見出し画像

パートナーシップのための交渉 | ZC交渉術#1 | Zコーポレーション 高田

はじめに

#1 最近、ビジョンファンド投資先企業との合弁会社に関する発信が多かったので、Zコーポレーションの仕事をしていないように見えるのを解消するために、記事を書きました(笑) 注: 発信しにくいだけで、実際はしてます(笑)

#2 社内勉強会向けの内容を記事化しましたので、若干先生的になってしまいましたが、ご勘弁ください。

#3 遅ればせながら、noteはまってます。使いやすい。

皆様、明けましておめでとうございます。

Zコーポレーション高田です。ヤフーで広告プロダクト開発のキャリアを積んだのち、現在は事業開発を生業にしています。

私が何を仕事にしているのかという質問をされた際には「ものづくり」と「事業提携」と答えるようにしています。私を知っている人に聞いても、おそらくこの2つが、私を表すキーワードとして出てくると思います。今日は、このうち事業開発の仕事、特に交渉について書いてみます。

時には交渉仲間として、時には交渉相手として対峙するなど、この10年ほど様々なディールを一緒に行ってきた戦友、奥本直子さんと、Forbes Japanさんに一年前ほど前に取材をしてもらいました。お題はパートナーシップのための交渉について。一年前の記事ではありますが、風化する類のものでも無いので、あらためて紹介させていただくとともに、元ネタについてご紹介しようと思います。

社内勉強会で要望が多かったお題が交渉術

この取材になる前の元ネタは、2年ほど前に社内のメンバー向けの勉強会で使ったドキュメントになります。当時メンバーからどんなテーマで話を聞きたいかを聞いた時に、出てきたテーマが「交渉術」でした。

この勉強会の準備で奥本さんと意見を交換した内容が、記事の元となりました。

相談をしていて、交渉術と言われると、あると言えばあるし、無いと言えば無い。交渉テクニックのみ覚えてしまい、技だけに走られても困る。なので、交渉テクニックを教えるのではなく、まず、最初に交渉に向かう心構えのようなものを伝えることにしました。

(図1) 勉強会タイトルスライド| Z会=Z勉強会です (社内語なのでご勘弁を)

画像1

紛争のための交渉

勉強会の冒頭では、紛争のための交渉と、協業のための交渉は違う、ということを伝えました。

紛争時の交渉と協業のための交渉、両方とも交渉という名前で略され表現されるので、同じものと考えられがなのですが、似て非なるもの。その目的が違うので、その中でとるべき手段も異なります。目的を達成するために行動として、ほぼ真逆のことをやる事になるので、目的と手段を取り違えると、場合によっては取り返しがつかなくなります。なので、この二つは混ぜて理解してしまい、手段を取り違えると、とても、危険。目的が違うので、立場や相手との関係も変わる、その中で求められる立ち振る舞いも変わってきます。では、どのように異なるのでしょうか。

(図2) 紛争のための交渉の概念図

画像2

紛争の目的は、自社の利益を最大化することにあります。別の表現で言うと、戦いのようなものです。戦いなので、勝ち負けがはっきりします。

具体的には、フロントに立つ交渉人がそれぞれの組織を代表し、主張をしあう形で行われ、もし、これが折り合わなければ、裁判などで第三者の行司に入っていただき、決着を試みます。お互いの交渉人は、基本的には相手の利益は度外視し、自分の利益を優先して行うものです。基本的に紛争に関する交渉の帰結はWin-Loseになります。

まず、ここで大事なのは、平常時のビジネスにおいては、紛争に至る状況は極力避けた方が良いと言うことです。ビジネスにおいては、仮に紛争状態が終わったとしても、その相手とは縁が切り切れるものではなく、関係が何かしらの形で続くことが多いためです。継続して取引があったり、競争相手として業界内に相手が存在することもあるでしょう。相手との関係がなくならないのであれば、不要に敵を作らない方が良い。

もちろん、余程のことがあり紛争が避けられないこともあるでしょうが、その際には、一生相手と付き合わない事態も覚悟の上で臨むべきです。そのようなつもりがないのに、日常的に紛争が発生しているとしたら、それは異常な事です。

