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【英国法】"ejusdem generis"ルール ー「…その他の○○」の解釈ー

こんにちは。
お読みいただきありがとうございます。

本日は、ejusdem generisルールについて、書きたいと思います。

「へ?」と思われたはずなので、もう一度言います。
ejusdem generis(イジュスデム・ジェネリス)です。

読みにくいし、発音しづらいですよね。これはラテン語で、英語にすれば"of the same kind"ルールと訳せるそうです。

このルールの説明で記事が一本書けるか不安なのですが、初めて勉強したときに、これは英文契約書のドラフティングの参考になるかもと思ったので、今回紹介させて頂きます。

なお、法律事務所のニューズレターとは異なり、分かりやすさを重視して、正確性を犠牲にしているところがありますので、ご了承ください。


ejusdem generisルールとは?

ぼくが参照しているこちらのテキストでは、次のように説明されています。

ejusdem generisルール
特定の意味を持つ言葉に続いて一般的な意味を持つ言葉が置かれる場合、この一般的な意味を持つ言葉は、特定の意味を持つ言葉と結びついているかのように狭く読まれる

Alisdair Gillespie and Siobhan Weare, "The English Legal System (9th Edn)" (2023, OUP), p. 52

既にルールの内容が分かっているぼくにとっては、全くそのとおりなのですが、初見だとちょっと分かりづらいかもしれません。著書では続けて、「言い換えれば、後に続く一般的な言葉は、先行する言葉のリストの続きであるとみなされる」と補足していますが、やっぱり分かりにくいです(笑)

医師、薬剤師、看護師、放射線技師、その他の専門家

具体例を出して考えると良いかなと思います。見出しのような文言で考えてみます。もし契約書の文言っぽく書くならこんな感じでしょうか。

甲は、乙に対して、医師、薬剤師、看護師、放射線技師、その他の専門家から助言を得るために要した合理的な費用を請求できる

「その他の専門家」が一般的な言葉であるところ、「医師」「薬剤師」「看護師」「放射線技師」は医療に関係する職業という特定の意味を持つ言葉のリストと言えます。

そのため、ejusdem generisルールによって、「その他の専門家」は、医療に関係する専門家と解釈される可能性が高いです。

そうなると、もし甲が乙に対する損害賠償請求を検討するために弁護士にお金を払って相談しても、上記の条項がヒットせずに、合理的な費用を請求できないかもしれません(*1)。

元々は裁判官による制定法の条文解釈のルール

ここまで何度も「解釈される」と書いてきましたが、誰が何を解釈するという話なのでしょうか。

このejusdem generisルール、元々は、裁判官が、議会が制定した法律の条文を裁判において解釈するときに適用されるルールです。

Powell v Kempton Park Racecourse事件(*2)では、競馬場の屋外が、1853年賭博法の条文にある「other place」に該当するかが争点となり、裁判官は、その前に連なる言葉のリストから、「other place」は屋内に限定されるとの判断をしました。

このように、ejusdem generisルールは、裁判において条文の解釈が問題となったときに、裁判官がどのように解釈を行なって判断を下すのかという指針となるものです。

制定法の条文以外にも適用されている

もっとも、ejusdem generisルールは、制定法の条文の解釈に適用されるにとどまらず、私人が作成した法律に関する文書の解釈にも利用されています。

例えば、Burrows Investments v Ward Homes事件(*3)では、土地の売買契約書における「transfer of land」の解釈が争点の一つとなり、裁判所はejusdem generisルールに言及しています。

また、遺言の解釈について、ejusdem generisルールを適用したと思われる事件もあります(*4)。これは19世紀半ばの事件なので、大昔からこのルールは制定法以外にも適用されていたことが見て取れます。

英文契約書のドラフティング

上記のように、契約条項に「and other ptoducts」「and other places」といった文言がある場合、もしその契約に関して紛争が生じて、英国の裁判所に持ち込まれた場合、ejusdem generisルールが問題となる可能性があります。

いざ裁判となって、裁判官が、起草者の想定していなかった解釈を取ってしまうと、目も当てられません。どのように期待を管理すればよいのでしょうか。

"whatsoever"や"wheresoever"の使用

まずは、通常の意味を持つ言葉の解釈を限定したくないときです。何でもかんでも相手方の責任範囲に入れたいときなどですかね。

その手法としてよく言われているのが、通常の意味を持つ言葉のあとに、"whatsoever"や"wheresoever"を続けることです。

The Seller shall maintain apples, oranges, lemons and other foods whatsoever at an appropriate temperture during the Terms.

