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79 先手

屋上に出てみると先客がいた。どうやらためらっているようだった。男は今のうちにとフェンスまで急ぎ、それを華麗に飛び越えると、そのままビルの谷間へ落ちていった。落下しながら振り返ると、件の先客が慌てたように身を投げるのが見えた。男は勝ち誇った笑みを浮かべた。ふと下を見ると、迫りくる地面に大きな×印があることに気がついた。スプレーか何かで書かれたものらしい。男は、それが自分のあとに飛び降りた後ろの男の手によるものだと気がついた。振り返ってみると、後ろの男が今度は自分が笑う番とばかりに勝ち誇った笑みを浮かべていた。男は何としても×印のところに落ちるわけにはいかなかった。だが、どれだけ必死に空を掻いても進路を変えることはできなかった。男は×印の上に落ちた。その直後、もう一人も同じ地点に落ちた。

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