見出し画像

0ゲートからの使者「42」

前回はこちら


クリスタルの守護者


朝、いつものように半分目を閉じながらベッドから起き上がった玲衣は、足を床についたとたん、イテテテと叫んだ。足も腰も打撲のような痛みがあった。

「あれ、どうしたんだろ、嫌ねぇ、まだアラサーなのにおばあさんみたい。寝違えたのかなあ」

寝ぼけ眼で腰に手を当てながらよろけつつ洗面所に行き鏡を見ると、頭髪の中にキラリと光る白いものをいく筋か発見。

「ひぇえ、ショック! 見なかったことにしよ」
そうつぶやき、顔を洗う。

「はぁーあ、また今週も始まっちゃったか」
あくびをしながらのんびりとコーヒーをすする。

「やば! もうこんな時間。急がなくっちゃ」
慌てて着替えてメイクもそこそこに家を飛び出す。
玲衣の一日が始まった。

 
「おっはようございまーす!」
会社の更衣室でチカが元気に挨拶してきた。

「おはようチカちゃん、その後どう?」

「例の養成所、楽しいですよ、仲間もできました」

「おお、それはよかったね」

「先輩、養成所の子が先輩に数秘をみてもらいたいって言ってるんですけど。今度みてあげてもらえますか?」

「いいけど、でもプロじゃないって言っているでしょ」

チカが玲衣にグッと顔を近づけてきた。
「あれ?先輩、今日カラコン入れてます?」

「いや、いつも通りだけど?」

「えー、そうですか、トパーズのカラコンしてるみたい。なんか目の色が薄くなってる気がしますけど」

「そう? 光の具合じゃない?」

「そっか。じゃ、お先に失礼します!」

「はぁい、ではまた。今日もがんばろね」
 

デスクに着くと、瀬田さんと目が合った。
にっ、と素早く笑顔を送ってきた。
もうじき瀬田さんは退職する。玲衣は瀬田さんのための送別会の幹事を仰せつかっていた。
 
瀬田さんと前に飲んだあの居酒屋にしようかな。
ホワイトタイガーのポスターが貼ってあったお店、なんて名前だったっけ?
あれ?
ホワイトタイガー?
……なんだか大事なことを忘れているような気がするけれど。
ま、いいか。
 
「さて、仕事仕事」と、玲衣はパソコンを立ち上げた。
 
 
 

「ついに玲衣が目覚めたわね」
ヤンがテラスの膝の上で喋った。

「ええ。ついに。目覚めてすぐに眠らせてしまって申し訳ないけれど」
テラスはヤンを撫でながら答えた。

彼らはテレパシーで会話をしている。
足元にはインが寄り添っている。その隣にスーサが座り、静かにインの背中を撫でていた。

彼らは小高い丘の上にいて、パラレルワールドに移行した地で人々が活動しているのを眺めていた。
眼下に広がる湖はエメラルドグリーンに輝いていた。

 
「長かったわ。でもこの時間が必要だったのよ。あの子が目覚めるのには」

「れいはほんとうにがんばったよ。」と、インが言うと、

「まっ、どんくさかったけど、たしかに最後までがんばってくれたわね。」と、ヤンが相槌を打った。

「そうね、ちゃんとミッションを果たしてくれたわ。あなたたちも本当によくやってくれたわ、ありがとう。感謝しています。でもスーサが、あのときのレイがあの時代の玲衣だと気がつかなかったらどうなっていたことか。本当によく気がついたわね、スーサ」
 
スーサは無言で遠くを見つめていた。
混乱のさなか、今にも泣きそうにすがりついた玲衣の心細げな顔を思い出していた。

玲衣のあの目。
もうずっと永遠とも思える転生のたびに見ていた目だった。
瞳の奥の光は魂の光であり、何度転生しても、目の色が変わったとしても、その光は変わらない。
でも、ときおり自信なさそうに、その光を曇らせる、それが今生の玲衣だった。この半年のうちにいつの間にか愛しく感じていたあの瞳を間違えることはなかった。
 
 

テラスとスーサの星は地球の遥か未来の星である。
しかし、今の地球とは似ても似つかないものだ。何度か危機的状況に陥り、次元上昇をし、今ではパラレルワールドの銀河に存在している。

テラスとスーサ、そして未来生の玲衣はレイとして、三位一体となり神官と研究者として行動を共にしていた。
姉弟はその星の総統の子供として生を受けて、代々星を守る使命を担っていた。
しかし、どうしても二人の力だけでは星の運命を守りきれないほどにその銀河の太陽は終焉を迎えつつあった。
太陽のエネルギーを司る姉と、月のエネルギーを司る弟以外に、中庸な力を持つ者の存在が必要なことが判明した。

彼らの星では古くから言い伝えがあった。
 
上にあるものは下に降り
下にあるものは上に昇る
内なるものは外へ
外なるものは内へ
繰り返される二元の輪
万物は変化を辿る
しかしながら内深く
ゼロの位置にあり続けるものあり
すべてを無にし全にする
その透明な力が
星の救世者となるであろう
 
内深くゼロの位置にあり続ける、透明な力とはクリスタルのことだった。
宇宙のすべてを映し出す鏡のような力を持ち、そこに結集されたエネルギーが地表に放出され宇宙のバランスがもたらされるのだった。


星の長老によってクリスタルの魂の持ち主達が探し出され、もの心ついたときからクリスタルの守護者となるべく教育がなされた。
レイはそのうちの一人であった。

こうしてレイはテラスとスーサの仲間として迎え入れられた。
二つの玉座の両脇にクリスタルのオベリスクが建立された。
これはいざというときにパラレルワールドへの次元上昇が可能な装置であった。
 
それが起こることはあらかじめ予期されていた。
そのときにクリスタルへ入力するコードは、その守護者にとって最も重要な意味を持つ数字でなければならなかった。

しかし、未来のレイと202X年の玲衣が入れ替わってしまうのは想定外であった。おそらく玲衣が0ゲートをくぐったことでなんらかのバグが生じたらしい。

スーサは魂の転生ガイドも兼任し、未来生のレイと入れ替わった魂を探し続けた。そして198X 年に誕生した玲衣の魂に辿り着いた。

未来生のレイがそれを成し遂げなかった以上、テラスたちは202X年の玲衣にコンタクトし、数字にまつわる学びを教え、彼女自身が人生のテーマを象徴する数字に出会うのを導くという役目を担っていたのだ。
 
ゲートが開いている秋分の日から春分の日までの時間がタイムリミットだった。

彼らは他にも数の秘めたる力を通じて意識を高め本質を生きる人物を多く輩出するのに、遠い昔から尽力していた。

地球の未来ができるだけ自分たちの星のようにならないために……
そうではないパラレルワールドを創造するために……
 
 

続きはこちら

初回はこちらから


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?