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【英国法】ステルスマーケティング規制 ー違反したインフルエンサーはWEBサイトで公表ー

こんにちは。
お読みいただきありがとうございます。

今回のテーマは、イギリスのステルスマーケティング規制です。

日本で英会話教室に通っていたとき、イギリス人の先生が、イギリスでは「甘すぎるお菓子は子供にとって害なので、22時以前はテレビで広告を流せない」と言っていました。この話の裏は取れていないのですが、確かに、子供に対するメディアの配慮は手厚い気がしています。

また、比較広告に対する厳格な態度や、グリーンウォッシングの問題など、それが先進的かはさておき、イギリスの広告規制は日本よりも厳しいように感じます。

ステマについては、日本でも明示的に規制されるようになりましたね。

しかし、イギリスのステルスマーケティング規制はもっと過激です。ちょっと興味深かったので、今回ご紹介しようかと思います。

なお、法律事務所のニューズレターとは異なり、分かりやすさを重視して、正確性を犠牲にしているところがありますので、ご了承ください。


イギリスの広告規制法の基礎知識

主要法令:Consumer Protection from Unfair Trading Regulations 2008 (CPUT)

日本語に訳すと「2018年不公正取引からの消費者保護規則」でしょうか。
このCPUTが、イギリスの広告規制における主要な法令です。

このほか、比較広告などを規制するBusiness Protection from Misreading Marketing Regulations 2008や、特定のサービス・商品の広告について規制する各種業法があります。知的財産法やデータ保護法、あとはコモン・ロー上のパッシングオフも、広告規制の一部を担っている法です。

自主規制規則:BCAP Code, CAP Code

BCAP Codeは、UK Code of Broadcast Advertisingの略称であり、テレビ広告に関する自主規制規則です。冒頭の甘すぎるお菓子の広告規制は、これをちゃんと読めば書いてあるのかもしれません。

次に、CAP Codeは、UK Code of Non-broadcast Advertising, Sals Promotion and Direct Marketingの略称であり、テレビ広告以外の広告に関する自主規制規則です。

当局:Competition & Marketing Authority (CMA)、Advertising Standrard Authority (ASA)、Committee of Advertising Practice (CAP)

ずらずら列挙しましたが、まず、CMAは、競争政策と消費者保護を担当する業績機関であり、CPUTを所管しています。

次に、こちらがASACAPの説明です。

ざっくり言うと、ASAが上記の自主規制規則の執行機関、CAPは、上記の自主規制規則を作成する組織だそうです。

ASAとCAPは姉妹組織だそうですが、CAPが作成する自主規制規則は、果たして「自主規制」規則なんでしょうか。ASAは、「the advertising regulator」を自称しています。日本でイメージする業界団体が作るルールとはちょっと違いますよね。

まとめると、次の対応関係になっています。

  • CMA:CPUTを所管

  • ASA:自主規制規則(BCAP Code, CAP Code)を担当

ステマ規制の概要

全ての広告は、それが広告であると明らかに認識できなければならない。

これは、イギリスの広告規制における常識です。
つまりステマは、違法です。

CPUT・自主規制規則の定め

ステマが違法となる根拠はどこにあるのでしょうか。

CPUTは、「文脈から明らかな場合を除き、商業的意図を特定しないことは、誤解を招く不作為となる」と定めています(*1)。この誤解を招く不作為(misreading ommissions)は、CPUTが禁止する行為類型の一つです。

また、CAPは、「マーケティングコミュニケーションは、そうであると明らかに認識できなければならない」と定めています(*2)。

これらの規定のほかにも、ステマを違法と解釈できる条項がちりばめられており、ずっと前から、イギリスはステマを禁止していました。

インフルエンサーとステルスマーケティング

インフルエンサーといえば、「SNS上で強い影響力を持つ人」というのが最大公約数的なイメージではないでしょうか。

なので、言わずもがな、インフルエンサーとインターネット広告の相性は最高です。Oxford Dictionaryでは、インフルエンサーをこう定義しています。

A person who has become well-known through use of the internet and social media, and uses celebrity to endorse, promote, or generate interest in specific products, brands, etc., often for payment.

influencer, n. meanings, etymology and more | Oxford English Dictionary (oed.com)

インフルエンザ―=マーケティングをやる人ってことですよね。それほど、相性がいいということなのだと思います。

インフルエンサーが守らないといけないことは?

CMAとASA(CAP)が言っていることは、かなり似ており、ポイントをまとめると、次のとおりです。

・ 広告主から報酬などの利益供与を受けた場合には、投稿において、広告主との商業的関係を開示すること
・ #ad、#advert、#advertisementといったラベルを使用し、消費者になじみのない略語や単語は使わないこと
・ 広告であることの開示は、消費者が最初に目にするものであること

なお、CAPは、CMAと共同でインフルエンサー向けのガイダンスを発表しており、最新版は、2023年3月のものです。

ポップですね。全18ページのスリムなガイダンスです。
でも、世のインフルエンサーの皆さまは、わざわざ見ていないでしょうね。

ASAに晒されるインフルエンサーたち

イギリスではインフルエンサー自身が違反者になる

日本のステマを規制する根拠法令は景表法であり、同法は、広告主を規制しているものの、インフルエンサーは規制の対象になりません。

しかし、CPUTや自主規制規則は、対象を限定しておらず、インフルエンサーも違反者となり得ます

現在公表されているインフルエンサーは5名

ASAは、ステマを止めないインフルエンサーに対して、非常に厳しい態度をとっています。

その極めつけが、自主規制規則に違反したインフルエンサーの晒上げです。強烈ですよね。個人の晒上げなんて、日本だとコロナの給付金詐欺でしか聞きません(笑)

第1号は、Scott Timlinという人で、2021年12月14日に公表されました。

ついこの前、2023年10月20日には、Alexandra 'Binky' Felsteadさんが公表されました。この方が第5号になります。ロンドンに住む30代の女性で、インスタグラムのフォロワーが146万人と表示されていました。

ちょっとぼくの感覚だと、公表は行き過ぎじゃないかと感じなくもないですが、インフルエンサーではないぼくがとやかく言うことではありません。

既に述べたとおり、日本では、欧米に追随する形でステマの禁止に舵を切りましたが、近い将来、消費者庁が、日本で活動するインフルエンサーを晒上げる日が来るのかもしれません。

ここまで読んで頂きありがとうございました。
このエントリーがどなたかの参考になれば、うれしいです。


【注釈】
*1 CPUT, 6(1)(d)
*2 CAP Code, rule 2.1


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このnoteは、ぼくの個人的な意見を述べるものであり、ぼくの所属先の意見を代表するものではありません。また、法律上その他のアドバイスを目的としたものでもありません。noteの作成・管理には配慮をしていますが、その内容に関する正確性および完全性については、保証いたしかねます。あらかじめご了承ください。


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