2023年を占うキーワード「ロング・ソーシャル・ディスタンシング」 ──私たちが手にしつつある「新しい距離感」を考える
コロナ禍になって、まもなく丸3年を迎えようとしています。
世界中で度重なるロックダウンが行なわれ、ここ日本でも、人流抑制、ソーシャル・ディスタンス、三密といった言葉が日常的に使われる中、感染症対策と社会・経済活動の両立への模索が続いています。
来年2023年、私たちはどのように新しい日常を過ごしていくのでしょうか?
感染症との戦いの終わりを予測するのは難しいことを承知のうえで、私なりに予測してみたいと思います。
まず、「人流」について参考になる情報をいくつかご紹介します。
位置情報ビッグデータ事業を展開するアグープ代表取締役社長の柴山和久さんのツイートです。
国際的な観光都市である京都の人出がコロナ前を上回る状況となっていることに驚く方も多いのではないでしょうか。
また、ビジネス領域では、イーロン・マスクをはじめ「対面で働くからこそ、スピーディーに物事を進めることができ、イノベーションを起こせる」という考え方をもった経営者も一定数存在しています。
そうやって考えるなら、このまま順調に「人流」は復活して、私たちは元どおりの日常を取り戻せるようにも感じられます。
ビジネス街の人出は、コロナ前に戻っていない
しかし一方で、ビジネス領域では人流の復活は限定的で、「オフィス街の人口はコロナ前の7〜8割」というデータもあります。
また、多くの企業がオフィスのあり方を再考し、さまざまなチャレンジを行なっている背景に、「オフィスに出社したがらないオフィスワーカー」の存在があることは間違いないでしょう。
ロング・ソーシャル・ディスタンシング──以前の生活様式に完全に戻ることはない
そんなことを考えながら、手にした本の1つに『世界インフレの謎』(渡辺努著、講談社現代新書)があります。冬休みの1冊としてもおすすめです。
本書では「新しい世界」を「『密』をほどいていく時代」と表現して、パンデミック前後の状況を次のように説明しています。
つまり私たちは、「人々が外で働きたがらない」→「生産が滞る」→「インフレになる」という「新しい世界」に直面している──。
本書で著者が伝えようとしている核心はここにあるのではないかと私は理解しています。
なかでも気になったのが、シカゴ大学でWFH(在宅勤務)に関するアンケートを実施しているチームが提唱したとされる「ロング・ソーシャル・ディスタンシング」という考え方でした(太字は筆者、以下同)。
そして、「パンデミックが収束した後も、ソーシャル・ディスタンスを継続し、以前の生活様式に完全に戻ることはないと答えた人は、全体の6割にのぼりました」という調査結果を紹介しています。
このロングソーシャルディスタンシングは、「他人に迷惑をかけたくない」と考える日本人のこれまでの行動とも合致するような概念であり、これまでの私たちのふるまいの裏付けともなるものではないでしょうか。
たとえば、「屋外ではマスクを着用しなくていい」となった今も、東京ではほとんどの人がマスクをして外出しています。
私たちマップボックス・ジャパンも、今年こそ、万全の感染症対策を実施したうえで数十人規模の忘年会を開催しましたが、昨年は3回に分けて、小ぢんまりと開催したのは、社員の安全はもちろん、社会の公器としての企業が世の中に迷惑をかけてはいけないという思いからでした。
そうした日本人の意識を反映してか、コロナ禍以降ずっと飲食店の席の間隔は開いたままですし、電車の中でも、座席を詰めて座ることに躊躇する人は感覚的に増えているように感じます。
さらに、コロナ禍を通して、注目が集まったキーワードに「ソロ」があります。
その筆頭は「ソロキャンプ」。
また、「ソロ旅」というワードを目にする機会が増えたり、手軽に一人で利用できる「一人焼肉」「サウナ」「ジム」といった施設も度々、流行のスポットとして紹介されてます。
「開疎化」と「ロング・ソーシャル・ディスタンシング」との共通性
みなさんは、私の元上司であるヤフーCSOの安宅和人さんが中心になって立ち上げた「風の谷構想」をご存じでしょうか。
「風の谷憲章」のなかには、「都市に代表される密集的な空間利用と社会構造に対して、「開疎」的なオルタナティブを提唱するものである」という文言があります。
「開疎化」という概念について、安宅さんは次のように説明しています。
ブログに掲載されている次の図表をご覧いただくと、なんとなくイメージが掴めるかもしれません。
強い意志をもって目指しているか否かの違いはあるかもしれませんが、パンデミックによって半ば強制的にもたらされた「ロング・ソーシャル・ディスタンシング」という発想と、「開疎化」には共通する部分が多いようにも感じます。
しかし一方で、安宅さん自身が「もちろん都市の持つ極めて高い効率性、利便性、楽しさがあるためにそう簡単に事は進まない。人口密度の極めて低い疎空間をどのように経済的にサステイナブルな空間にしていくかというのは僕らが同志でずっと検討してきている『風の谷を創る』運動論の核心の一つだ」と指摘しているように、2023年から突如「開祖化」が進むことにはならないはずです。
そうすると、さきほどご紹介したシカゴ大学のチームのアンケートの項目である下記の割合の人々の意識のせめぎ合いが続くというのが、少なくとも来年2023年の世の中の様相ではないでしょうか。
2023年は、スタートアップにとって「チャンス到来」
人の価値観が変わったあとに、新たなサービスは生まれるものです。
私の経験則です。阪神淡路大震災のあとにはブロードバンドが到来して「ヤフー」のサービスが浸透しました。リーマンショックのあとに「iPhone」の普及が広がり、東日本大震災のあとに「LINE」が生まれて生活が変わりました。
ロング・ソーシャル・ディスタンシングを契機に、新たなサービスが広がっていく可能性は高いと思います。ソロへのニーズだけでなく、気心の知れた仲間で過ごす日常や、対面だからこそできる創造的な活動の見直しも進んでいくに違いありません。
これまでにないサービス、これまでにない商品が登場するタイミングという意味では、ユニークなアイデア、新しいテクノロジーを持っているスタートアップにとっては「チャンス到来」と捉えることもできるのではないでしょうか。
そうした時期だからこそ、デジタル地図の開発プラットフォームとして「多様な地図」づくりのお手伝いをしている私たちマップボックス・ジャパンの技術は、さまざまな用途、シーンにお役に立てると思っています。
地図を使った新しいサービスを考えているスタートアップの方がいらっしゃいましたら、お気軽にご連絡いただければと思います。
最後になりましたが、本年も大変お世話になりました。
来年もどうぞよろしくお願いいたします。