"位置情報SNS"はメタバースの入り口である──Z世代がリアルタイムで同時接続する理由
「位置情報サービス」ネイティブ世代の感覚
Z世代のSNS=“TikTok”。私自身もそんな認識を持っていましたが、「位置情報」の活用という点でいえば、“Zenly(ゼンリー)”も見過ごすことはできません。
私が位置情報SNSユーザーに聞いて驚いたのは、「週末、どこに行ったの?」という質問に対して、「“Zenly”で確認しておいてよ」というツッコミがあり得るということ。
そして、“Zenly”には、いまどこにいるか知られたくないときに使用する「ゴーストモード」が搭載されていましたが、ユーザーの感覚からすると、「ゴーストモードを使うのはイケてない」そうなのです。私にはこの感覚はありませんでした。
ツール・ド・東北で導入された「リアルタイムマップ」や、デリバリー業界で採用されている「配達用の地図」などにおいては、「位置情報」をリアルタイムで表示することに意味があります。しかし、「日常生活」においてその必要性を感じていなかったというのが正直なところです。
かつて、存在していた“LINE HERE”がサービスを終了させたのも、私のような感覚のユーザーが多かったからではないでしょうか。
ただ、よくよく考えたら、「位置情報サービス」をユーザーが使えるようになったのは、「iPhone登場以後」の話であり、私たちの世代に馴染みがないのは当たり前のことであり、「位置情報サービス」ネイティブ世代が、他の世代に比べて上手にテクノロジーを活用できるのは当然といえば当然です。
ちなみに、私はといえば、アイフォンを4台持って生活をしているので、1日に一度くらいは、「あれ、あのアイフォンはどこだっけ?」となって、位置情報を活用して発見しています……。
位置情報を共有するのは「コスパ」「タイパ」
先述した「“Zenly”で確認しておいてよ」というツッコミは、「“Zenly”で確認していることを前提に対話をはじめられる」、つまり、コミュニケーションの無駄を省くことを重視しているとも考えられます。
Z世代の消費といえば、「コストパフォーマンス」「タイムパフォーマンス」という側面が強調されることもあり、一定程度「納得感のある説明」といえるでしょう。
実際、次のような若者の声もあるようで、「時間がかからない」「面倒を省ける」点は、位置情報サービスを活用する理由の1つであるのは間違いなさそうです。
また、私たちが小学校や中学校時代に、「今週の『ジャンプ』読んだ?」と言って対話をスタートさせていたように、「週末、渋谷にいたみたいだけど、何してたの?」という感じで、日常会話のきっかけを「位置情報サービス」は提供しているとも考えられます。
「相手が何をしていたか」を知っている前提で対話をスタートさせられるのは、時短効果があるだけでなく、ストレスなく会話をはじめることができる(=コミュニケーションコストの削減)というメリットもあるのでしょう。
「コスパ」の先にあったのは、日本人的な発想!?
ただ、もう一歩踏み込んで考えてみると、「コスパ重視」「コミュニケーションコスト削減」の先に、「相手のことをおもんぱかる気持ち」があるのではないかというのが、私の仮説です。
その仮説は、先日、位置情報共有アプリ「whoo」を提供している株式会社LinQ代表取締役CEOの原田豪介さんとお会いして、より強固なものとなりました。ちなみに、「whoo」は、ユーザーの8割が中高生であり、リリース後3カ月で1000万ダウンロードを突破した大人気アプリです。
「日本発、グローバルなコミュニケーションツールを目指したい」とおっしゃっていた原田さんがいま考えていることが、わかりやすくまとめられている記事がありますので、ぜひお読みいただければと思います。
「その国や地域で流行るかどうかは『人口が局所的に密集しているか』という要素が大きい」という視点も興味深いのですが、私がとくに注目したのは、位置情報共有アプリの「海外のユーザー」と「日本のユーザー」の違いです。
「他者への関心」は「他者への気遣い」につながるものだと思いますが、「BUSINESS INSIDER JAPAN」の編集者の方が、示唆に富む体験談を提供してくれています。
英語に比べ、ハイコンテクストな日本語だからこそかもしれませんが、日本には「すべて言葉に出してコミュニケーションするのは野暮である」という感覚が存在しています。
そうした傾向が、「位置情報サービス」の使い方にも顕れているのかもしれないと考えると、遠い存在だったZ世代のことが、少しだけ身近に感じられるようになるのは、私だけではないはずです。
“NauNau”は「リアルに友達とつながることができるSNS」
“Zenly”のサービス終了に伴い、脚光は浴びているのは、“whoo”だけではありません。
“Zenly”終了の報を受け、2週間ほどで作成された“NauNau”のダウンロード数はローンチ後約3カ月で270万超。
“NauNau”を展開するSuishow(2021年設立)の代表・片岡夏輝さんは次のように語っています。
