道_イラスト2

矛盾を抱え、生きていくことー後半ー

 そんな折、この矛盾をカウンセラーの先生に相談した。その方は非常に優しく、寛容な方で、雰囲気からして柔らかい方だった。その方は一連の話を聞き、こう言った。「そのまま悩んでて良いんだよ。」と。その言葉に拍子抜けすると同時に、救われた。そこでその言葉を反芻して、電車の中で悩んでいるとき、一つの答えが頭の中に降ってきた。
 「真理とはいつも矛盾しているのではないか、矛盾を抱えることは非常に苦しいことではあるけれども、その矛盾を解決するわけでも、融合させるわけでもなく、そのまま存在させても良いのではないか、白でも黒でもなく、かといってグレーでもない、白と黒が同時に存在している状態でも良いのではないのかと。」

 しかし、その考えにまだ僕自身、本当にそれで良いのかという不安があった。しかし、同じ言葉を与えてくださった方はその人だけではなかった。僕が個人的に好きな、著書をいくつも出しておられる有名な精神科医の方が、大学で講演会を行うとのことで、それに参加し、このことを端的に打ち明けた。そうするとその方も、「そらそんな正反対のこと言われたら、悩むわな。気にしなくて良いよ。そのままでいい。きっと君が歳を経た時、君は圧倒的に人間として深みが出てきて、優しくなれると思うよ。」と、明るく答えてくださった。
 そこで、徐々にこの考えを自分自身で肯定できつつあったある日、いつものように書店を訪れ、哲学コーナーへ足を運び、気になった本があったので、手に取った。それは古代から現代までの、世界中の哲学者の思想を初心者でもわかりやすく噛み砕き、かつイラストも付けた書籍だった。ページをめくっていると、日本哲学のところに入り、ふと気になった哲学者がいた。その方は日本哲学の先駆者でもある西田幾多郎であった。そこで、僕は驚くと同時に、感銘を受けた。彼の哲学は正に、「矛盾を抱えて生きる」というものだった。

 これから先、僕は様々な場面で選択を迫られるだろう。どちらを選択しても、後悔し、反省し、別の可能性を考えてしまうのだと思う。常に、相反する選択肢の間で板挟みになり、揺れ動き、決断はしても、心の奥底では決してその矛盾は解決されないのだろう。しかし、今ではそれでも良いと考えている。心の中では、追従者でもなく、開拓者でもなく、永遠に迷い続け、道を探し続ける求道者、矛盾を抱えて生きる者、それが現時点での僕のアイデンティティーである。そしてこの考えは、選択はしたものの、自分のこれまでの人生に不安を抱え、それでもその不安をごまかしたりせず、他人の人生を否定しない者にとって、少しの安らぎになるのではないかと考えている。非常に長くなったが、もし最後まで読んで頂いたのなら、幸甚の至りである。

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