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事業戦略大学(教員1名、生徒無限大) 第11回 製品や事業を資産と考える「考え抜くための戦略フレームワーク入門」

会社と自分自身に一度撤退を問いかけてみたいですね。やめることを考えるのも必ずしも悪いことではない。

設問1:あなたの会社で撤退すべき製品・サービスだと思うものをあげてみてください

設問2:会社はなぜ撤退しないのでしょうか?

設問3:事業撤退のメリットは何でしょうか?


■ポートフォリオ戦略とは何か

日本では、製品や事業を自分たちの分身のように考え、それらに強い帰属意識を持つ傾向がある。日本のモノづくり文化の強さの原点は、そういった製品や事業に対する愛着にあることが多い。しかし、欧米、とくに米国では、製品や事業は、必要ならばいつでも売買し金銭に換え、その構成を組み替えるべき資産と考える傾向が強い。いわば株の取引の感覚で自社の製品・事業を扱うことが多い。

どちらの考えが正しいという議論はさておき、せっかく育てた事業や製品もその資産価値が低下したまま、ましてや経済的にマイナスのまま放置することは、企業経営では許されなくなってきている

そのような状態を放置しておくと、経営、事業活動そのものが、継続できなくなってしまうからだ。一方、製品や事業を資産と考え、絶えず資産価値を上げる改善、変革を繰り返すことは、製品・事業に関わってきた人たちにも望ましいことである。

それは、製品・事業が存続、発展していくためでもある。資産価値の向上や変革の中には、ふさわしい受け入れ先への製品や事業の所有権の移転、つまり売却もあり得るだろう。製品や事業が衰退、縮小し、停止してしまうよりも、所有者が替わり、積極的に経営資源を投入し、成長拡大する方が有意義なことである。このように、製品や事業はそれ自体、またはそれに関わる人の成長・発展という立場で考えても、「製品・事業は一つの資産」という視点で戦略的に運用すべきと考えるのが現在の経営の常識となってきている。

製品・事業ポートフォリオ戦略は、事業の「戦略ビジョン」の一つで、一般的にはPPM(Product Portfolio Management)と呼ばれている。1970年代に経営コンサルティング会社ボストンコンサルティンググループが考えたもので、基本的な戦略分析、企画ツールとして欠かせないものである。

分析の目的に応じて縦軸、横軸にはいくつかのものが考えられるが、一般的には縦軸に製品や事業の収益性を表す指標をおき、横軸には、参入している市場の成長性または、競合他社に対する相対的シェアをとっている。そして円の大きさを売上規模のイメージにしている。このマトリクスにより、製品や事業を四象限に分類してそれぞれのとるべき基本的戦略を判断する。

20200626_事業戦略大学_図表

このような製品・事業ポートフォリオを作成し、絶えずその利益率と成長性や競争力について、目で見える管理を実践することは、事業が目指す「利益の最大化と資産の最適化」をわかりやすくマネジメントしていることになる。

製品・事業ポートフォリオを使った戦略発想はいくつか考えられる。ここでは、各象限ごとの基本的な戦略発想について述べる。


■各象限ことの基本的な戦略

①成熟市場・低利益率象限での戦略

【撤退、切り離し】ライバルへの事業売却、提携先(非ライバル)への事業の売却、撤退、ジョイントベンチャー化、MBO(マネジメントバイアウト)

【抜本的なコスト削減】                       ライバルとの共同化による固定費削減(製造、物流、販売など)、OEM供給による固定費削減、OEM調達による固定費削減、抜本的な流通改革

【シェア拡大による利益率の改善】
買収によるシェア拡大、値下げによるシェア拡大、技術投資などによるシェア拡大

【事業資産の活用】
技術資産を活用した成長分野への参入、販売資産を活用した付加価値分野へのシフト、その他事業資産の他業界や他用途への展開

②成熟市場・高利益率象限での戦略

【継続的なコスト削減や価格維持】                  オペレーション改善によるコスト削減、品質の向上による価格維持

【シェア拡大による市場支配権の確保】                買収によるシェア拡大、値下げによるシェア拡大、技術投資などによるシェア拡大

【成長市場へのシフト】                       付加価値分野の買収による成長分野へのシフト、成熟分野の早期売却と成長分野への資源シフト、技術資産を活用した成長分野へのシフト、販売資産を活用した成長分野へのシフト

