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メタバースとAIの先にある世界──2023年のスローガン「100C2」

2022年9月に発売され、発売後3日で「345万本突破」という驚異のスピードでユーザーを獲得している『スプラトゥーン3』(以下、「スプラ」)。遅ればせながら年末年始にプレイしたところ、その動きの速さ、おもしろさに感動して、「高田さん、ずっとスプラの話していますね」と会社で言われるくらい、スタッフにも熱く語ってしまっています。

「スプラトゥーン3」発売3日で345万本 マリオと並ぶ強豪タイトルに|日経クロストレンド

ゲームのおもしろさはもちろんですが、私が「なるほど」と思ったのは、そのスピード感。プレイしているときは、脳が高速回転している感覚があり、ゲーム後は現実世界の動きが遅く感じるほどで、昨年、Z世代の消費に関するキーワードとして、「タイムパフォーマンス」「倍速消費」が挙げられていた理由が少しだけわかった気がしました。

そして、もう1つ実感したのが、ゲーム業界が提供するバーチャル世界では、すでに「メタバース」的な交流が行なわれているという事実です。

たとえば、スプラの場合、オンライン上でゲームを開始すると、プレイヤーはロビーと呼ばれる場所で待機します。その後、マッチングが完了してバトルがスタートするわけですが、他のプレイヤーとフレンドになれば、自分の作成した「部屋」に招待したり、仲間がプレイしている様子を観戦したり、ボイスチャットで仲間と話すこともできます。

スプラだけでなく、『フォートナイト』『ロブロックス』などに見られるゲームの進化は、ファミコン世代の私からすると隔世の感を禁じえません。
フェイスブックを展開するメタ・プラットフォームズが「メタバース」に本気で取り組むと発表して社名を変更してから1年数カ月経ちますが、ビジネスシーンよりも、エンターテインメントの世界のほうがずいぶんと先を行っていることを再認識した次第です。

世界史の教科書に載っていた「ラッダイト運動」

もう1つ気になっているのが、スプラ発売の2カ月後にローンチされた「ChatGPT」。まだまだ複雑な問いに答えるのが難しかったり、間違った文法表現が使われたりということはあるようですが、たとえば、『ウォール・ストリート・ジャーナル』は次のように、その可能性を報じています。

「1カ月余り前にローンチされたチャットGPTは質問に会話形式で回答を返すツールで、世界の教育関係者にとっては大変残念なことに、ちゃんとしたエッセーを、さらには詩までも書くことができるため、ユーザーが殺到するほどの人気急騰となっている」

「チャットGPTのような技術の質問応答機能によって検索という中核事業が脅かされかねないグーグルにとって、またしても歓迎できない展開となった」

「米紙ニューヨーク・タイムズは先月、チャットGPTの昨年11月30日のローンチを受けて、グーグルの経営陣が社内で『コード・レッド(非常事態)』を宣言したと報じた」

AIのコスト負担、MSもグーグルも不可避|ウォール・ストリート・ジャーナル

つい先日、Googleが新たに対話AI「Bard」を一般公開すると発表したことは記憶に新しいことではないでしょうか。

「ChatGPT」だけでなく、私が目にしたものだけでも、たとえば次のようなサービスがAI技術をベースに生まれ始めています。

世界初!AIで生成した画像に特化した素材サイト「AI素材.com」をリリース|PR TIMES

これまでは人間が撮影した写真をストックフォトとして販売・提供するビジネスが広く展開されてきましたが、「AI素材」が普及していくと、「人間が撮影する」必要性が相対的に低下していくかもしれません。

アパレル業界がざわつく! 本物みたいな「AIモデル」ができること|IT Media

サービス内容を見た限りでは、「商品の撮影」「合成用のモデルの派遣」と書かれているため、生身の人間が完全に不要になるわけではないようです。ただ、モデル、スタイリスト、メイク、写真家、レタッチャーなど、さまざまなスキルを持った人材がチームになって臨んでいた業務の一部が、AIによって代替されるのは間違いなさそうです。

こうしたサービスを目にして、私が想起したのは、世界史の教科書に載っていた「ラッダイト運動」でした。ウィキペディアには「1811年から1817年頃、イギリス中・北部の織物工業地帯に起こった機械破壊運動である」とあります。産業革命から今日まで、鉄道や自動車の誕生で馬車が淘汰されたり、電話交換の機械化で交換手の仕事がなくなったりしてきましたが、これからはAIの進化によって失われていくサービスや仕事が出てくるのは間違いありません。

ラッダイト運動|ウィキペディア

そして、ウィキペディアには、「現代文明において、ITなどのハイテクの進化と台頭によって、個人の雇用機会が次第に奪われていくのではないかと懸念し、それらの開発を阻止し、利用を控えようという考え方がある。これはかつてのラッダイト運動になぞらえ、ネオ・ラッダイトと呼ばれている」と記述も掲載されています。

実際、アメリカではアーティストが「画像生成AI」の開発元等に対して集団訴訟を起こしているという報道もあります。

「Butterick氏によれば、Stable Diffusionは元の作者の同意なしに50億枚の画像を“diffusion”と呼ばれる手法で圧縮コピーを行ない、再結合して別の画像を導き出したとして、“21世紀のコラージュツール”であると非難。出力画像は学習過程のコピーから派生したものであり、市場で競合関係にあり、アートやアーティストに恒久的な損害を与えるとしている」

