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劇団光合聲#5『しゑん者』を拝見して

先日、劇団光合聲さんの劇を3回ほど観劇して参りました。
その感想をつらつらと書いていたら5500文字くらいになったので、公開しておこうかなと思います。アンケートにも書いたものなので、もしかしたら当事者の方には伝わっているかもしれません。ただ、あの形式だと改行できなかったので、こちらで読んでいただけると幸いです。

 まず、舞台を作り上げた皆様方、お疲れ様でした。役者の方々に関してもとても素敵な演技を見せていただきました。とても辛い表現も多く、苦しいこともあったのではないかと思います。けれど、しっかりと演じられた皆様の姿はとても素敵でした。キャラクターもそれぞれ好きなところが出てきていて、そこはとても良かったです。願わくば、また別の形で皆様の演技を拝見したいなと思っています。照明や音響などは詳しいことはわからないのですが、雰囲気が出ていて違和感なく見ることが出来ました。舞台の装飾・衣装なども好きでした。本当にありがとうございました。

 以下、作品そのものへの感想になるため淡々と書き連ねております。私個人の感想であるため、100人の中の1人の意見かもしれませんが、少しでも伝わればいいなと思います。悪しからず。

 今回の作品は、作りが薄い・浅いといった印象がひどく強くなってしまった。重い題材を扱った「後悔」、「普通」を描いた作品だったけれど、それはその題材である必要があったのか?と作者に問いたい気持ちだった。作品の舞台・死・障がいについての違和感が大きすぎるので、まずはそれを書きたい。

 舞台は現代日本。「令和」という単語が出てくるので、間違いないだろう。もしかしたら、近未来を指すのかもしれない。しかし、細かい時代背景は探る術がないのでいつでもいい。それにしても「死刑制度」に関しての扱いが酷すぎる。昨今、死刑を執行すれば話題になり、諸外国ではこうだ、ああだ、と死生観に関して報道される時代なのに、政治の道具として死刑を執行するような描写は時代錯誤も甚だしいように感じた。また、死刑を執行する責任などが所長のGOサインだけ、というような印象も受け入れることが出来なかった。「死」をコントロールするということの難しさは安楽死の話題でも度々あがってくるし、日々自殺者が居ればその度に誰かが論じている。死刑に至っては国民にとって遠すぎる死ではあるけれど、どうしたって目にすることになる。その度に人々の心に何かを残すことがあるのではないだろうか。
 では、連也は何故死刑を執行されたのだろう。「死刑囚解放」なんて世論に負けた政治が、「死刑制度反対」という世論の中、なぜ強行して死刑を執行したのだろう。見せしめ?恐怖政治ということ?現代日本で?そんな風に考えてしまい全く理解ができず、劇的なエンディングを迎えるための死でしかないと感じた。「死」は魅力的な道具かもしれないけれど、意味のない死はただの暴力であり、観客にとっても乱暴な表現でしかないと思う。

 「障がい」に関しても思うところしかなかった。彼が「障がいを持っていたから」不幸であるというような、もう20年くらい前の価値観でしかないものを見せられたことにがっかりした。私にも友人と呼んでいいかはわからないが、身体障がいを抱えている人が身近にいる。彼にどんな生活をしているか、どんな苦労をしているかなんて聞いたことはない。けれど、一緒に居ると行動が制限されることが多いことに気が付かされる。こんなに回り道をして、やっと目的地に辿り着くんだと知らされる。それをかわいそうだと思ったことはないけれど、無意識に気遣いをしてしまっていると思う。それすら私は私を恥じている。恥じることが正解なのかも不正解なのかもわからない。
 他にも、知的障がいを持った子を育てる母を知っている。とても大変そうな日常を暮らしているし、どこか苦しい想いを抱えながらそれを隠しているのもわかっている。そんな人達がこの話を見て、「いい話だった!」と言えるのだろうか。少なくとも私は見せたくないと思った。それくらい、私たちの普通をもってして表現された、「普通の人間のための演劇」だった。「普通」を劇中で問うはずなのに、そこには凝り固まった作者の「普通」しか見えなかった。私はもう30も半ばの年齢だが、若い人たちがこの価値観を壊していくんだなと思っていたが、そううまくはいかないのだなと感じさせられる物語だった。小劇場の演劇であるから、しがらみも何もない。だからこそ、もっと尖ってほしかった。この作品で提示した「普通」への問いかけがとても薄く、何の味気もしない問いになってしまっていることが悲しい。

