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【英国法】不動産登録簿の読み方 ー日本の登記簿との比較ー

こんにちは。
お読みいただきありがとうございます。

本日は、イギリスの土地法、その中でも不動産登録簿についてのお話です。

英国法と日本法は、それぞれコモンローとシビルローという異なる法をベースに法制度が構築されています。一部の領域(不法行為法、契約法や会社法)については相当程度似ている一方で、土地に関する利害関係者の権利の構成については、日本とかなり勝手が異なるというのがぼくの実感です。

英国で不動産を購入したり長期にわたり借りるときなどで、不動産登録簿を見る機会があるかもしれません。

そこで、今回は不動産登録簿の読み方について書きたいと思います。

なお、法律事務所のニューズレターとは異なり、分かりやすさを重視して、正確性を犠牲にしているところがありますので、ご了承ください。


HM Land Registryが読み方を紹介している!

実は、HM Land Registry(*1)(日本でいう法務局)が、次のWEBサイト(本サイト)で、不動産登録簿の読み方を紹介しています。

先を越されてしましました(笑)
そのまま和訳して紹介するだけでは能が無いですよね。

そこで、本サイトの内容を紹介しつつも、日本の不動産法を知っている方だと却って分かりにくいだろうなと思う点を、補足する形で進めていきたいと思います。

イギリスの不動産登録簿の写し(例)

こちらが、不動産登録簿の写しのサンプルです。
このサンプルは白黒ですが、写しの原本では、右上の六角形のマークが黄緑色になっています。

こちらからダウンロードできます。

冒頭部分

登録簿の写しの発行日

冒頭の1文目に、「This official copy shows the entries in the register of title on 10 December 2019 at 09:20:59」とあります。これは登録簿の写しの発行日を意味し、この日以降の不動産の権利関係等の変動は記録されません。

登記簿の情報を見て制限がかかっていないと安心して土地を買ったら、実は購入の前日に抵当権に入れられていたとかになると困りますよね。

そのため、不動産取引の際には、priority search(priority notice)と呼ばれる登録簿の変更をブロックする手続をとります。そして、その起算点は写しの発行日に設定するので、この日付は重要です。

Aパート:Property Register

このパートは、不動産の簡単な説明と、不動産に付着する権利(Easementなど)の記載があります。
強いて言うなら、日本の登記簿の表題部に近いです。

上記のサンプルでは、Aパートの記載から、次の事実が分かりますね。
なお、(26.02.2010)は、その項目がHM Land Registryに初めに登録された日を意味します。

1 Trant Way, Mousehole, Stilton ST14 3JPに所在する、別紙図の赤で囲まれた、freeholdの不動産

FreeholdとLeasehold

適切な和訳が難しいのですが、Freeholdは日本でいう所有権、Leaseholdは賃借権と理解して頂ければOKです。

なお、英国では、一定の要件を満たしたLeaseholdについて、登録を行わなければいけません。代表的なのは、賃借期間が7年を超える場合です。本サイトで、「(Aパートには)FreeholdかLeaseholdかの記載がある」と説明されているのは、そういうことです。

Easement(地役権)

上記のサンプルには記載がありませんが、もし不動産に地役権が設定されている場合には、Aパートに記載されることになります。

代表的なのは、通行権ですね。ある不動産が広い車道に面していない場合に、隣地の決まった場所を車で突っ切ることができる権利が設定されていることがあります。

Bパート:Propriatorship Register

このパートは、権利のクラス、権利者の情報、(該当する場合には)譲渡時期や購入価格が記載されます。
一部、日本の登記簿の権利部(甲区)の記載に重なりますね。

日本の登記簿では抵当権登記を見て権利者がいくらお金を借りたのか推測できる程度ですが、購入価格が記載されているのは、ぼくたちの感覚からすると不思議ですね。

また、制限事項と呼ばれる事項があるときは、その記載もなされます。

上記のサンプルのBパートの記載からは、次のことが分かります。

1 Trant Way, Mousehole, Stilton ST14 3JPのVicoter Venn氏がTitle absoluteの権利者である。

権利のクラス

権利者が不動産に対して所有権(賃借権)を有していることの信頼度に応じて、HM Land Registerが次のクラスのいずれかを付与します。

  • Absolute Freehold/Leasehold

  • Possessory Freehold/Leasehold

  • Good Leasehold

  • Qualified Freehold/Leasehold

もっとも信頼性の高いクラスがTitle absoluteであり、不動産取引に際して参照する登録簿のほぼ全てが、これになっているはずです。

Restriction(制限)

パートBに制限事項の記載がある場合、そこで指定された条件が満たされない限り、譲渡、賃借、抵当権の設定などの登録がブロックされます。

最も一般的なのは、本サイトでも例に挙げられているように、不動産に信託が噛んでいる場合ですね。つまり、法律上の土地の所有者(賃借人)が、土地の利益を誰かに信託していて、受益者が実質的な権利者となっているようなケースです。

Cパート:Charges Register

このパートは、不動産に課された負担に関する事項が記載されます。
代表的なものは抵当権です。あとは、不動産が賃貸されている場合や、他の不動産の地役権の対象になっている場合にも、その旨が記載されます。

日本の登記簿の権利部(乙区)の記載と重なる部分がありますね。

上記のサンプルのCパートの記載からは、次のことが分かります。

Apple Chambers, The Broadway, Mousehole, Stilton ST1E 7POのCornish Yarg Bankは、2009年11月19日付の担保権を有している。

おそらく抵当権だと思いますが、売主に関連する契約書類の提出を求めるべきでしょうね。

おわりに

一点、ご注意いただきたいのですが、上記のサンプルはHM Land Registryがアップしているものですが、一部の記載がちょっと不自然に感じます。

Edition Dateは、通常、登録簿の内容が更新された最新の日となるはずです。しかし、上記のサンプルは、26.07.2019となっているところ、かかる日付に内容が変更された跡が見当たりません。

あくまでサンプルということで、全体のつじつまが無視されている可能性があります。(もしくは、ぼくの見落としがあります。)

HM Land Registryも本サイトで口酸っぱく言っているように、法的アドバイスが必要な場合は、必ずしかるべき専門家に相談されてください!

ここまで読んで頂きありがとうございました。
このエントリーがどなたかの参考になれば幸いです。


【注釈】
*1 His Majestry’s Land Registry。”His”はチャールズ3世のことです。エリザベス2世の時代はHer Majestry’s Land Registryでした。このように君主の交代により行政組織の名前が変わった例が多数あるのですが、この組織に関しては、ロゴを"HM" Land Registryと表記していたおかげで、変更せずに済んでいます。


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このnoteは、ぼくの個人的な意見を述べるものであり、ぼくの所属先の意見を代表するものではありません。また、法律上その他のアドバイスを目的としたものでもありません。noteの作成・管理には配慮をしていますが、その内容に関する正確性および完全性については、保証いたしかねます。あらかじめご了承ください。


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