実際、「若い人たちのスタイルに合致した、リアルに友達とつながることができるSNS」という片岡さんのコメント通りの使い方をしているマップボックス・ジャパンのメンバーがいました。
位置情報共有アプリは「ゲーム感覚」で「私的」
その人によれば、仲のよい友人たち同士で位置情報共有アプリを入れて、次のような使い方をしているそうなのです。
友人も残業しているのを知って(位置情報で確認して)、自分もがんばろうと気合いを入れる
出社している同僚を位置情報で探して、夕食に誘う(「今日、出社している?」と確認する手間が省ける)
親しい仲間と飲み会を開催したあと、電車で寝過ごしがちな友人が最寄駅についた瞬間、みんなで「起きて!」と電話する
ここでは、スタッフから教えてもらった使い方で感じたことを2つご紹介したいと思います。
1つは、「ゲームと近い感覚なのではないか」ということ。
たとえば、オンラインゲームでパーティを組んだり、つながっているユーザーがゲームの世界に入ってくると、「プレイヤーAが入室しました」とか「プレイヤーBが退出しました」といった通知が来ることがありますが、「存在を知らせる」という点で、「位置情報」と同じような機能を有しているのかもしれません。
あるいは、現実世界の拡張という意味では、「ポケモンGO」の世界観、ナインアンティックが目指す「リアルワールド・メタバース」とも共通する要素を含んでいるのではないでしょうか。
2つ目は、SNSごとに「公私のバランス」が違うということ。
(公)
↑
“LinkedIn”
“Facebook” “LINE”(mailの代替)
“Instagram” “twitter”(プライベート用、いわゆる「裏アカ」)
“Zenly” “whoo” “NauNau”(位置情報SNS)
↓
(私)
“Facebook”が普及し始めたころ、すでに社会人だった私たち世代は、仕事でご一緒した他社の方と“Facebook”でつながることにあまり抵抗はありませんが、若い人は「実名登録」に抵抗があると聞いたことがあります。
また、もともとは「プライベート」のつながりが多かった“LINE”も、いまでは「仕事」のやりとりでも使うようになっています。また、東京都がコロナ情報の提供ツールとしてLINE公式アカウント「新型コロナ対策パーソナルサポート@東京」を活用したり、最近ではPTA活動の連絡手段としても “LINE”が使われていたりするそうです。
一方で、“Instagram”や「位置情報SNS」については、仕事で運用している場合を除き、職場の上司や取引先と共有することは基本的にはなく、友人の中でもとくに親しい人とだけつながるケースが多いのではないでしょうか。
その意味でいえば、位置情報SNSを通じて「友人たちと日常的なこと」「たわいもないこと」を共有できることの価値が見直され始めているのかもしれません。
そのあたりについては、以前、「非日常から日常へ、憧れの消費から文脈(コンテクスト)のある消費へ」というテーマのnoteを投稿していますので、ご興味のある方はご一読いただければと思います。
「位置情報」はメタバース時代のコミュニケーションツールとなるか
せっかくなので、さらにもう一歩踏み込んで考えてみたいのが、さきほど「ポケモンGO」の世界観に言及した際に少しだけ触れた「メターバス」と「位置情報サービス」との関係性です。
位置情報サービスについてあれこれ考えているときに、ふと思い浮かんだのが、以前投稿した記事で作成したマトリクス。
当時の私は4象限マトリクスの左下(第3象限)に、デジタルツインと併せて“Zenly”をプロットしていました。
デジタルツインは、都市計画や災害対策等に力を発揮する分野ではありますが、それを日常生活のサービスに置き換えた場合、どうなるでしょうか。
第4象限の舞台が「現実には存在しない世界」である一方、第3象限は「現実世界」をベースにしたものであり、位置情報技術をはじめとする技術の進化によって、リアルとバーチャルの境界は今後ますます曖昧になっていくはずです。
すでに、インスタで「地図」が多用されているように、インスタで表示された場所に実際に行ってみて、その様子をインスタでアップして、それを見た別のユーザーがまたその場所を訪れるといったサイクルが回り始めています。
そうすると、「テキスト」が主体だったコミュニケーションは、「写真」「動画」、さらには「位置情報」を含めたものになっていき、リアルとバーチャルの境界を行き来するようなサービスが次々とが生まれていくのではないでしょうか。
そう考えるなら、「位置情報アプリを常時接続しながらコミュニケーションする世代は、メタバースの入り口に立っている」と言えるのかもしれません。
「位置情報」が、リアルとバーチャルをつなぐ触媒となり、テキストや写真、動画などのように、「コミュニケーションツール」となる世界で「地図」にどんなことができるか――。引き続き考えていきたいと思います。
ちなみに、“NauNau”にはマップボックスの技術が採用されています。リアルとバーチャルをつなぐ「位置情報」サービスに欠かせない要素の1つが「地図」です。「地図技術を使ってサービスをつくってみたい!」という方がいらっしゃいましたら、お気軽にご相談いただければ幸いです。