思い出話:
今でこそ、こんな記事を書くくらいビジネス交渉はある程度自信を持っていますが、基本的にこれらは全て教えてもらったことです。私のビジネス交渉の師匠は勝手に志立正嗣さん、安宅和人さん、明石信之さんと思っています。このエントリーは、三人に学んだ事を公開しているものです。交渉現場担当として、三人に支えていた時はただついていくのが精一杯でしたが、「精神に戻ろう」「交渉はしてはいけない」と言った当時は良くわかっていなかった格言を、心から理解していると今は思います。

良く販売されている交渉術の本は、ここで言う紛争時に、相手に勝つための、テクニックを取り上げることが多いように感じます。紛争は残念ながらビジネス上も存在しますので、こういった紛争特化の交渉術のような本の必要性は理解しているのですが、ビジネスの場でパートナーシップを学ぶ上では逆効果になる事もあるので、お読みになる際は気をつけた方が良いと感じています。

紛争状態での交渉は、公開で書くほど自信がありませんので、このエントリーでは書かない事にします。

パートナーシップのための交渉
紛争の目的は、自分の利益を最大化することであり、そのために相手の利益はどうなっても良いというスタンスで行うものと説明しましたが、それに対して、パートナーシップのための交渉は、双方の利益を最大化するもの、になります。良くあるWin-Winの関係を作ろうと努力するための交渉です。

(図3) パートナーシップのための交渉の概念図

画像3

パートナーシップを結ぶ目的は、一人では目的が達成できないので、お互いが自分だけでは持ちえない資産を合わせて、目的を達成しようとするものです。したがって、パートナーシップには必ず共通目的があります。この共通目的をディールの場では、パートナーシップの精神と呼びます。

メモ#1 パートナーシップの精神は欧米でも通用する
日本語でパートナーシップの精神、英語ではSpirit of Partnershipとなります。英語の交渉でも、この言葉は日本語と同じ意味で伝わり、ディールの中で頻繁に使う用語です。
メモ#2 片側だけが利益を享受するパートナーシップ

片側だけの利益が存在している場合、もしくは相手側の目的がわからないまま進む状態は、パートナーシップとは別の言葉で整理した方が良いと私としては思います。(とはいえ、良い言葉はパッと出てこないのですが。いびつな取引関係とかでしょうか。) パートナーシップを組む目的は、互いにメリットを感じポジティブな思いで組むもので、可能であれば未来永劫続くことを望むものです。

一方的に利益を享受する側は基本メリットだけなのでその気持ちの解説はは置いておいて、少なくとも利益を得られない側の心持ちは決してポジティブなものでは無いように思えます。当該ディールには前向きではあっても、そこに隠れた腹の中は、今回は譲るが将来は貰う、大手なのでなんとか食い込むための道具、といった類のもの。つまり、放っておくと終わりがあるパートナーシップになります。

利益を一方的に享受する側が、相手がどのような気持ちで不利な条件を組んでいるのか、すら理解をしないまま行う協業は、もはやパートナーシップではありません。搾取、詐欺、騙し打ち、そういった類のものになります。私としては、紛争と並んで関わりたく無い類のディールです。
メモ#3 長期的な時間軸を念頭に置きながら交渉する
Forbes Japanの記事にあったポイントの4つめ、「長期的な時間軸を念頭に置きながら交渉する」はWin-Winの関係であり、長期間のパートナーシップを前提とする場合のTIPSです。もう少し解説します。短期間で見れば、実はWin-Loseの関係のWin側に立つことができれば、ディールで得られる利益は大きくなります。Win-Winという関係は、一つの成果で得られた果実を分け合うということですから、短期的にはそれぞれの実入りは少なくなります。しかし、通常一人ではできない(=一人では実現するための投資が大きすぎるので、持っている相手と組む)わけですから、投資をしていない分、身入りが少なくなるのは当然です。なので、ディールの評価は単年度でなく、長期間の利益の総和で評価するべきものです。

パートナーシップの精神

共通目的があり、パートナーシップの精神が合意できている事で、交渉相手と一つのチームになる事ができます。ここでの、いわゆる握りの強さが、ディールの成否を分ける事も多いです。