 連也の両親の描写は、何とも言えない、とても辛いものだった。父の方は少しずつ感情が理解できたが、母の感情はあれだけで留めてしまうのは正直描写が足りないと思う。母は、あれだけ迷う前に、あれだけ迷うからこそもっと苦しく辛く、様々な想いがあるだろう。そうでなければ、ただの酷い母のようにしか見えない。体裁ばかり繕い、そして息子の障がいを認められない、そんな母でしかなかった。そこだけが伝わればいい、というならもっと酷く描写しなければその人間の屑さ加減が見えない。少しばかりいい人間だと見せるのなら、もっと描写しないと伝わらないし、誤解を招く。それくらい繊細なものなのに。自分が当事者になったときどう思うのか。出生前診断を受けるか考える時、一種の覚悟のようなものを提示される親の気持ちはそんなに簡単じゃない。子どもが生まれた時、どんな子が生まれるか不安でいっぱいな気持ちはそんなに簡単な描写じゃ片付かない。仲間である若い人たちが見に来る舞台だから、そんなことは知らないと片付けてしまうのかもしれないけれど、表現や芸術がそれに触れた人に与える影響を考えてほしい。責任を持って描いたのであれば、こんな中途半端な描き方をしないでほしい。一人の経験者として、本当に悲しい気持ちになりながら舞台を見ていた。

 大きく三つの違和感が以上になります。その他、見ていた小さな違和感もあるので書き連ねていきたいと思います。

 アンサンブルの衣装が「看守」になっているため、場面や人物の転換がわかりにくい。名前がわからないが、身体の大きな眼鏡をかけた彼に関しては様々な役になりすぎて、かつ何か重要そうな立ち回りをしているようだが同一人物なのか、そもそも別の人物なのかもわからず理解が追い付かなかった。演出に於いて一人を多用したかった意図があるのかもしれないが、その必要を感じない配役ではないだろうか。それであれば、他の役者をもっと使ってほしかった。

 どの死刑囚も死刑になるほどの罪状を感じられなかった。死刑というのは随分重い刑で、死刑判決については先述しているが、もっと強烈なものだと思う。情状酌量の余地がありそうなものばかりでせいぜい終身刑ではないだろうか。また、内乱罪で死刑というが、そこまで独裁社会になった日本を描くのであればその前提がほしい。もはや、「日本」であるから起きる違和感なので、架空の国、時代などで表現していた方が良かったように思う。

 死刑囚が収容されている刑務所?拘置所?に関しても違和感が大きい。現代において簡単なピッキングで開くドア(それも死刑囚が収容されているのにも関わらず)があるのか?ドアが閉まった状態で隣同士会話が出来る部屋があるか?中世くらいの頃の檻にでも入っているのか?取材や勉強などが足りてないように思う。それこそ、妄想で作られたのであれば架空の世界にする、またはもっと過去の話にするなどが必要ではないだろうか。ここも作者の「普通」を押し付けられているような印象が否めない。

 上松の兄の話は何だったのか?上松に至っては「何にも解決してないけれど、よくわからんが佐知を手助けするぞ!」という風に見える。「兄と同じような道を歩む連也のために」と動いたのかもしれないが、「革命を起こす」と勇んでいた人間がそんなところで落ち着いてしまうのであれば、きっと内乱罪になるほどの活動はできていないのではないか。その程度の恨み・復讐ならば薄っぺらい、何にもない人間になってしまう。また、これは余談だが劇団気晴暮らしさんの『Zugzwang-ツークツワンク-』に兄弟の死に別れた云々があったな…と重なってしまい、インスパイアされたのかな?と余計な考えがめぐらされた。田口さんは兄弟死に別れることが定番なのかな?と思ってしまった。

松永の生きざまも「中間管理職」という感じで、苦しみが2度目の観劇から理解できるようになった。しかし、今一つやり方が理解できなくて永井への電話の態度など、リークされたら死ぬのでは?という態度がひどく不思議だった。これも「現代日本」と認識しているからこそ起こる違和感。

 永井には、ずっと叫んでるばかりだなあと不憫になった。事件のことを考えるとヒステリックになるのは仕方のないことだけれど、それだけの人として出演するには勿体ない人物だと思う。色々な思いがあって、連也のことを忘れようとしたんじゃないだろうか。全然伝わらなかった。

 また、昨今マスゴミと呼ばれ、報道の姿勢に批判を受けることが多い中、被害者の身内に対してマスコミの取る姿も違和感しかなかった。昭和、平成初期?くらいの気持ちにしかならない。これも「現代日本」と思うからこその違和感。

 三井に関しては死刑囚になるほどか?くらいしかなかったので、一番よくできたキャラクターだと思った。とても素敵な脇役だと思う。彼が一番魅力的なキャラクターだったので、ああいう脇役で主役を引き立ててほしい。他の人物達は情報量が多すぎた。というよりも情報量に対して掘り下げも表現も全て足りていないので、もっとあっさりした人物達で居てほしかった。

