「高校魅力化プロジェクト」と新学習指導要領が目指す「社会に開かれた教育課程」の連関 -その4 「コミュニティ・スクール」の課題と展望

『「高校魅力化プロジェクト」と新学習指導要領が目指す「社会に開かれた教育課程」の連関』と題して、4回目の連載です。

前回note:「高校魅力化プロジェクト」と新学習指導要領が目指す「社会に開かれた教育課程」の連関 -その3 「コミュニティ・スクール」という手段

◆コミュニティ・スクールについて
①コミュニティ・スクールとは
②コミュニティ・スクールの成り立ち
③コミュニティ・スクールの課題と展望

今回は、③コミュニティ・スクールの課題と展望ということで、実際のところCSの制度はどうなのかに言及します。尚、参考にしたのは、「学校と地域の新たな協働体制の構築のための実証研究の実施報告書」[注1]です。

第1部では、事業の趣旨や実証研究の内容及び方針が記述されています。一言で言うと、なぜ取り組むのか、どのように効果検証するのか、それらをまとめたものです。尚、令和元年5月1日現在、学校運営協議会[注2]の設置率は21.3%、地域学校協働本部の整備率は50.5%となっています。(報告書 1p)

令和2年度のポートフォリオモデル全体構造図(報告書p.25)に沿って、簡単に説明すると、コミュニティ・スクールのビジョンである「地域とともにある学校」の実現の構成要素として、以下のようになっています。

A、協議会の設置
自律性・対等性・持続性・熟議度・実効性・共有性
B・C、関係者の意識・活動
教職員の意識・活動、地域(協働活動参加者)の意識・行動、保護者の意識・活動D、波及効果(子ども)
子どもが享受する機会の変化、学校・教職員・地域との関係性・資質・能力の向上・地域への愛着・貢献意識の向上
D、波及効果(大人)
教職員への波及効果、地域(協働活動参加者)への波及効果、保護者への波及効果

これらに大きく分類して、それらに紐づけて効果の検証を詳述しています。そして、実証研究(効果検証調査)のまとめ(p.64)において、高校のコミュニティ・スクールについては、以下のような記述が見られます。

(3)高校魅力化プロジェクト版ポートフォリオ(指標)等の検討
 現在、小中学校と比較し相対的にCS導入率の低い高校では、まさにCS導入が推進されているところであり、ポートフォリオモデル等を活用した効果検証データの提示によって、導入推進を後押しすることは大いに有効であると考えられる。
 一方で、本実証研究において制作した指標及びポートフォリオモデルは、小学校・中学校を対象としたモデルであり、学区との関わりや「地域」の概念が小学校・中学校とは大きく異なり、授業における大人の関わり等にも大きな違いが見られる高校にそのまま援用することは難しい。高校においてCSの効果検証を行う場合には、高校のCSの特性を踏まえた独自の指標作成を行うことが望ましい。
 同様に、特別支援学校におけるCSの運用方法も、小中学校とは大きく異なっていることが、教育委員会や学校を対象とした全国調査において明らかになった(報告書2も参照)。CSの効果検証を行うにあたっては、学校種等の特性に応じて、適切な方法を検討する必要がある。

このように、高校でコミュニティ・スクールが広がらない理由は、小・中学校とは「地域」の概念に相違があるからです。確かに小中学校は原則、域内の児童生徒が通いますが、高校は、域外から通学する生徒が一定程度の割合を占めています。よって、一概に小・中学校の結果を高校に当てはめるわけにはいきません。

また、実際のアンケートの基本情報についても、小学校2,109校、中学校1,073校、高校551校、特別支援学校375校の合計4,108校となっており、高校は全体の13%程度の割合であることも考慮する必要があります。それらを踏まえた上で、第2部[注3]の気になった統計について、いくつか取り上げてみます。

◆CSの導入理由または導入しようとしている理由(p.27)
1、学校を中心としたコミュニティづくりに有効と考えたから(74.5%)
2、学校改善に有効と考えたから(67.7%)
3、地教行法で設置が努力義務となったから(57.5%)
4、地域学校協働活動の活性化に有効と考えたから(56.0%)
5、教育課程の改善・充実に有効と考えたから(46.7%)
6、教職員の意識改革に有効と考えたから(34.8%)
7、生徒指導上の課題解決に有効と考えたから(34.1%)

18項目で複数回答可の上位7項目です。CS導入は、学校と地域がコミュニケーションもしくは活性化をとる手段として考えるのが多数。努力義務だからという理由も2分の1がイエスと回答しています。

◆CS導入によるこの2〜3年の成果実感(p.33)
1、学校と地域が情報を共有するようになった(88.1%)
2、地域が学校に協力的になった(85.0%)
3、学校に対する保護者や地域の理解が深まった(81.9%)
4、地域と連携した取り組みが組織的に行えるようになった(81.5%)
5、特色ある学校づくりが進んだ(78.6%)
6、保護者・地域による学校支援活動が活発になった(77.9%)
7、学校関係者評価が効果的に行えるようになった(77.3%)

「とてもあてはまる」「まぁまぁあてはまる」の割合です。項目によってそこまで大きな差異はありませんが、学校と地域の接点がCS導入を通じて成果として実感している様子がわかります。

