漫才台本「仕事やめます」


A 働くって大変じゃないですか?
B いきなりきたな。まぁ世の中、どんな仕事も大変ですよ。
A でも、やめるのも同じくらい大変だったりするじゃないですか?
B 自分に合わない場合もあるしね。ブラック企業みたいな酷い会社に当たっちゃうこともあるし。
A ちょっと職場にやめる意思を伝える練習、さしてもらっていいですか?
B なるほど。じゃ、ちょっとやってみましょうか。
A 先輩、ちょっと話があるんですけど。
B ちょい待ち。先輩? 先輩に言うの?
A ダメ?
B それはダメだと思うわ。先輩じゃただの相談にしかならないでしょ。「本当は背中を押してほかっただけじゃないのか」みたいに先輩ぶられるのがオチだから。
A それはちょっとムカつくな。
B でしょ。また同じ話することになるだけだから、直接上司に言わないと。
A でも緊張するだろ。先輩ならちょうどいいんだわ。基本、一人でカッコつけるだけだから。たいして仕事できないくせに。
B 先輩のこと、バカにしてるな。
A 適当におだてておけばオッケーみたいなとこ、あるわ。
B ダメな先輩の典型か。
A おれたちの回りにもいるな。ほんのちょっと芸歴が長いだけのくせにエラそうにしやがって。
B いらんこと言うな!
A あれほど迷惑な存在もないよな。
B やめろ! いいから、もっとエラい人に言わないと。
A エラい人な。会長! 折り入ってお話があります。
B 飛びすぎ! 先輩から一気に会長って。十段飛びか。ダメダメ。会長とかそれくらいの人、そんな毎日会社に来てないし。
A そうなの?
B 知らんけど多分そうだわ。相手もお前のこと知らない可能性高いだろ。もっと近く。直属の上司みたいな、まずはそういう人。
A あぁ、バイトリーダー?
B バイトリーダー? これ、バイトの設定? 普通に社員だと思ってた。
A 甘いなー。普通に社員とか言うけど、今の世の中、そんな簡単になれないから、社員。
B いや、それくらい分かってるけど、でも社員みたいな流れじゃなかった? なんか納得いかないわ。
A うちのバイトリーダー、大学生なんですよ。
B あるある。年下な。
A 女の子。
B ハードルあげるな。いい年したおっさんが若い女の子に「やめたいんです」言うの? それはちょっとキツイな。「は? 理由は?」とか言われて。「あの、なんかすんません……」「それじゃ答えになってないから」みたいな、な? 「あの、ちょっと家庭の事情で……」「独りもんの何が家庭の事情とか言っちゃってんの? あんたが抜けたら、うちの店どうなるか分かってるよね?」みたいな、な?
A ……お前、Mっ気あるな。
B ないない。全然ない。
A バイトリーダー、おれ、来週でここやめることにしました。
B お、ストレートに行った。
A いきなりごめん。でも、おれがやめれば、おれたちもうコソコソする必要ないし、堂々と会えるだろ。
B 付き合うな! どういう理由でやめようとしてんだよ。だいたい言えるし! それだったら全然言えるし! うじうじ悩まないでやめますってすぐ言えるし。むしろ嬉しいし。だいたいそれ仕事続けてても絶対楽しいやつだから。仕事中に二人でコソコソとか、みんなホントはやりたいやつだから。
A ……嫉妬?
B やかましいわ! よく考えたらバイトリーダーもダメ。新人に仕事教えたりするかもしれないけど、決定権がないでしょ。管理職みたいな人じゃないと。
A なるほどな。いるわ、管理職。
B その人、その人。
A 二代目。おれ、この仕事やめさせてもらおうと思うんですけど。
B ちょ、二代目? お前、どういうとこで働いてるの?
A 健康食品作ってる会社。家族経営で二代目が現場仕切ってんだよ。親父が社長。二代目って言っても、長男はどうしようもないやつでどっかの寺に入れられてるから、次男なんだけどね。
B いらんいらん、いらん情報。寺に入れられてるって何だよ。
A 海外留学させるほど景気よくないんだな。どっか地方のこじんまりした寺らしいわ。
B 知らねーよ!
A 二代目、今月いっぱいってことでお願いします。
B そんないきなり言われても困るなぁ。今月って残り何日もないし、こっちだってそんなすぐ次の人見つからないんだからさぁ。
A いいね、なんか二代目っぽい。
B まぁな。で、理由は? おれとしても納得できないのに簡単にやめさせられないよ。
A ちょっとブラックっぽさも出てきた。
B 入れてみたわ。なんかねちっこい感じな。
A 二代目、うちが販売してる健康食品って食べたいと思ったことありますか?
B ……ない。ぶっちゃけな。
A うちの商品、マジでまずいし、本当は健康にも全然よくないですよね。東南アジアの変なデカい虫とか粉末にして入れてるし。あれ、効果何も立証されてないですよね?
B それを言っちゃあおしまいよ?
A おれ、もう限界なんです。
B あれか、うちがゲテモノ扱ってるからって、妙な倫理観にかられてやめる言うんか? うちがどれくらい大変か分かっとるやろ? ええやんか、もうちょい一緒やろうや。
A なにそれ、めっちゃええやん。
B ええやろ? 極まってくると出るねん。一緒やろうや。
A いや、おれもう決めたんです。
B おれ抜きで何も決められんやろ。お前、そういうやつやんか。頼むわマジで。
A もう決めたんです。
B ええんか?ホンマにええんか?そしたら、あのバイトリーダーもやめさせたろうかな?
A え?
B こっちは分かってんねん。二人はちちくりおうてんねやろ? ちちくり、ちちくり、あんなこんなして、え? お前がやめたら、おれがちょっかい出してやってもええんやで。断れんやろなあ、二代目の言うことは。いいんか、それでも?
A ……嫉妬?
B やかましいわ! あ、お前、うまいことしめようとすんなよ。
A ……。
B よせよ!
A やめさせてもらうわ。
B うわ! 来た!





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