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なぜライカMモノクロームなのか
数年前まで卒業アルバムの会社の社員だった。営業兼カメラマンという部署だったが、人との会話が苦手な私は、気づけば病気になっていた。ただ写真が好きなだけで生きていけるほど、社会は甘くなかったのである。
医者から何もするなと言われた私は、一日のほとんどをベッドの上で過ごしていたが、一週間もすると暇で死んでしまいそうだった。写真を撮りに行こうとカメラを持つと手が震える、職場の上司の顔が浮かんでくる。写真を撮ろうとすると仕事の光景がフラッシュバックしてくる。カメラは防湿庫にしまって、カレンダーをガラス面に張り付け見えないようにした。
すこし外出できるようになった私は、新宿にある某カメラ店を訪れた。ライカMモノクロームが置いてあった。手に取っても、ファインダーを覗いても、嫌な記憶は甦ってこない、それどころかワクワクしている。どんな風に使うのか、どんな写真が撮れるのか、ライカで頭がいっぱいになった。ライカMモノクロームは文字通りモノクロ写真しか撮れない、現代ではありえないバカみたいなカメラだ。バカみたいな自分には丁度いいじゃないかと思った。これなら仕事で使うことはない、仕事のことを考えなくていい。それから毎日のようにライカを見に行った。迷惑な客だったと思う。
書面上での退職が決まる前日、これで最後だと思いながら店に行った。店員さんと少し話してローンの申請をした。ローンが通らなければ諦めよう、通れば買ってしまおう(今では反省してます。)、将来のことなんてわからない、なるようになるさ。
気が付くと、中古のライカMモノクロームと、中古のズミクロン50mmF2が首からぶら下がっていた。病気なんてなかったかのように一日中歩いて写真を撮りまくった。
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