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アフターコロナと地図──「Google I/O 2022」から考える

グーグルが毎年開催している開発者会議「Google I/O」。地図サービス開発プラットフォームを提供する会社の代表として「さすがグーグル」と私が感じたサービスが2つありました。

1つ目は、Googleマップの“Immersive View(イマーシブ・ビュー)”2つ目つ“Look and Talk”を含む音声アシスタントの機能強化です。

ユーザーは移動コストに見合う体験を求める

Googleマップの“Immersive View”は、動画を見ていただくのがいちばん早いかもしれません。こちらです。

ストリートビューにおいて、数十億のストリートビューと航空写真を合成しより没入感のある画像でランドマークを見られる機能「Immersive View」が追加される。タイムスライダー機能を使うと、リアルに再現された都市を異なる時間帯や天気で確認することもでき、イギリスのロンドンのビッグベンやネルソン・パリといった建物も間近に見られるようになる

Google マップに新機能、ランドマークを没入感ある表現「Immersive View」など|ケータイ Watch

引用記事には、「そのまま気になっているレストランなどの店内の様子も覗くことができ、雰囲気を見て予約する、といった使い方もできるようになる」とあります。

なぜGoogleは、“Immersive View”を開発したのでしょうか?

理由は、コロナ状況下における変化にあるのではないでしょうか。つまり、コロナ禍で全世界の人々が向き合うことになった”共通体験”に「移動コストの上昇」が挙げられます。

「移動コストの上昇」には3つの意味があります。

コロナ状況下における「移動」は感染の危険が伴うため、不要不急の移動を自粛せざるを得なくなりました。

②外出頻度が減少した一方で、せっかく移動するなら失敗したくないなど「移動」に対する期待値が上がりました

③コロナ禍だけではなくウクライナ有事の影響もあり、公共交通機関の利用者数の減少、あるいは燃料費の高騰が起き、「移動」の金銭的なコストが上昇しています。

①②は心理的コスト、③は経済的コストです。こうした「移動コストの上昇」により、「せっかく移動するなら……」という気持ちが強くなります。ゆえに、入念に下調べして計画をすることで、コストに見合うだけの「移動」の価値を求める人が増えるということです。

アフターコロナに「位置情報サービス」は広がる

失敗したくないユーザーが“Immersive View”のようなサービスを使えば、どうでしょうか?

事前に訪れようと考えている「街」の様子を確認できます。候補地を絞り込み、さらには気に入った店を予約することができます。「思っていたのと違う……」というミスマッチを防ぎ、満足度の高い移動を実現できるのではないでしょうか。

また「移動コストの上昇」は、“Immersive View”のように「遠出」の需要に応えるだけではなく、「近場」のニーズを拡大していると私は考えています。

たとえば、星野リゾートは近場で過ごす旅のスタイル「マイクロツーリズム」を提唱しています。星野リゾートのブランド「OMO」では、"ご近所マップ"をうまく活用しているそうです。

「ちょっと近くを散歩しよう」「5キロぐらい走ってみよう」など、「近場」のニーズに応えるように、位置情報サービスの市場が拡大しているように思います。

毎日の移動でマイルがたまる人気アプリ「Miles(マイルズ)」をはじめ、noteでも紹介した運転を楽しくするドライブアプリ「SUBAROAD」であったり、散歩コースを提案してくれるアプリなどのサービスがいくつも生まれることになりました。

以上のように、私がGoogleの “Immersive View”から連想したキーワードは、「ロケーション」です。コロナ以後、ロケーション分野で新たな需要を満たすサービスが勃興していく予感がしました。

新サービス“Look and Talk”の潜在力

もう1つ、私が「さすがグーグル」と感じたサービスが“Look and Talk”を含む音声アシスタントの機能強化になります。

1つ目のGoogleマップの“Immersive View(イマーシブ・ビュー)”がロケーションならば、2つ目の音声アシスタント機能の強化“Look and Talk”は「コミュニケーション」です。