③成長市場・低利益率象限での戦略

【マーケティングによる利益改善】                  低利益率顧客や製品からの撤退、高利益率顧客への資源集中、高い利益率を確保できる顧客の開拓、低価格化によるシェア拡大

【開発や製造などのテクノロジーによる利益改善】
開発、製造面でのイノベーションによる利益拡大、機能統合型新製品などの投入、付加価値を高めた製品統合

【アライアンスによるコスト改善や利益確保】
アライアンスによる新たなビジネスモデルの創造、付加価値の創造、アライアンスによるコストシェア


④成長市場二高利益率象限での戦略

【マーケティングによる売上市場拡大】

顧客認知度を上げる政策(マスメディアへの広告投入など)、参入企業を呼び込む市場活性化策(オープンネットワーク)、コンソーシアムなどによる業界の存在アピール、顧客用途開拓、顧客ソリューションやコンサルティング営業、低価格戦略による市場拡大、新たな販売チャネルづくり、顧客セグメント別製品投入

【開発や製造などのイノベーションによる市場拡大】
テクノロジーイノベーションによるボリュームゾーンへの新製品投入、大幅なコストダウンを生み出す技術への投資、特許をベースにした競合とのアライアンス(参入企業を増やす)

■効果的に製品・事業ポートフォリオ戦略を考えるコツ

このような製品・事業ポートフォリオの基本的戦略と、これまで述べてきた事業戦略企画の方法論を組み合わせると、効果的な戦略が考えられる。

ここでは、①競合分析、②アライアンス戦略、③ドメイン戦略、④市場ポジショニング戦略、⑤ビジネスモデル戦略との組み合わせを説明する。

①競合分析と製品・事業ポートフォリオ

競合企業のポートフォリオを作成してみることをお薦めする。その場合、利益率などは推定にはなってしまうが、戦略を構想する上での限界と割り切って作成してみる。自社のポートフォリオとの比較分析、ライバルの資源配分戦略やM&A戦略の傾向と可能性などが明確にわかってくる。事業の競争戦略としてどの事業をどう押さえるべきかの戦略課題が明確になる。

②アライアンス戦略と製品・事業ポートフォリオ

競争戦略を考えたときに自社がアライアンスすべき企業の持つ製品・事業ポートフォリオを分析してみる。自社の製品・事業とアライアンス先のポートフォリオをうまく組み合わせることにより、互いがライバルに対して競争優位に立てる戦略の可能性が発見できる。

③ドメイン戦略と製品・事業ポートフォリオ

自社のドメイン戦略を達成させるために、どのような製品・事業ポートフォリオを持つべきかを検討する。その反対に製品.事業ポートフォリオを変革することによりどのようなドメイン戦略が打てるのか、それは顧客や競合にどのようなインパクトを与えるのかを考えることができる。

④市場ポジショニング戦略と製品・事業ポートフォリオ

どのような組み合わせの製品・事業ポートフォリオが、事業全体もしくはそれぞれの製品事業の市場ポジショニングをどう変化させ、どのような顧客提供価値を新たに創出できるかを企画検討してみる。

⑤ビジネスモデル戦略と製品・事業ポートフォリオ

狙うべきビジネスモデルを達成するための製品・事業ポートフォリオを企画検討する。もしくは、どのような製品事業のポートフォリオがビジネスモデルとして差別化されたものになり得るのかを企画検討する。


製品・事業ポートフォリオの考え方を活かした事業戦略企画を実施するためには、個々の製品や事業を、他の製品事業と切り離しやすい状況にしておく必要がある。そのためには、個々の製品、事業の経済的な評価やそれに基づいた合理的な意思決定ができる基盤がなくてはならない。

さらに製品・事業ブランドとコーポレートブランドの切り分けを行いやすくすることや、製造、物流、情報関連などの設備を区分しやすくしておくことも同様である。近年、持ち株会社制へ移行する企業も多いが、それは、製品・事業を切り分けられる組織管理構造にしたいという意向もあろう。

このように製品・事業ポートフォリオによる事業戦略は、事業の機動力を向上させることができる。しかし、複数ある製品・事業が簡単には切り離せない密接な関係にある場合、どれか一つの製品・事業を切り離した際、企業の中核能力、すなわちコアコンピタンスが破壊されてしまうリスクが考えられる。また、切り離し対象の製品・事業に対する社員のロイヤリティが極めて高く、モチベーションの源泉になっている場合なども、事業の切り離しや売却は慎重に行わなければならない。


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