共通目的がある事で、交渉相手と一つのチームになる事ができます。チームとして対話を行い、共通目的の実装方法を対話を重ねて、詰めていきます。そして、必ず考え方の違いなどから、お互いの組織に調整をかけるべき事項がでます。それを調整していく、調整できたら紙に落としていく。この繰り返しがパートナーシップディールです。むしろ、交渉相手はそれぞれの自組織と言った方が良いかもしれません。パートナーシップの交渉を表した上の図では、交渉相手が自組織内となる多いため、交渉官(Negotiator)でなく、調整人(Fixer)と表現しています。

もちろん譲れない部分は、それぞれの組織ごとにはあるでしょう。その際は背景とともに丁寧に相手に説明する事で、お互いに打開案を探ります。相手方に持ちかけられた際も、真摯に相手の立場に立って対応します。この過程で、パートナーシップ精神がとても重要な役割を果たします。議論が膠着したら、精神に立ち返る。相手がヒートアップしていたら、精神に基づき話し合う。自分が冷静さを失っていると気づいたら、自らを諌める道具にする。多くの場合、パートナーシップの精神が合意されているか否かは、ディールの成否を決めるほど重要です。

メモ#4 精神の合意役と条件交渉役
パートナーシップの精神の合意をする役割は、交渉のフロントに立つ人とは別に設定した方が円滑に進む場合が多いです。特に重要なディールの場合は役割分担をした方が、対話が円滑に進みやすいです。やはり、お互い人間ですから、たとえ精神が合意できていたとしても、自分のみの力で交渉モードになっている状態から、精神に引き戻すのは難易度が高いです。これは相手も同様。それぞれの上役にお願いすると良いと思います。上役の方にお願いできないケースで、例えば、同僚と役割分担をお願いする場合は、社内で意見の相違を起こさないために、交渉チーム内で、役割に徹することと、精神の共通理解を徹底することが大事です。
メモ#5 相手の事を事前に理解する
相手のことを理解する事はパートナーシップの精神を合意するため、円滑に交渉を進めるために大事です。文化的背景、出自の会社、友人・交友関係、LinkedInで調べられる限り調べて相手の理解を深めましょう。

パートナーシップの精神を握ることの、ディール後への影響

読み返すと、相当長くなってしまったため、交渉過程の技術のようなものは、次回以降に書こうと思います。

最後に、パートナーシップのための交渉や精神を合意する重要さを理解することで、円滑にディールを進めることができるというメリット以外について書いて、本エントリーを終わりにしようと思います。事業開発を生業にする人にとっては、これが一番大事にした方が良い目的かもしれません。

パートナーシップの精神を合意できると、合意できない場合に比べて格段ににディールはうまく進みます。しかしながら、ビジネスですから結論は思った通りにいかないこともあります。成立に向かうこともあるだろうし、誠実に協議をした結果組まない方が双方にとって良いという結論になることもあります。実際に真剣に交渉をしても、成立するという確率は10%程度あれば良い方です。

誠実に交渉を行った結果得られるのは、そのディールの成否にかかわらず交渉チームの一体感です。ディールはその難易度によって、交渉チームは濃密な時間を過ごします。それこそ佳境に入ると、休日返上、深夜を問わず、相手の返事をまち、こちらもできるだけ素早く返す。どんな文化圏の人であっても事業開発に携わる人は、ディールだからという理由で、ある意味プライベートを犠牲にして(あるいは混ざってしまっている?笑) 取り組みます。いまだに最後の手段は、携帯への直電話です。戦友という表現をよく使いますが、このような時間を過ごした相手方とは、よく次も一緒にやろうという言葉で、ディールの締め括りとなります。

事業開発は狭い世界です。世界でも登場人物が少ない。今日Aという会社の事業開発ヘッドだった人は、Bにうつり事業開発のヘッドの仕事をしています。一つのディールで得た相手方との信頼関係は、次に必ずプラスに生きてきます。(逆に、その小さな世界で何かしらの悪評が立ってしまったら、世界は確実に狭まります。)

この誠実に交渉を行った結果の信頼の輪こそが、事業開発を生業にしてきた人の資産であり、能力なのではないかと思います。私自身も過去行ったディールで培った人間関係に事あるごとに助けられています。事業開発の仕事を志す人は、スキルやテクニックに溺れることなく、この信頼の積み重ねを大事にして欲しいと思います。

本日はこれくらいで。それでは。

2021.1.4
Zコーポレーション 高田

次の記事: