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完売の儀 Silence, gloomy, the world before the story was born. 1

僕は作品のエディションすべてが完売した際には、制作データ一式を削除するという約束をしています。

誰に?というと、世の中すべての皆様に対してです。特にご購入くださった方、ギャラリーやその他宣伝等にご助力くださった関係各位にどのようにお伝えするかを検討しており、今回はこの「note」で記事にすることに致しました。


Silence, gloomy, the world before the story was born. 1


今回完売した作品「Silence, gloomy, the world before the story was born. 1」はコロナ禍初期に制作に着手した事もあり、撮影自体がだいぶ以前のもので作品制作用のバックアップではなく日常的なファイルの中に大元の撮影データがある可能性が高かった為、古いハードディスクを「裸族のお立ち台」に差し込み、元の撮影データを探すことから始め、全てのバックアップディスクに元データがないことを確認する必要がありました。(結果的には元データは制作ファイル、RAWデータのアーカイブが2箇所の計3箇所にありました)

制作データ
素材データ

この作品をつくり始めた当時は「Blackmagic Design Blackmagic MultiDock 2」を使用、Thunderbolt 2 接続で SSD×4構成の RAID0 で制作データを運用しておりました。
現在のAppleシリコンのMacBook ProとWindows10マシンの制作環境にした際に破棄していましたから、古いバックアップディスクと現在使用中のMacBook Pro(及び外部ストレージ)から、すべての関連データを集めて図版用データ「Silence, gloomy, the world before the story was born. 1+Acrylic.png(209.8MB)」だけを残して消去しました。

消去一覧

なぜここまでするのか。それは自分の写真を美術品として扱ってもらう為の一つの方法と考えて頂ければと思います。
もちろんこれだけでは不十分であり、作品データを消去したからといって美術品になるわけでもありません。ただ絵画や彫刻といったジャンルの作家であれば、販売された作品が手元に残ることはあり得ません。僕はこのことに違和感を感じていました。写真という技法を用いて、美術のマーケットで活動することの様々な問題に対する一つの姿勢を提示する必要から、エディションを完売した際には図版用データを残してすべて削除し、2度と復元や「焼き増し」のできない状態にすることを約束しました。

写真・プリントにおけるエディション管理の問題は、おそらく深刻さを増していくでしょう。今後発表する作品については、複製技術の進化と多様性を考慮し、特に理由がない限りUnique(1点のみ)にすることにしました。

そしてこれは写真から、記録という機能を剥奪する試みでもあります。
写真の重要な要素「記録」を失っても写真は写真であり続けるのか、その概念定義を検討し続けることは、今後の制作活動に必要な事柄でもあるのです。

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