Nest Hub Maxは、内蔵されたカメラを使ってユーザーがデバイスにどれだけ近づいているか、頭をどちらに向けているか、視線をどちらに向けているのかを監視する。つまり、あなたがデバイスのほうを見て、答えを待っているかどうか検知できるというわけだ。
(中略)
強化された会話型AI「LaMDA 2」も発表した。グーグルの説明によると、海の底の様子を説明したり、庭に何を植えたらいいか考える手助けをしたりする際に使えるかもしれない。
(中略)
「Google 翻訳」には今年、24の新しい言語が追加される。新たに追加されるのは、アッサム語、ボージュプリー語、リンガラ語、マイティリー語、オロモ語、サンスクリット語、トウィ語など、主にアジアやアフリカ、南米で使われている言語だ。

Google マップに新機能、ランドマークを没入感ある表現「Immersive View」など|ケータイ Watch

こうした「コミュニケーション」の機能を強化した背景には、ウクライナ有事も少なからず影響を与えているとのことでした。

最初に登壇したスンダー・ピチャイCEOは、Googleのミッションである「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスし、使えるようにする(Organize the world's information and make it universally accessible and useful)」の下、提供している現行のサービスや製品について紹介した。例えばロシアによる侵攻でポーランドなど世界に避難したウクライナの難民の生活にGoogle翻訳が役立っていることなどだ。

Google I/O 2022基調講演まとめ|ITmedia NEWS

コロナ禍で普及が進んだのは、ビデオ会議システム「Zoom(ズーム)」などの「遠隔コミュニケーションツール」です。ここまで多くの人がリモートでの会議を日常的に利用することになるとは、誰も予想しなかったのではないでしょうか。

さらに、ウクライナ有事では、ウクライナの首相自らSNSを使ってライブ配信したり、戦闘の様子ですら全世界の人たちがリアルタイムで目の当たりにすることになりました。

私の記憶では、1990-1991年の湾岸戦争でのニュース報道は「過去の映像」でした。それを考えると隔世の感があります。

「つべこべ言わずに出社せよ」イーロン・マスク発言

もちろん、「リモート」には超えられない壁もあります。たとえば、デバイスを使った遠隔のコミュニケーションでは、対面における「カクテルパーティー効果(音声の選択的聴取)」のようなものは、現状ではあまり期待できません。

みなさんも、参加者が多いウェブ会議で、発言が重なって聞き取りづらかったり、タイミングを図ろうとするあまり言うべきことを言えなかったりした経験があるのではないでしょうか。複数の会話が混ざり合うような雑談にはまったく向いておらず、リモート飲み会もいつの間にか廃れました。

マイクロソフトの調査では、リモートワークが創造的な仕事にマイナスの影響を与える可能性も示されています。こちらは以前noteでもご紹介しました。

こうしたリモートワークでは超えられない壁に対して「つべこべ言わずに出社せよ」という方針を打ち出したのが、テスラ創業者のイーロン・マスクです。

「出社を義務付けない企業は無論あるが、そのような企業が素晴らしい新製品を最後に出荷したのはいつか。かなり前のはずだ」と主張。テスラは「地球上の企業の中で最もエキサイティングで有意義な製品をつくる。職場に電話を入れてできることではない」と強調した

テスラCEO、従業員に「出社か退職」の2択迫る|ロイター

2021年11月という早い段階で原則週4日出社に舵を切った楽天、そして2022年4月にホンダは「対面を基本にした働き方」へのシフトを発表しました。リアルなコミュニケーションを大切に考えているのも、きっと「遠隔コミュニケーションの壁」を意識してのことでしょう。

「フリクション」を超えるための技術が生まれる

ここまで「Google I/O 2022」の発表から、「ロケーション」「コミュニケーション」という2つのテーマを掘り下げて考えてみました。

きっかけとなったのは、コロナとウクライナという有事です。振り返ってみれば、、これまでも私たちはいくつかの有事で新しい技術やサービスが生まれる様を何度か目の当たりにしています。

阪神淡路大震災後には、ブロードバンドが飛躍的に普及。ITバブルを経て、グーグル、アマゾン、Yahoo! JAPAN、楽天、アマゾンといった、いわゆるWeb 1企業がさまざまなサービスを展開することになりました。

リーマンショックと時を同じくしてiPhoneが登場して、スマートフォンによるインターネットのモバイル化が進行しました。東日本大震災では、そのモバイルを使って安否の確認、情報の拡散が行なわれ、LINE、Twitter、Facebookといった Web2企業が台頭──。

では、今回の有事を経て、世界はどちらの方向へ向かうのでしょうか?

