をしていた。
テラスとスーサと対話をしていくうちに、いろいろな気づきを得たおかげだろう。

つい先日も相性についての話をしたばかり。
人との関係は愛を学ぶレッスンだと聞いてから、玲衣の中に変化が芽生えた。


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