漫才台本「フードコート」


A おれ、フードコートって好きなんですよ。
B ショッピングセンターなんかの食べ物屋さんが集まってるとこね。
A フードコートほど色んなものが見られる場所は、世界中どこを探してもないね。
B 言い切るな。色んなもの見られるって、例えばどんな?
A 一言で言っちゃうと「人間」ってことになっちゃうんだけど。
B なるほど。
A フードコートでは人間のありとあらゆる営みがすべて行われていると言っても過言ではないな。
B フードコートってそんなすごいとこだっけ? そんな印象、全然ないけど。
A お前、小学生のときって何してた?
B 小学生のとき?
A おれは友だちとカードバトルやったな、フードコートで。
B それはおれもやった。あぁ、フードコートでやった。
A 中学生のときは? 友だちと対戦ゲームとかRPGとかやらなかった?
B やったやった。放課後とか集まってな。うわ、みんなでフードコート行った。
A な? ゲームしながら向こうの方でクラスメイトの田中ってやつがいじられてるの見たりしたわ。あぁアイツまたやられてるな、みたいな。でも、いじめたくなる気持ちもちょっと分かったりするのよ。なんかね、「やめ、やめてくりよ」とか言って。
B そこは助けてやれ! 見て見ぬふりダメ。いじめられてる方からしたら、回りで黙認してるやつらも加害者みたいなもんだから。
A ずいぶん乱暴な理屈だな。
B 乱暴っていうか、まぁまぁ、まぁな、それも分からんでもないけど。でも、いじめを見たらやめさせないとダメだから。
A 分かった。お前ら、おれのフードコートでそんな真似はさせんぞ!
B おぉ。別にお前のフードコートじゃないけど。
A なんてな。ちょっとウケた? じゃおれ、ゲームの続きやるから、また明日学校で。
B コラ!
A ほっとけって。もう死んでるわ。
B 殺すな、田中くんを!
A フードコートではよくあるよくある。
B 犯罪の巣窟か、フードコートは!
A 田舎のイオンなんかは結構そういうとこあるな。
B 具体的な名前を出すな!
A 高校生のときはフードコートでよく勉強したな。試験勉強とか。
B 都合よく時間飛ばすな。
A スポーツもやったわ。懐かしい。
B いやいや、そういう場所じゃないですよ。長時間居座って勉強するのも違うけど。
A 昔、ダスター使ってやるダスターサッカーってのが流行ってたのよ、うちらの間で。ひらひらするから蹴りにくいの。ゴールは一番奥のテーブルな、とか言って。じゃ、田中に当てたら十点な。
B 田中くん、ちょっと向こう行ってて! 危ないから!
A おっしゃ、田中に命中!
B やめてあげて!
A フードコートって、大学生になったら平日の昼間からよく行くようになったな、逆に。
B 何が逆にだ! サボりか!
A ここさぁ、昔からよく来てるし、一回くらいなんか頼んでみる?とか言って。
B ちょっと待て! 今まで散々フードコート使ってて何も注文したことないの? 一回も? とんだ迷惑客だな。
A 普通にうまいわ、うどん、みたいな。
B やかましいわ!
A 卒業したあとはバイトもした、フードコートで。就職できなかったから。
B 恨み節か!
A たこ焼きに色んなもん入れたな。
B タコにしとけ! なぜならたこ焼きだから!
A 地元の同級生とか、よく店に来んだよ。
B ちょっと恥ずかしかったりするな、そういうの。
A お前に食わせるたこ焼きはねぇ!
B 人のネタ、やめろ!
A 絶対タコ入れてやらないから。
B だから入れて! たこ焼きだから!
A それくらいの年になってくると、人生もちょっと見えてきたりしてな。
B 高校出て働きはじめる人もいるしね。早いと結婚して子供がいたりして。
A こないだばったり会った中学の同級生なんか、「レベル999行ったわ」とかドヤ顔してきたからね。
B まだレベル上げしてんの? 中学のときからずっと?
A 人ぞれぞれだよな。
B もうちょっと他のことに関心持てよ。
A 最近、うちの田舎の、その昔よく行ってたフードコートに幽霊が出るらしいんですよ。
B 幽霊? 変な場所に出るな。
A なんか、謝る幽霊なんだって。
B 変なとこに出る、変な幽霊だな。
A 隅っこの方にじっと座って、「やめ、やめてくりよ!」
B 田中くん、かわいそう!





いただいたサポートは子供の療育費に充てさせていただきます。あとチェス盤も欲しいので、余裕ができたらそれも買いたいです。