本を運ぶ費用について

中岡さんの数字

上記、三輪舎の中岡さんのTweetを受けて、本屋B&Bやバリューブックスの内沼さんが以下のnoteを書かれています。

このふたつの話を受けて、ちょっと思ったことを書いておこうと思います。異論や反論ではありません。本を運ぶ費用についての話です。

書店が読者に本を運ぶ費用

話を簡単にするために、中岡さんのTweetに出てくる「本を運ぶ費用」を、送料・EC販売手数料・発送資材をまとめた数字とします。

1080+436+50=1566円

これは「BASEでオンライン販売を始めた書店が読者に本体価格1万円分の本を運ぶ費用」ですが、これを、とりあえず「書店が読者に本を運ぶ費用」とします。

出版社が取次経由で書店に本を運ぶ費用

中岡さんのTweetでは、取次から書店への卸正味は77%、8470円となっています。これに、話を簡単にするために、出版社が65%の掛率で取次に搬入したとします。この場合、取次の取り分は以下の通りです。

77%-65%=8470円-7150円=1320円

取次の取り分としましたが、これは「出版社から書店に本を運ぶ費用」と言い換えることも可能です。

つまり、書店がBASEで本体価格1万円分の本を売る時、「出版社から書店に本を運ぶ費用」と「書店から読者に本を運ぶ費用」は以下の通りになります。

1320円:出版社から書店に本を運ぶ費用
1566円:書店から読者に本を運ぶ費用

出版社が取次を経由せずに書店に本を運ぶ費用

ここでは、「取次を経由せず出版社が書店に本を直接届ける仕組みをBASEで構築した」として考えてみます。

取次と同じ77%で書店に卸す場合、1566円を「運ぶ費用」とすると、出版社の出し正味は77%-1566円=8470円-1566円=6904円、これを税別にして正味に直すと62.76%になります。

取次よりも少しだけ良い条件、75%で書店に卸す場合は、75%-1566円=8250円-1566円=6684円(本体6076円)、正味に直すと60.76%です。

直取引では取次経由よりも出版社の出し正味が下がる可能性がある

これらの数字で見えるのは、「直取引では取次経由よりも出版社の出し正味が下がる可能性がある」という事実です。上記では「BASEを使った」と仮定していますが、実際の直取引においても「書店に本を運ぶ費用」は、取次経由より出版社負担が重くなるケースは少なくありません(というか、ほとんどだったはず)。それでもあえて直取引を選ぶ出版社が少なくないのは「本を運ぶ費用」だけではない様々な意義を見出しているからのことでしょう。

本を運ぶ費用を誰が負担するか

さて、どこを経由しても問題になるのは「本を運ぶ費用」です。内沼さんのnoteでは、読者による負担に触れています。それもひとつの解決策だと思います。直取引(出版社→書店)については先に触れましたが、出版社が負担する価値を見出していればということになります。取次経由の場合は取次が負担しています(厳密には色々ありますが、ここでは話を簡単にしています)。

どこが負担するにしても、「本を運ぶ費用」をなんとか抑制しないと「どこも利益が出せない」という話になりかねません。ここで非常に悩ましいのは、「運送会社に泣いてもらおう」とすると、現状でも立ち行かなくなりつつある出版流通が死んでしまうかもしれないという現実です。この話はかなり深刻な話です。

解決策はどこにあるのか

実は、電子書籍には「本を運ぶ費用」が発生しません。なので、電子書籍に移行してしまえば「本を運ぶ費用」に頭を悩ませる必要はなくなります(本を在庫する費用も)。が、そこはちょっとまた別の問題もあるのでここでは触れません。

とにかく、「本を運ぶ費用」をなんとかすることです。昔からよくある手法は、細かい単位で動かすのではなく、ある程度まとめて動かすという方法です。中岡さんの仮定にある「1万円の本を無料で」というのと一緒で、例えばこれを「3万円分まとまったら本を運びます」にすると、本を運ぶ費用が圧縮できる可能性が生まれます。この手法、昔はよく聞いたのですが、最近は「一冊単位から素早く物を動かす」みたいな流れでやや時代遅れの方法になっています。

上記の方法の変形ですが、「中間倉庫にまとめて出荷し、個別の配送はそこから行う」ことで費用を圧縮することも可能です。

また、「梱包資材や発送手順などを統一・標準化する」ことで費用を圧縮することも考えられます。

「集金などを発送単位ではなく月単位などとする」ことでの費用の圧縮も期待できるかも知れません。

そう考えると、「取次ってそもそも出版社から書店に本を運ぶ費用を圧縮するための仕組みなんじゃないか」と思えてきませんか?

本来は個別の出版社が個別の書店に本を運ぶ費用や手間を圧縮するためでもあったはずの取次ですが、中岡さんの数字を借りて説明した通り、現状、BASEを使って宅配で送るのと比べてそれほど大きく費用を圧縮できているわけではありません。ですが、可能性はそこにあるのではないかと思います。取次が身軽になって諸々の費用を圧縮できると、「直取引よりも書店も出版社もマージンが確保できる」可能性はまだ充分にあります。

昨今の世情の中で、取次は書店への訪問営業を取り止めています。この状況が長く続くことで書店への訪問営業の取り止めが恒常化すると、その先にドラスティックな変化が起こる可能性はあります。また、物流量が減ることで巨大な物流基地が不要になると、そこでも大きな変化が生まれるはずです。

いつか来る未来

「本を運ぶ費用」とざっくり提示しましたが、その中に含まれる「人件費」と「地代」が、この時代以降に変化する可能性は高いです。

というより、現状はそこの部分が大き過ぎるのかも知れません。人件費はともかく、地代や賃料は今でも書店が継続できない、そして、今まさにこの時代において休業しても負担せざるを得ない、そうした費用になっています。

いつか来る未来に、土地に関する費用はどれだけ圧縮されるのでしょうか。

中岡さんのTweetと内沼さんのnoteから、そんなことを考えました。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?