こうすると、最後の「other foods」は、果物類に限定されないことになります。、、と書いたのですが、字面を見てみると、他の条項も含めた解釈によっては、そうならない場合もあり得るかもと思ってしまいます。

ejusdem generisルールは、絶対唯一の排他的なのものではなく、契約書は、このルールだけではなく、他の条項の記載ぶりや、時には外部的な事情も考慮して解釈がなされるとぼくは理解しています。そのため、麻婆豆腐が上記の「other foods」にいかなる場合にも含まれるかというと、そうじゃないのでは、、という風に個人的には思っています。

前に置く言葉を工夫する

次に、前に置く言葉を戦略的に連ねることで後に続く一般的な言葉の解釈を狭めたり、広げたりできるかもしれません。

例えば、「サンダル、ブーツ、その他の物品」というドラフトの文言に対して、文言の追加を使用するときを考えてみます。

もし、「サンダル、ストッキング、股引、ブーツ、その他の物品」という文言を押し込めれば、その他の物品は、脚まわりに身につける物に広げることができるかもしれませんし、逆に、「サンダル、ハイヒール、パンプス、ブーツ、その他の物品」という文言を入れておけば、その他の物品は、あたかも女性用の履物のみを指すようにも使えます。

他の法域におけるejusdem generis

ぼくがこの記事の中で話しているejusdem generisルールは、英国の裁判官の解釈の話であり、他のコモンローの国の裁判官がどのように解釈するのかは、よく分かっていません。

もっとも、この記事を書くにあたり、手持ちの本とPractical Lawだけでは心許なかったので、色々調べてみたところ、他のコモンローの国にも似たようなルールがあるようです。

例えば、コーネル大学ロースクールのWEBサイトでは、米国法では、制定法や憲法の解釈手法としてejusdem generisルールがあり、NY州法の下では、契約解釈の指針ともなると書かれています。

おわりに

いかがだったでしょうか。
本日は、ejusdem generisルールについて書いてみました。

以下のとおり、まとめます。

・ ejusdem generis(イジュスデム・ジェネリス)とは、特定の意味を持つ言葉に続いて一般的な意味を持つ言葉が置かれる場合、この一般的な意味を持つ言葉は、特定の意味を持つ言葉と結びついているかのように狭く読まれるというルールである
・ 例えば、「医師、薬剤師、看護師、放射線技師、その他の専門家」の「その他の専門家」は、医療に関係する専門家と限定的に解釈される可能性がある
・ 制定法の条文の解釈のみならず、私人間の契約書の条文の解釈にも適用される

ここまで読んで頂きありがとうございました。
この記事がどなたかのお役に立てば、嬉しいです。


【注釈】
*1 訴訟における弁護士費用の請求の可否の議論は、ここでは脇に置いておきます。あくまで、文言解釈としては請求できるという結論になる、という意味だとご理解ください。
*2 Powell v Kempton Park Racecourse Co Ltd [1899] AC 143
*3 Burrows Investments Ltd v Ward Homes Ltd [2018] 1 P. & C.R. 13
*4 In the Matter of The Trusts Under the Will of Samuel Wright, Deceased (1852) 15 Beavan 367 51 ER 580


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このnoteは、ぼくの個人的な意見を述べるものであり、ぼくの所属先の意見を代表するものではありません。また、法律上その他のアドバイスを目的としたものでもありません。noteの作成・管理には配慮をしていますが、その内容に関する正確性および完全性については、保証いたしかねます。あらかじめご了承ください。


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