私は、世の中全体として、コロナ前には戻らないけれど、街に人がまったく戻らないという世界になることもないと考えています。

たとえば、「イーロン・マスク的な発想」と「フルリモートへの期待」のどちらの力も働きつつ、その間を埋めるようなサービス、フリクション(摩擦)を解消するような技術が勃興するというのが、私の見解です。

オンラインチケット売上25億円が意味するもの

たとえばエンターテインメント業界では、ライブ会場に足を運ぶファンと、リモートで参加するファンという、ある意味でベクトルの違うファン層が同時に存在する時代が到来しています。

先日も格闘技イベント「THE MATCH 2022」でのチケットの売上のうち、リアル会場(東京ドーム)が20億円(観客数5.9万人)、オンラインのペイパービューが25億円(オンライン観客数50万人)になったと話題になりました。

「忙しいから現地に行けない」というやむにやまれぬ事情によって遠隔で参加するファンだけでなく、よい悪いではなく、「コンテンツ」として遠隔から参加するという消費行動は当たり前になりつつあるのかもしれません。

エンタメ提供側は、オフラインとオンラインという相反するベクトルともいえる、2つのファン層を意識したコンテンツづくりをする傾向が強くなるのではないでしょうか。

そして、その両方向のベクトルを満たす技術が発達しながらも、当面の間は「リアルとバーチャル」「オフラインとオンライン」のフリクションをできるだけ最小にするような「ハイブリッド型」の技術やサービスの模索・開発が続くというのが、現時点での私のアイデアです。

以前にnoteにも書きましたが「メタバース」が何かしらの解を提供するかもしれません。

いろいろなビジネスのアイデアが広がるはずです。

マップボックスが考える「ハイブリッド型」とは?

私たちマップボックスもまた、ハイブリッド型を意識しながら、「ロケーション」「コミュニケーション」の2つの領域において、フリクションを最小限にして体験価値を向上させるようなサービスの開発・展開をしているところです。

ロケーション:あえて抽象度を上げた「白地図」を提供する

1つは、さまざまなサービスを載せることができる「白地図」の役割を果たすベースのマップの開発です。

これは衛星写真から3Dモデルを生成してマップ化したものですが、あえて抽象度を上げています。写実性(リアル)を志向しているグーグルとの違いがあるとするなら、この点かもしれません。

グーグルは「to C」サービスであるのに対して、私たちは「to B」です。マップボックス・ジャパンは、顧客のみなさまに地図サービス開発のプラットフォームを提供しているため、あえて色々な要素を載せやすいようにシンプルなマップを用意しています

たとえば、この「白地図」に、自動車の運転に必要な地図情報を含んだレイヤーを重ねればカーナビになります。プレイヤーの位置情報、歩行の助けとなるような情報を重ねれば位置情報ゲームになります。水位の上昇シミュレーション、避難経路といったレイヤーを重ねれば防災マップになります。

つまり、企業が目指す「ロケーション」分野のサービスに応じてカスタマイズできる技術を開発しているのが、私たちマップボックス・ジャパンだということです。

コミュニケーション:「コミュニケーションツール」としての地図

マップボックスの技術を採用いただいたサービスというのは、顧客との接点となるものであり、いわば地図はコミュニケーションツールの1つになります。

ヤフーグループの例でいえば、マップボックスの技術が使われている「Yahoo! MAP(ヤフーマップ)」には、EV充電スポットマップイルミネーションマップ地域のおすすめテーママップラーメンマップなど、さまざまな顧客との接点・コミュニケーションの接点が存在します。

SUBARU(スバル)は走りがいのある道や新しい発見を提供する、スバルオーナーのためのドライブアプリ「SUBAROAD(スバロード)」提供しています。効率を最優先して目的地へ移動する従来のカーナビゲーションでは、必ずしも案内されなかったような、海や山など自然の景観を楽しめる道、地域の魅力を感じられる名所などのドライブコースを案内するアプリです。

地図は、こうした「顧客と企業」の間にあるコミュニケーションツールとして、存在することができるはずです。

私たちはコロナ前に戻ることはできません。さまざまなことをコロナ前の水準に戻すにはもう少し時間が必要だと思いますし、せっかくならコロナ前よりも、いい世界、楽しい世界をつくりたいと私は考えています。

マップボックス・ジャパンと「おもしろい未来」をつくりたいと思ってくださる方がいらっしゃいましたら、ぜひご連絡ください。

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