 佐知…。色々なことを思うし、彼女の苦しみもわかるけれど、どうして「幸せ」を見つけられたのかが今一つ理解が出来なかった。連也の純粋さを見て…など、そういったシーンがあるのもわかるが、それよりももっと苦しい想いをして、そして殺人に至ったのだから、あんなに簡単に幸せを感じられるのか?と違和感を覚える。「普通」から外れてしまった人だけれど、きっと一番「普通」に近かった人物。その細やかな感情が何にも伝わらなかった。役者の演技とかではなく、展開が急過ぎた。

 タイトルの『しゑん者』がわからなかった。支援・私怨?支援なんて誰がしてただろう。私怨があったから死刑囚になった人たち?それは何にも語られてなくない?私怨を持った人たち、というのであれば死刑囚という設定である必要ある?……など、『あゐばさみ』の時にはあれこれ考えられたタイトルに関して、今回は何も回収できなかったなと感じた。

 エンディングは、何か来るものはあった。けれど、これは少年漫画などで最終回に全員共闘して何かに向かう勢いに対するものでしかなかった。これまでの話の理解が追い付かないまま劇的な終わりを迎えても、感動したいと思わなかった。むしろ、見ているときに感動してたまるか!という気持ちにしかならなかった。これで感動するのは、まとまらなかった話を綺麗に終わらせるための勢いだけでしかない。こんな展開に騙されるな、と心の底から思いながら見ていた。この終わりを迎えるまでの伏線も、描写も、すべて足りていないからだ。たくさんの点が穿たれた。けれど、その点と点は線で結ばれずに、ただただそこに散ったままだ。大きな終わりを迎える時に点は点のままでしかなかった。これらがしっかりと繋がっていたら感動できたのではないかなと思う。

 これまで、#3~5と拝見したけれど、どんどん印象が悪くなっている。#3は最後の繋がりが面白かったし、#4だって、複雑な構成だったし、心中した最後までの感情の描き方が雑だとも思うけれどそれを考えることは楽しみでもあった。今回は考える余地もなく、ただ乱暴に投げつけられた表現を見させられた気持ちでいっぱいだ。正直な感想としては、「面白くなかった」になる。こんなに古い価値観を、現代日本に投影して表現されるのであれば古くから親しまれる演目を見た方が面白いのではないかと思う。これから劇団が表現するものがこんなに古ぼけていて、面白くないのであれば正直観続けられないかなと今は考えている。こんなおじさんに、「古い」と言われてしまうことを悔しいと感じてほしい。もっともっと吸収できる若い人たちなのだから、私なんかよりも新しい視点で、頭の奥底をがんと殴ってきてほしい。「お前みたいな人間にはわからないだろうけど、これが俺たちの表現だ」くらいの主張を投げかけてほしい。今回は、色あせた古い話を再演されたような気持ちでしかない。正直、役者の方々がそのレールに乗って演技をさせられていることが、かわいそうだとすら思っている。役者の方々も同じ思いで作品を作っているのであれば、もう私には合わない劇団なんだろう。しかし、そうではない違和感を覚えながら演じている人が一人でもいるのであれば、「役者がこの作品、この人物になってこの表現をすることで観客からどう思われるのか」を考えて作品を作り上げてほしい。役者がどうしたって作品の顔になってしまうのだから、印象がついてしまうことが勿体ない。今回の作品では、こんなに乱暴な表現の作品に関わったことが彼らの傷にならなければいいなと勝手に思ってしまう。また、客寄せとして「その人目当てにファンが見に来る役者」を配役するのであれば、もっと色々なことを考えてほしい。それか、そういった人たちに頼らなくていい集客を目指すべきだと思う。Twitterにて、観劇の感想で「苛々した」、「こんな表現をするなら先に注意喚起を伝えてほしい」というような感想も拝見しました(私の勘違いかもしれませんが)。私含めこういった感想は少数派かもしれませんが、そういったマイナスイメージを役者に置いていかないように配慮してほしい。

 最後に、これからは身近な人々のお世辞かもわからない「面白かった」よりも、まだ見ぬ人々へも伝わるものを表現して、劇団光合聲のことを知らなかった方々にも愛される演目を上演してほしい。人々に愛されることを目標としていないのであれば、もっとはっきりとした殴りつけるような表現を期待しています。今回の作品はエンタメでもないし、かといって社会風刺などが効いているわけでもなく、何でもないものを見せられているだけだと感じました。正直、一番面白く見ていたのはテレビのチャンネル送りの部分でした(すぐ終わっちゃって残念でした)。もっと人間を見て、もっと人間を愛して活動していただきたいです。正直、作品からは少しの愛(作品・役者等に対して)も見ることができませんでした。舞台って観るの面白いなあと唸らせられる、心で感じられるような作品を見せていただける日を待っています。

以上

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