◆学校運営協議会導入・効果的運営における重要事項(p.40)
1、校長が学校運営協議会の意義を十分に理解していること(49.2%)
2、学校運営協議会の委員として適切な人材が確保できること(39.5%)
3、CS予算が確保されること(31.0%)
4、教職員が学校運営協議会の意義を十分に理解していること(21.2%)
5、CS担当コーディネーター(地域学校協働活動推進員等)が配置されること(18.8%)

効果的に運営するための重要事項の第1位は、学校長が十分に理解していることです。どんな制度も同様だと思いますが、性急な導入は効果的ではないということです。導入が目的ではなく、なにを実現するために導入するか、つまり、「なぜ、導入するのか」という考えが重要です。

◆CSを導入していない理由(p.46)
1、学校評議員制度や類似制度があるから(70.1%)
2、地域連携がうまく行われているから(64.7%)
3、すでに保護者や地域の意見が反映されているから(42.2%)
4、CSの成果が明確ではないから(21.2%)
5、地域学校協働本部等が設置されているから(19.6%)

CSはあくまで手段の一つなので、県市町村によっては独自の制度が類似している場合もありますし、地域連携がうまくいっているためそもそも必要としない自治体や高校もあります。広島県の小規模県立高校も、県によって「学校活性化地域協議会」が先行して設置されていたため、「学校運営協議会」との棲み分けに苦慮した経緯もあります。(令和2年度の終わりから統合可という方針となりました。)

◆学校運営協議会の意見によって実現した具体的事項(p.70)
1、地域人材が活用されるようになった(77.9%)
2、学校への必要な支援が講じられた(72.8%)
3、学習指導の創意工夫が図られた(50.7%)
4、生徒指導の創意工夫が図られた(47.4%)
5、施設・設備の整備が図られた(43.3%)

CS導入により、学校運営協議会で地域側の意見が反映されたことで、地域とさらに密接な関係となり、地域の素材を生かして教育活動に有機的に接続できているようです。

◆学校と地域の連携のためのコーディネーターの設置状況(p.83)
全体 44.2% 
小学校 49.9%
中学校 53.4%
高等学校 8.8%
特別支援学校 10.4%

一方で、学校と地域の連携を支援するコーディネーターの設置は、高校では突出して低いようです。

以上を踏まえた上で、学校運営協議会の在り方への示唆を抜粋します。(p.134)

(1)CS導入校と教育委員会が一体となった推進体制が重要であり有効
教育委員会調査、学校(校長)調査いずれにおいても、設置者(教育委員会)のCSに関する取組・支援が充実しているほど、CSの成果実感が高いという結果が得られた。(中略)今後は本調査の設問にあるような教育委員会の取組を参考に、教育委員会が各導入校の主体的な取組を伴走支援していく方法を普及・定着させていくことが課題となる。
(2)学校運営協議会の実効性を高める組織体制の整備が重要であり有効
学校(校長)調査において、校長の学校運営協議会の成果認識は、コーディネーターがいる方が、また、地域学校協働本部等の実働組織と連携できている方が高いことが明らかになった。
(3)教職員の任用に関する意見の申出の柔軟化への対応
CS導入成果の実感において「適切な教職員人事がなされた」の項目では、他の評価項目に対して「まったくあてはまらない」の回答割合が突出して高い。(中略)一方、教職員の任用(人事)に関する意見による学校運営の混乱はほとんど発生しておらず、CSを導入していない教育委員会の導入していない理由として、「任用に関する意見申出がなされるから」は5.8%に留まり、未導入の判断にそれほど影響を及ぼしているともいえない。

まとめると次のようになります。

成果としては、CS導入によって学校と地域がそれまでと比べて有機的に接続され、学校側は地域の資源(ヒトやモノ)を教育活動に生かすことができるようになっています。一方で、課題については、早急な導入は形骸化を招きやすく、設置者が導入校と継続的に伴走していく仕組みの必要性が浮き彫りになりました。また、校長含めて導入する側が、CSの内容(教職員の任用に関すること)を把握できていないこともあり、制度を活用しきれていない現状もあります。それらも含めて、成果を出しやすいのは、連携を支援するコーディネーターの存在だと示されたものの、小中では2校に1校、高校は10校に1校と、高校への設置は突出して低いことが現状である。

今回は、以上となります!

定量的な報告書を読み込んだことで、コミュニティ・スクールの成果と課題がぼんやり見えてきました。個人的には、これらは頭の片隅に置きつつ、現場での活動を進めていきます。

注1:文科省の「学校と地域でつくる学びの未来」のサイト参照
「学校と地域の新たな協働体制の構築のための実証研究の実施報告書 第1部」〜コミュニティ・スクールの効果検証調査 報告書〜 令和3年3月 三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社
https://manabi-mirai.mext.go.jp/document/chosa/jigyo.html
注2:学校運営協議会とは、【決定はしない】けれども、地域住民側が学校運営について【承認】及び、学校運営と教職員任用について【意見を述べる】ことができる場のことです。詳細はこちらをご覧ください。「高校魅力化プロジェクト」と新学習指導要領が目指す「社会に開かれた教育課程」の連関 -その2 「コミュニティ・スクール」という手段
注3: 全国のCS情報最新版です。
https://manabi-mirai.mext.go.jp/upload/houkokusyo2ufj.pdf


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