米画家ら、画像生成AI「Stable Diffusion」と「Midjourney」を提訴|PC Watch

AIはすでに「不気味の谷」を超えたのか

それでも以前の私たちは、「AIが作ったものと人間が作ったものは違う」という感覚、あるいは「不気味の谷」という言葉に代表されるような「人間とロボットは別物」という感覚を持ち合わせていました。

「不気味の谷とは、1970年に東京工業大学の森政弘教授(当時)が書いたエッセイのタイトル。大意は『人間は、ロボットの外見や動きが人間に近くなるほどロボットへの親愛度が高まるが、類似度があるレベルになると逆に不気味に感じる。しかし、類似度がさらに高まると親愛度は最大になる』というものです」

AI(人工知能)、ロボットは 「不気味の谷」をどう越えていくのか?|NTTコムウェア C+

「ロボットを人間の容姿に近づければ近づけていくほど親近感が増していくのだが、ある一定の度合いに到達すると突然「強い嫌悪感」を感じる奇妙な現象だ。しかし、人間と見分けが全くつかない時点で、この不思議な現象が消滅し親近感が上がるというもの、これは、ロボットに限らず3DCGで作られたキャラクターでも発生する」

人間に近づくほど嫌悪感を感じる不思議な現象「不気味の谷」|ROBOT MEDIA

「ロボットに関する話題は現在、技術的なものから、社会的なものへと移行しています。ロボットは常に、非常に不気味なものから、共感できるものまでの境界線上をさまよっています。こうした状況こそ、わたしたちが理解する必要があるものなのです」

ロボットが人間に嫌われる「不気味の谷」が証明される:研究結果|WIRED

しかし、「類似度がさらに高まると親愛度は最大になる」とあるように、AIの発達、機械の発達によって、もはや区別のつかない領域に移行しつつあるのかもしれません。

人と人のつながりがイノベーションの源泉となる

一方で、AI技術が「不気味の谷」を超えたとしても、あくまで「AI」が参考にするのは「過去」のデータであり、「未来」を思い描くことができる「人」にしか生み出せないものが必ずあるはずだと、私は考えています。

物事には作用・反作用があって、たとえいくつかの仕事の領域はAIに代替されたとしても、その反作用として、新たに生まれる「人にしかできない」領域や、AIと重なる領域であっても「人がやったほうがベスト」な領域というのが、今後だんだんと明らかになっていくのではないでしょうか。

スプラのような世界観がもっともっと進化して、メタバース空間が現実と区別がつかないくらいになったとしても、デジタル空間で何かアクションしようと考えるのは「人」ですし、そこで行なわれることを「楽しい」と感じたり、「悲しい」と思うのもまた「人」です。メタバースの世界、デジタルの世界が一般化すれば、その反作用として「リアル」の価値がいま以上に上昇する可能性は高そうです。

個人的な話で恐縮ですが、私自身、かつては世界中の国が採用していた「入国時のスタンプ」がパスポートに溜まっていくのを密かな楽しみにしていたように、リアルな手触り感というのは、人が人である以上捨てがたいものがあります。たとえば現在、「JR東海」と「桃鉄」とのコラボイベントが開催されているように、ゲームの世界から一歩出て、リアルの世界を旅することのおもしろさに注目が集まっていく可能性があります。

100人の中から2人を選ぶ組み合わせは4,950通り

イノベーションという文脈でいえば、私の知っている経営者、イノベーターたちは、びっくりするほどの距離を頻繁に移動していたり、世界各地に友人がいたりします。Zoomでも議論や決断はできますが、ビジネスで結果を出す、とくに革新を生むという点においては、まだまだリアルなコミュニケーションのほうに軍配が上がるようにも思うのです。

そんなことを考えながら、私はマップボックス・ジャパンスの2023年のスローガンを決めました。

マップボックス・ジャパンのスローガン「100C2」(2023年)

創業時に比べると、マップボックス・ジャパンのメンバーは何倍にもなっている一方、コロナ禍にリモートワークが浸透した結果、メンバー全員と話したことがあるのは、代表の私だけという状態になっています。でも、せっかくこれだけ優秀なメンバーが集まっているのだから、それぞれが交流して、その交流から新たな何かを生み出してほしいというのが、私の願いです。

そこで思い出したのが、「組合せ」の総数を表す「nCr」。高校時代、「数学A」の教科書で勉強したのを覚えている方もいらっしゃると思いますが、たとえば、100人の中から2人を選ぶ組み合わせは全部で4,950通りもあります(「100C2」=4,950)。もし、4,950通りの打ち合わせ、ディスカッションが生まれたなら、そのなかからユニークなアイデアがいくつも生まれる可能性は十分にあります。

かつて、大学時代の恩師は、イノベーションの起こし方には2通りあることを教えてくれました。

「簡単なもの」と「簡単なもの」の「難しい組み合わせ」
「難しいもの」と「難しいもの」の「簡単な組み合わせ」

そのときはわかった気になっていましたが、いま、その意味がもっと明確にわかるようになってきました。「地図」というのは、単体では「地図」でしかありませんが、さまざまなものを組み合わせることで、とてつもない「価値」を生むことができます。

物流、自動運転、災害対応、ドローン、ゲーム、メタバースなどなど、すでに多様な分野で、「何か」との組み合わせによって、地図はその力を発揮しています。イノベーションを起こすきっけけが「組み合わせ」であるとすると、その組み合わせの起点となるのは、未来を思い描く「人」であり、人は人とのつながりで価値を創造できると私は信じています。

マップボックス・ジャパンHP

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